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冒険の始まり01

 暁の冒険者商会で、出会ったその女性と簡単な自己紹介をして、今現在僕は、猛烈な食欲を見せる黒剣(ブラッソ)さんを見ていた。


 宿場をかねた飲食の場で、テーブルに出される料理を連続で平らげる黒剣さん。その横で嬉々として彼を見詰める女性は、フィリア・フェム・ファテールと言う名前だった。


 白銀階級(シルバー)の冒険者で魔術師らしい。見た目の感じが「女の子」かと思ったけども、成人したての僕よりも四つも上の二十一歳だった。なので、僕的に女性の部類になる。


 別に僕が聞いた訳ではないけど、「タメ口」に駄目出しを受けた流れで知った。――『女の子』と言ったら歓んでたけど、『それとこれとあれ』は違うらしい。


「フライパン食わんのか?」

「あっ、頂いてます」

「普通、助けて貰った方がご馳走するんじゃない」


 時折くる痛い感じに、黒剣さんは「女、旨かったから良いんだ」とらしいズレを見せていた。僕はその意味は分かるけれど、彼女の周りには『?』 マークが飛んでいる感じだった。


「ところでさ。あんた、オースの真似してそのフライパンから異名でも名のってんの?」

「名乗って無いです。……黒剣(ブラッソ)さんが僕をフライパン認定してるだけです」

黒剣(ブラッソ)って、オースの事。それを言うなら黒の大剣(ブラックソード)でしょ」


 思わず出た彼の呼び名に、金色の髪とテーブルナイフを結構な感じで揺らして、彼女は「じとー」とした目で僕を見ていた。


 まず、本人から黒剣と聞いた。意味の問題でもないけど、黒の大剣ならその方が「しっくり」くる。――でも、大剣(ブレード)の気もする。


「えっと。オースさんの呼び名はあれですけど、兎に角、彼が僕をフライパンだと思っているらしいのです」

「そんなん腰に付けてるからでしょ。色無し銅階級(カッパー)の魔術師が、フライパンで戦うとか何の曲芸?」

「それで焼くと旨いんだ」

「オースはとりあえず食べてて。……すみませーん、料理適当に追加して――」


 何故か追及の激しい彼女の言動に、黒剣さんも「おう」の声で皿の残りに向かっていた。追及で言えば、勿論(もちろん)僕に向けてだった。


 彼女、フィリアの言い分では、黒剣さんがこんな事をする事自体があり得ない事だそうだ。一応「奢る」事でなく、特定の個人と短期間でこんな感じになるのが、信じられないそうだ。


 彼女自身も、黒剣さんに「フィリア」であると認識されているけれど、基本呼び名は「女」だった。まだ、「名前何だった?」と聞かれないだけ関係が深いのだそうだ。――まあ、何と無く納得する。


 唯一、彼のパーティー登録メンバーで、露骨な感情を黒剣さん向ける彼女の努力を僕の持つ「フライパン」はいとも簡単に踏み越えた。――そんな感じになる。


「でさあ、どんな術式使って取り入ったの。魔導師適性あるなら、なんかあるんでしょ。オースの馬鹿みたいな魔力魔量抑え込んで出来ちゃう、そっち系の術式が……」

「そんな事してないです。それに魔眼とかでも、あの駄々もれ感、どうにか出来そうに無くないですか?」

「じゃあ、どうやったのよ」

「何もしてないです。多分、このフライパンが黒剣さんの胃袋掴んだ、的な」


 そんな、怪訝な顔を向けられても、たまたま、助けて貰っただけだし。この街に帰るからってことでついてきたのが本当の所だし。単純に、フライパンで焼くのが当たり前の雰囲気が、ここに来るまで彼にはあった、だけだと思う……。


