表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/17

出会いの森03

 黒剣(ブラッソ)さんの「見つけた」から広い所に移動すると言われ、後をついて開けた場所に出た。目的の奴も、こっち見つけたらしく同じ様に移動しているらしい。


「何で分かるんです?」

「駄々漏れだからな」

「何が?」

瘴気 (しょうき)。いや、魔力か。そんなのだ」


 何と無く分かる気がする。基本的にみんな魔力を持ってる。魔力があれば、魔体流動がある。それは魔獣だろうが魔物だろうが同じだ。

 その動きが分かるなら、黒剣さんの言う、駄々漏れも分かる……


「来たぞ!」


 黒刀身の大剣を抜いて、雰囲気が変わる黒剣さんの声と共に、そいつは姿を現した。――ああっ、駄目な奴だ……これ。


 黒剣さんの駄々漏れ感が僕にも分かる。相対するそいつも、思い切り駄々漏れな感じだ。そう、本で見たままの魔獣。


 ――戦牙黒王獣(ウォーミッド)――


 火熊の群れで四散した僕らが、駆除するなんてあり得ない奴だ。

 四足で最強クラスの魔獣。黒い獅子のようで虎の感じに長い牙、一瞬で「どれくらい」はわからないけどデカい。――や、や、ヤバい奴だ、これ。


「結界が切れてたな」


 黒剣さんの声が聞こえたと同時に、身体(からだ)が後ろに飛んだ。首根っこを捕まれて、引き下げられた感じたった。


「ほげぇっ」の漏れた声に浮いた感じで、僕は黒剣さんがウォーミッドに斬り掛かるのが見えた。


 走馬灯の様な感覚で、僅かな時間に音が二回。転がる様に回る僕がそれを受け入れて、前を向いた時には黒剣さんが防ぐ感じに見えていた。


 出会ってから初めてだと思う。黒剣さんが攻撃を受けてる。爪と牙に剣が重なる音が聞こえてきた。でも、何が起こっているのか分からない。


 だけど、その場所が始めに立っていた所なのは分かった。撫で下ろす感覚に、草木の弾ける音と風を切る剣の動きで遮る木々が砕けるのが、場景として入ってくる。


 それを見て、更に後退りながら、何とかと思ったけど。黒剣さんの薄ら笑いの様な笑顔が頭に入ってきた。その瞬間、黒刀身が煌めき、魔力の刃でウォーミッドの頭が胴体と切り離されて……落ちた。


「あり得ない……」


 崩れ落ちる胴体と何故か笑顔の黒剣さんとの光景が、僕の目に場景として入って来た。

 当たり前に蹴飛ばす感じで、動かない事を確認する黒剣さん。褐色の肌と黒い鎧が、鮮血らしきで何ヵ所か色濃くなっていた。


 彼は、鎧や服から所見える褐色の色合いを気にする事なく、僕に向かって歩いてきた。

 僕に「やらんぞ」と思いもしない認識の押し付け、そいつの死体に手を向けて恐らく転写をしていた。


「要りませんよ。大体、疑われるだけですから」

「腹へったな」


 壮絶な光景の後、当たり前に出た言葉に何故かホッとして、フライパンに手を掛けている自分に気が付いた。若干会話が噛み合わないのはもう慣れた。


「流石にこの状況で、獣の類いはいないかと」

「そうか」


「そうか」とかではない。辺り一面惨劇の様子だった。それに駄々漏れで、恐怖な魔力を撒き散らしていたんだ。そんな中で、鳥や耳兎とか尾狐とか鼻狸なんか寄り付く訳がない。


