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出会いの森02

 光に当てられた朝の匂いが鼻をついて、僕は自分が寝てしまったのに気が付いていた。あたり前に、明るさを頬で感じながら、踏みつけられた足の痛みに目を見開いていく。


「痛いです」

「おおっ、探したぞ」


 そんなつもりで、存在の抑制(サプレッション)を発動しておいた訳ではない。それに消える訳では無いのだから、「探したぞ」はないと思う。

 上げられた足の持ち主は、あたかも僕が突然現れた様な顔を向けていた。痛がる素振りを見せると、黒剣さんは空いていた手で頭を掻いていく。


「朝飯取ってきたぞ」

「魔獣ですか?」


 咄嗟(とっさ)の反応。昨日の場景が頭を過る。勿論(もちろん)、手に持つそれは見えていた。だけど、頃合いに仕上げられた二羽の獣的な何かが分からなかった。


「耳兎だ。捌いてある」

「はぁ」


 若干、顔が可笑しい感じの自覚があった。黒剣(ブラッソ)さんの嬉しそうな顔の意図が分からない。もう、焚き火の場所は白と黒の色合いになっている。


 ――生で食べろと?


 多分、寝起きの頭がそのままを表情を見せていた。その感じに黒剣さんは、催促をする様に「頃合い」を揺らしてくる。


「あれだあれ。いや、それだそれ」


 もう、突き出す感じに僕の腰あたりのフライパンを指していた。円形の持ち手が少し長い、普通の形のフライパンのそれをになる。


 一人用の直径二十数セーグ――二十数センチ――程のそれで、母上は「護身用にも」と胸を張っていた。持ち手が取り外せるから有りと言えば――まあ確かに。


「フライパンですか」

「それだ。フライパンと言うのか」

「えっ……」


 まあ、あれだった。フライパン知らないとかアリですか。まあ、この人ならありかも知れない。兎に角、寝起きで言われるままにそれを出していく。


「えっと、焼くか炒める。一応揚げるも蒸すも出来ますけど、どうします。頑張れば……」

「焼く……。炒めるってなんだ?」


 一応、何と無く「炒める」――油を引いて混ぜながら熱を通す的な――と答えて、結局焼いた。僕は料理人では無いので聞かれても困る。答えた方がこれだから、聞いた黒剣さんは即答だった。


 丸焼きで二羽を順番に。無理やり乗せたけど流石に魔動器の万能鍋(フライパン)。何とか形にしやがった。耳しか食べれなかったから、言葉が自棄(やけ)になった訳ではない。――旨かったけど。


 まあ、父上と同じに黒剣さんも、胃袋を掴まれた様だ。――それがどうした……だけど。


 意外な一面を見せてくれた黒剣さんだったが、本職の冒険者のそれを見ると、あの顔が本気だったのが分かった。

 因みに、明るい所で見た黒剣さんの階級章(クラスマーク)(ブラック)とか。――まあ、あり得ない。でも、目の前にその国家級冒険者が居るの訳だけれども……


 本気の。いや、仕事の黒剣さんが「やけに多いな」の声で、「一、二、三 」位の勢いで犬型の魔獣を斬っていた。微妙に獣道を歩く僕らに、ふらふらと寄って来るのもいた位だったし。


 寄って来る感じの「やけに」のくだりは、多分僕だろう。前でも、後ろでも、右でも、左にいても、その方向から魔獣なりはやって来たからだ。


 当たり前だけど、僕も魔導師を目指す魔術師だから、攻撃魔法だって少なからず持っている。ただ、流動――魔体流動――を合わせて魔方陣を展開した頃には、遭遇する魔獣の類いは「息してない」状態だった。


 言わずもかな、国認定の魔術師や魔導師なら起動呪文とどっちが早い位の勢いがある。

 僕は駆け出しそのままな銅階級(カッパー)の冒険者だ。だから、魔方陣の展開を見ないと起動――魔力発動――が出来るかのは確証が無いから仕方ない。


 ――まあ、術式はたくさん知っているけれども。あの書庫の本は、コンプリートしたし。ぼっち的には、何ならお代わりしたし。


 結構な感じで、黒剣さんは森の中を「目的の奴」を探す様に歩き回る。その時々で魔獣に出くわして、同じ光景が続いていた。

 実際のところ、魔力の放出の振り戻しで魔力魔量が上がるから、体感して使いたいところではある。――間に合わないけども。


 それなりに歩いて、黒剣さんが仕事をしているのを見ていた。それで「飯時だ」の言葉に、また魔獣の肉かと思ったけど、今回は違っていた。

 置き去りにされたのは「あれ」だったけど、一応、獣的なのを取っては来たらしい。


 火すら起こさないのを見ると、魔動器の万能鍋(フライパン)で焼くのが当たり前だと言う感じなんだな。まだ、三回目だけど、そういう事らしい。

 因みに、黒剣さんは一回食べた魔獣は基本食べないと。昨日の火熊は、食べる物が無かったから仕方なかったと言っていた。


 僕の食べる物に関しては、それ用の魔導筒樽(マジックバレル)――握れる位な筒とか樽状の形の物――に入った保存食があるから良いんだけと。

 まあ、取って来てくれるから減らなくてありがたい。と言うか、食糧全部現地調達とかなんだろ?