 追加の料理との隙間で、黒剣さんが手持ち無沙汰な雰囲気を見せていた。それで、僕らの会話に口を挟んできた。――まあ、らしい感じだけども。


「フライパンはどうするんだ?」


 中々に広範囲の質問だ。フィリアの勘繰りの表情で何と無く限定されていたけれども。……とりあえず、フォークに刺したままの芋を口に入れて間を作ってみた。


「こんな初心者。パーティーに入れたって役にたたないわよ」

「んっ、なんだフライパンは俺とパーティー組みたいのか?」

「だから、足手まといだって、えっ、なに?」


 兎に角、口の中の物が喉を通らないと言葉が出せないから真顔で遠い目をしておく。――そんな事一言も言ってませんが……ちょっと興味はあるけど。


「はぁぁ? なによあんたもその気だったの、あり得ないけど。……オースはオースで、なんでそんな嬉しそうなのよ」

「いや、あれで焼くと旨いんだ。どうせ食うなら旨い方がいいだろ。なあ、フィリア」

「あ、えっ、そ、そうだけど……」


 僕から見たら、黒剣さんのそれが絶妙なタイミングの雰囲気がした。勘繰り気味の彼女が、僕にその辺の事を「愚痴った風」なの聞いていたんだろう。


 単純に「思いたった」だけの気もするそれは、フィリアの表情が少し柔らかくなったから、正解だと思う。男女の事はよく分からないけど、彼女の気持ちはそう言う事なんだろう。


「で、フライパンはどうなんだ?」

「いや、そんな事は言って無いです」

「そうか」


 露骨に落胆を見せる黒剣さん。無意識にフライパンに思い入れが出来ていたのかもしれない。母上に貰った特別製のフライパンだから、渡すのは出来ないし――そんな顔をされても……な。


 そこで、フィリアが逆方向に何かを入れた感じになってきた。


「はぁ? オースが、パーティーに入れてあげるって言ってんのに断るわけ?」

 ――そんな事、彼は言ってませんが。


「私が良いって言ってんのに、何か文句があるわけ?」

 ――貴女の許可って、今聞きましたが。


「黙ってたらわかんないでしょ。何とか言いなさいよ。この……フライパン」

 ――貴女まで、フライパン認定ですか。名前聞いて無かったんですね。


 とりあえず、運ばれてきた適当なそれで、フィリアの勢いが少し収まった。何故かそれは黒剣さんの押す手で、僕の目の前に並んだけども。


「えっと、『これからも』と思わない事も無いです。でも、フィリアさんが言った様に足手まといなのは間違い無いですし、それに登録した所違いますから、いきなりパーティー登録とか無理ですし」


「受付の女に頼めば良いぞ」

「そうよ、移籍すればすぐだから。私も他から移ってきたんだよ」

「そうだ、フィリアもそうだ」


 彼女の上機嫌になる様子に、話が可笑しな事になってきたんだけども、何故そんな僕に……いや、フライパンか。まあ、分かるけども。

 それに、僕に取っても悪い話ではない。――「餌にも餌を」の場景が浮かんで来ない事も無いけど。


 そこからは、何と無くなし崩しに暁の冒険者商会に行く流れになった。当然、もう暗くなってるので、宿場に部屋を取って事に……。


 ここで、フィリアの『ゴゴゴゴゴ――』と言う雰囲気に押されて、一人で部屋を使える様になった。


 簡単に言えば、今から部屋が取れなくて彼ら――黒剣さん――の部屋になりそうになる。それを彼女のもっともらしい理由――信用度の話――とその雰囲気で、僕が彼女の取った部屋を使う事になった、と言う事だ。


 黒剣さんの後ろに立っていた彼女が、若干怖かったのが印象的で、もっと言えば「そうか」に彼女は拳を握っていた。


 まあ、大人の男女の事だから僕には関係ない。一応成人年齢に僕も達しているけれども。それよりも、あの(いびき)を閉鎖的空間で聞けるのは凄いと思った。まあ、彼女はそこまで考えて無かった様だけど……