 そう、食べるの単語では、目の前の戦牙黒王獣(ウォーミッド)のそれしか見えない。――聞くべきか? ……だった。


「『それ』食べるんですか?」


 フライパンに掛かる手を離して、そんな言葉を黒剣さんに向けてみた。若干「それ」に引っ掛かって彼は頭を動かしている。そんな風に見えていた。


「あれか、前に食ったから喰わんな」


はぁ?……四足最強クラスの魔獣、戦牙黒王獣(ウォーミッド)を既に攻略済みですか。――あり得ない。目の前でみたけど。


 一見、大きな黒い人の黒剣さんは、今は普通だった。そう見るといい男に思える。でも、さっきの薄ら笑いがちらついて、あの光景が鮮明になった。――まあ、黒階級(ブラック)だしな。


「じゃあどうしますか」

「帰るか?」

「いや、僕に聞かれても」


 またまた、そうかの雰囲気で黒剣さんは何かを思い出した様に「あっ」と声を出した。


「結界……聞いて無いけどな」


 結局、黒剣さんは、痕跡をたどり通じる穴を塞ぐ結界を修復していた。――その魔動器あから様です。それを持たされて聞いて無いとかないです。


 それで、結構な感じで歩いたら辺りは暗くなっていた。いい加減、思い出した様に「腹へったな」と言い出した彼は今、夕食にあいつを食べている。……そう言う事になる。


 勿論、僕は保存食だ。と言いたかったけど、目の前に、肉付きの短剣を突き出されて「最初のはやる」と言われた。そう、僕との間に焼けた肉の盾のみ。刃先はちょっと出ていて、それで観念した。


 ――フライパンのせいで、微妙に旨かったのが……悲しい。


 魔獣を食す初体験をして、何の感動もなく黒剣さんの「寝るか」を聞いて寝る事と格闘した。まあ、結局寝たんだけども。彼と二回目になるそれは、疲れもあって早かった気がした……。


 ……翌朝、恐らく大分放置されていたと思う。黒剣さんが耳兎を二羽手に持ち「捌いてある」と当たり前の顔をしていた。どう考えても、周りにその気配は無かったから。――まあ、出しましたよフライパンは。はい。


 付け合わせに食べれる茸を付けたら、また耳しか食べれなかった。茸はその辺に沢山あったので、お腹は満足出来たけど。


 その辺の茸を焼いたら、黒剣さんも最初は苦い顔をしていた。焼くではなく炒めるだったけど。始めは、当たり前にそんなもの扱いをしていた。


「そんなもの喰えるのか」

「知識だけはそれなりにありますので」

「そうか」


 そうかの回数を数えようか? と思った位だ。そんな黒剣さんが、口に入れるそれにも結構な勢いで「旨い」を並べていた。


 喰えるのか? 知ってますからの流れで言えば、僕の知識は記憶を引き出す魔動術式になる。単純に食べれそうな茸に「食べれるのか?」で調べる(イグザミン)を使っただけだ。


簡単に言えば見聞きした記憶があれば、僕のそれを使って調べる事が出来る。そんな術式になる。――普通の人はこんな術式使わないけど。一応、魔導師目指しているので……。


 まあ、僕の事は良いけれど、結構な頻度で「フライパン。お前名前何だった? 」と聞かれるので帰りの道中で僕の呼び名は「フライパン」になった。まあ、助けて貰っているのでそれは受け入れた。――仕方ないと言えばそうだけど……だ。


 駄々漏れ全快で早足な彼を必死に追従して、ただ疲れだけが起こった帰り道は、何事もなく森を抜ける事が出来た。


「俺はあっちだ。フライパンはどっちだ?」

「ここから一番近い街がリーンバーンなので一応はそっちに」

「なら一緒だな」


 馬鹿なのか? と思わないでも無いけれど、基本的に、会話がこんな感じなのでこういう人なのだと思う。若干笑顔な彼は、多分僕よりフライパンの方が嬉しいのではと思った。――既に、当たり前になってたし。


 でも、案外黒剣さんと話すのが楽しくなった。街に向かう道すがら、色々話しかけて「そうか」の回数を数えたりした。――基本、人は苦手だけど。


 この間に、黒剣さんの本当の名前オース=ノワール・リーパを聞いた。唐突に「そう言えば、名前を聞かれたな」と突然だったけども。――それで、何となく一人なのが分かった気がした。まあ、僕もぼっちだし。でも、結構慣れると面白い。