 一応に、適度な焼き加減で焼かれたそれは、黒剣さんの胃袋におさまった。僕は足しか食べて無いけど。

 まあ、満足げな顔で彼が納得してくれたからいいのか。そんな、食事の流れで少し突っ込んだ事を聞いてみた。勿論、只の好奇心という事で。


「まさか、魔物とかは食べないですよね」

「喰うぞ」

「食べるんですか」


 若干、聞いた事に後悔したけど、それで逆に気になってしまった。例えば、と続けて聞いた話は、ゴブリンは不味い。オークは大変不味い。コボルトは意外と行けたらしい。


 スライムは無理――焼いたら無くなった――で、リザードマンは亜人だから食べない。後、トロールは臭いとか、オーガは……辺りで聞くのを止めた。思考が付いていけなくなったから。


「始めから」に何かしらあるようだ。当たり前だけど、魔物を食べるなんてのは普通じゃない。

 まあ、人の嗜好(しこう)――好み――だから本人には言わないけど、大体、街まで一緒に行ってくれる彼に言える立場でもない。


 現状の目的は街まで帰る事。黒剣さんの仕事、まあ、一応僕らの依頼もそうだったし、それが終わらないとこの森からは帰れ無い。

 いや、黒剣さんが帰らないので、一人で帰れそうもない僕は現在「囮体験実施中」だった。


 流石に、僕が気付いていたくらいだから、黒剣さんも分かっていたらしい。それで「餌」になって彼の少し離れた前を歩く事になった。


 まあ、自覚のある餌ですから、「そりゃあー来ますよと……」大きいのから小さいのまで色々。微妙に獣道と言うのか、魔獣の通り道らしきを歩く、僕を目指してですよ。


 初めは、結構な距離で後ろからついて来る黒剣さんが、飛び出して来るものだと思ってたけど、「おらぁぁぁ――」と大声「だけ」が飛び出して来た。


 その威嚇する感じに、僕が固まって……魔獣も固まって「良いぞ――やれ」と黒剣さんの続く声。


 一瞬威圧の咆哮(ソウルブレイク)かと思ったそれから、僕が解放された時には魔獣は逃げていた。まあ、メンタルは魔獣の方が上だったようだ。――あっちも逃げたけど。


「魔術やればよかったろ」

「急に来たので……」


 黒剣さんが、後ろから短剣を回しながら近付いて来て、怪訝(けげん)な顔をしていた。「急に」のそれに「大声が」は入れなかったけど、周りのを見ると何体かの魔獣が倒れ息をしていなかった。


 何故かは直ぐに分かった。果敢にも、戻って来た元は狼だと思う犬型の魔獣に向けて、黒剣さんが放った大型のナイフ見たいな魔力の刃が、複数そいつに刺さって動きを止めたから。恐らく剣技か何かだと思う。


「良いぞ。やっても」


 黒剣さんは、とどめを刺しても良いと言っていた。僕にはそう聞こえた。何回か魔方陣を展開して、ため息な雰囲気を出した僕の事に気付いていたんだと思う。


 ええ、やりましたよ。丸焦げにしてやりました。余裕さえ有れば、結構な威力の魔動術式も出来るので、一対一なら確実にヤられるのは僕だと思うその魔獣でも丸焦げに出来たりしますよ。


 まあ、一瞬魔術院でどこぞの貴族のボンボンのあいつが、長い事かけて流動を合わせて、「究極の……」で(スカ)かしてたのが頭に過ったけども……。


 冒険者になって、本格的なのは今回が始めてだった。それで、現実的に魔動術式を使うと言うのは、難しいと思った。「常に冷静に」 教官だった人の口癖。今なら分かる。幸いな事に、魔導師に至る要素は僕にもあったから。


 ただ、本当意味での魔導師になるのは、難しい事だと実感した。一応「餌にも餌を」という黒剣さんの方針で、現実的な部分を嫌と言うほど知ったからだった。


 正直に言うと、丸焦げにしたのが始めての成果だった。当然、冒険者の認識用の魔装具に転写しておいた。

 まあ、報酬は出ないと思うけど。でも何故か黒剣さんが、転写した形跡が全くないことが不思議になる。


「倒した奴の(コア)――心臓らしき――を転写しないんですか? 」


「途中のは面倒くさい。まあ、百倒したって言ったらそれで通るからな。……最後のはやらんぞ」

「いや、そんな事。思ってもいませんよ」


 論点はそこか? な感じの黒剣さんだけど、流石は黒階級(ブラック)って事なのか「口頭」で通るなんて。転写しても疑われる人も時々見るし。――うちの商会があれなだけかもだけど。


「あー。なんだ、そろそろ出てくるぞ。……そう言えばフライパン。お前名前何だった?」

「はあぁー。あの、フライパン認定から、本人の名前聞き直しますか」


 フライパンを気に入ったのは分かるけども、癪なので、もう一度、「ウィル=ライト・オブ・ファーシルです」と名乗ると当然の顔で「何だ、貴族か」と返って来た。――予想通りだけど。


 とりあえず、それをやり過ごして、始めに気になった「そろそろ出てくるぞ」の方に話題を向けてみる。何が出てくるのかは何と無く分かる。


「散々煽ったからな。『主』としては黙ってられないだろ。まあ、フライパンがいたから雑魚に広めるのが簡単だったな。……助かった」


 この人は、あれなのか何なのか分からないけど、魔物か魔獣と縄張り争いでもしているのだろうか? ――まあ、フライパン認定は……。


「いたぞ、見つけた。なかなかデカい」


 そう言われて、周りのを見て……とりあえず匂い嗅いでみた。……色んな意味で臭いだけだった。



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