 ……当たり前に睡眠を得て、僕は清々しく朝を迎え朝食的な席に着いた。街に居る時は普通あまりそうしない。一般的にもだけど、黒剣さんは当たり前に食べるからそうした。


 フィリアも水分だけだから、僕も紅茶にした。そこで彼女が自分で「舞い上がっていた」と言うのを話していた。詳しくは聞かなかったけど、単純に、何か別の問題があったと言っていた。


「部屋に入ってやな予感はしたの。クエスト中と同じだったのよ、オース。鼾もだけど、あの駄々もれのあれは別の意味で障害ね……」


 そんな話されても困るけど、彼は当然に床で座って寝たらしい。……色々頑張ったけど、結局、彼女の感性の問題で彼の隣では寝れなかったそうだ。


 ――そんな事知らないから、なんか機嫌悪いし。


 そんな雰囲気は黒剣(ブラッソ)さんには関係無く、彼はマイペースだった。どこまで本気なのか疑問もあるけど、とことん興味のある事しか反応がない。――そんな感じになる。


 朝食的なのを終えて、可愛い女の子で肉食系なフィリアと起きてる時は駄々もれでない黒剣さんと一緒に、暁の冒険者商会に向かった。


 まあ、道中の見た感じがそんな風だった。


 当然の顔で黒剣さんが「受付の女」と声を出した流れで、僕が事の次第を説明する。何故かなし崩しだった。フィリアは相変わらず、黒剣さんにくっついている。


 個人的な感情で、シェリーさんなんだけども、彼女はカウンターの向こう側で、何と無く難しい顔をしていた。


「月の雫冒険者商会でしたね。一応繋がってますのでここで手続きは出来ます。ですけど、移籍となるとあちらの移籍金が少々お高いので。……宜しいですか」


「いくら位ですか?」――とりあえず、そんな話なんだと聞いてみた。シェリーさんは、明らかに黒剣さんを見ていたけど。


「はぁ? それ、ぼったくりよね」


「月の雫さんの規定では、そうなってます。……その通りと私も思いますけど、貴族の子弟の向けにされている様なので、色々と組合ギルドでも異質な所ではないかと思いますよ」


「あんた何でそんなどこに入ったの。と言うか初めに説明あったんじゃない」


 金額の流れで、フィリアの矛先が僕に向いてきた。一応、見た目は僕より年下に見える彼女の雰囲気は、年相応になっていた。


「認定魔術院からの紹介で……。あ、いや、あの」

「足りるか?」

黒剣(ブラックソード)さんが宜しければ、そのまま手続きしますよ」

「何で、オースがそこまでするのよ!」


 あくまでも、フライパンがらみの言動にフィリアが呆れた顔をしていた。若干、僕しかフライパンを使えないと誤解してる感じもある。


「わかりました。では、えっと、フライパンさん。登録した物を魔動機にかざして下さい。手続きの為の確認をしますから」


 黒剣さんの頷きに、彼女は僕にそう言ってきた。――貴女もフライパン認定とは驚きました。


 そうは思ったものの、一応、促されるまま一般的な登録用のそれを出して、腕ごと魔動機に向けていく。……開示される魔方陣が展開して、シェリーさんは何やら作業する仕草をしていた。


 そして、暫くして彼女の再びのむずかし顔が見えて、その彼女視線が僕をその中に入れてくる。


「あの、登録抹消されてますね。……ウィル=ライト・オブ・ファーシルさんで宜しいですよね?」

「はい、そうですけど。えっと、どういう事ですか」――まあ、何と無く分かってたけど、探しもせずに速攻ですか……


「抹消理由は『クエスト中消息不明の後、死亡』の扱いになってます」


「フライパン、死んだのか?」

「死んでません。黒剣(ブラッソ)さんは誰と話しているんですか! 」

「ブラッソって誰だ?」

「昨日、何と無く話の流れで貴方の――」


 その辺りで、フィリアに肩を叩かれてシェリーさんの方に促しを向けられた。


「取り敢えず、御家族に連絡された方が良いですよ。特に、ファーシルさんは貴族の方ですから」


 言われて、その事に思いが行っていない事に……今更気が付く僕がいた……。




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