 そんなこんなで、街について「夕飯奢ってやるから待ってろ」と彼の所属する暁の冒険者商会についていった。老舗で支店も沢山あって、組合(ギルド)でもかなり大きな部類に入る。


 僕の月の雫冒険者商会は、あの森の反対側の街――スラーク――限定で小さな所だから、帰らないとあの後どうなったか分からない。――でも、置き去りだったしな。まあ、死んだと思われている筈だな。


 作りは同じ感じの店内で、受付には女性がいた。

 ――まあ、普通に可愛い。僕と同じで栗毛色の髪が波形(ウェーブ)して、僕のは癖毛だけども。


 何と無く、黒剣さんの後について歩いて行くと、その場の冒険者達と気さくに彼は挨拶を交わしていく。その感じのまま、彼は受付から声を掛けられていた。


黒剣(ブラックソード)さんお帰りなさい」

「おう、そう言えば閉めといたぞ」

「ありがとうございます。結局、あれでした?」

「ああ、そうだな」


 そんな会話を行き成りに、黒剣さんは転写用の魔動機に自分の魔装具をかざしていく。そのまま、口頭でつけ加えて報酬なりの手続きをしていた。


 その様子を見ていると、受付の女性がと目があった。――まあ、見る目が好奇心を映しているのは何となく分かる。


「そちらの方は?」


 黒剣さんの「どっちだ」の雰囲気にその女性も慣れた感じに「そっちです」と示していた。僕は軽く会釈をして、彼女に愛想を貰った。


「ああ、フライパンだ」

「フライパン!?」

「フライパン。お前名前何だった?」


 驚く受付の彼女から、黒剣さんは僕に向き返り何度目かの雰囲気をみせていた。まあ、こっちも慣れた感じに「フライパンこと」で始めて自己紹介する。


「ウィル=ライト・オブ・ファーシルと申します。『月の雫冒険者商会』の冒険者をしています。あの森で黒剣さんに助けて頂きました」


 若干「拾った」の単語が被り、受付の彼女の「ああ」の表情が見えていた。その表情に、多少どっちだ? の感じは僕にもあった。――何が『ああ』なのか気にはなる。


「それは大変でしたね」

「そう言えば、受付。名前何だった?」


 どうでもいい感じな笑顔に、唐突な言葉が乗っていた。これも慣れた感じに「シェリーです。いい加減覚えてくださいね」の少し違う笑顔が見えていた。


「じゃあ、飯食いに行くか」

「ありがとうございます」


 黒剣さんの言葉に反応して、フライパンに手が掛かる自分もあれだけども、一応ご馳走してくれるらしいので感謝。その会話に商会のドアが開く音がして、駆ける感じの足音が聞こえた。


「オー――ス、置いてくなんてひどい」


 声と共に、黒剣さんに飛び付く女……の子な感じ。首に掛けた腕でぶら下がっていた。困惑を見せるかと思った黒剣さんは意外と冷静に見えた。


「女。いつの事だ?」

「今回の依頼の件。ちょっと待ってて言ったのに」

「そうか」


 彼女のヒラヒラの感じな服装が、黒剣さんが動くのに併せて普通に揺れていた。まあ、冷静な雰囲気の彼は、僕の感じたままの彼だった様に見える。「置いてく」なら、パーティの仲間か何かなんだろうな。


 別にそんな目で見ていた訳でも無いのに、その彼女は僕の目線に気が付くとあれでも見る感じに、視線を返してきた。


「何? こいつ」

「ああ、フライパンだ。拾った」

「はぁ? オース、こいつ人みたいに見えるけど」


 黒髪の大男と金髪で華奢な女の子の対比に、ぶら下がる構図が乗って「なかなか」な絵図らに見える。そして、僕は黒剣さんから見るとフライパンらしい。


 まあ、一応自己紹介をした方がいいのだろうか。――そんな事を少し思ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