第一層……遭遇
僕に、走って来たと思ったエリルは、剣を振り上げて、高位徘徊師に斬り掛かる。
単純に、僕にでは無く『僕に向く高位徘徊師』の背中に向けて、走っただけだった。
――ああ、勝手に出しきった感出すのは駄目だ。散々云われただろ、兎に角考えろ。
そんな自責な僕をおいて、エリルは言った通りにしてくれたのだ。――飛翔とまではいか無いけど、台座の幅広な一段目を足掛かりに跳んだ、彼女の姿勢は綺麗だった。
そして、彼女の斬撃が奴を捉えたあたりで、僕は、羽織の内側から魔量充填の魔導筒樽を取り、親指て片方の先端を押し込む。
魔力魔量が減り、魔体流動が薄くなった感じが、それで大分戻ったのを体感する。そして、そのまま流動を≪魔動防護術式≫の術式に合わせて、飛び退くエリルを対象に発動した。
その間に、エリルの一撃を受けた高位徘徊師は、僕を置き去りに旋回する。
それで、僕の爆裂の火焔流弾が効いているのが分かった。
くすぶる感じの背中に、斜め後ろからの斬撃の傷痕。それが、ダメージを与えられたのを僕に実感させてくれる。
――流石に、爆裂の火焔流弾凄いけども、こんなの何発も発動するフィリアって……。
そんな余計な事を考えれる、呆然からの帰還。多分それは、シャルロッタのおかげだ。ここ、二ヶ月程、彼女から「術式を使うなら、考えるのをやめない! 常に流動を感じなさい」と散々云われていた。
――まあ、何度も繰り返し。犬の躾と同じ感覚だったんだろう。でも、今は感謝だけども。
余裕が出来た訳ではないけど、正気は保てた。それで、高位徘徊師が、エリルを追い掛け、小刻みに魔力発動をし、彼女があからさまにかわすの状況を、見据えてみた。
そのまま、当たり前に≪魔動防護術式≫を自身掛けて、エリルが、魔力発動を避けなから、死角を探す様に動くのを見る。
若干『奴』の動きが遅い。先が見える訳では無いけど、エリルに慌てた雰囲気は無かった。
僕は、母上が持たせてくれた、何故か『内緒だから』の魔量充填の二本目を使い、選択肢を変え――≪沈黙の空間≫を無詠唱で高位徘徊師を対象に発動した。
――詠唱が必要な、古代魔法ならそれで止まる筈。まあ、無詠唱で発動出来る、魔動術式には効かないから多分誰も使わないけど。
一瞬の意味不を抜けて、魔方陣の展開に続き見えない障壁で奴を覆った。――発動者の僕には見えるけど。そう、なんか無駄な知識は役に立った。いや、知識に無駄なんか無いのかも。
そんな頭と感覚では分かる、数々の『意味不』な術式の一つ。
それで、魔力発動の止まったのに気付いたのか、高位徘徊師は、僕にゆっくりと向いて来る。やったのが僕だと、分かるかの様に。
――でも、そこから動けないなら、怖くないし、こっち見たら、エリルが……
発動の継続と飽和までは楽勝の感じは、高位徘徊師が台座から足を動かしたので、消え去った。
――動きますか? まあ、そうかもだけど。
ただ、僕は、ある種の才能とまで云われてる、最強の囮だ。本格的に冒険者になってからも、追い掛けられ、迫られるのには馴れてる。
だからなのか、自分でも驚く程冷静に、そいつの『ゆっくり』を見ていた。
勿論、黒剣さんは後ろにいない。フィリアも当然そうだけど。でも、奴の後ろには、エリル=ライラがいる。彼女は強い……。
――それに、今は僕も只の囮じゃないからな。
そんな強気で、高位徘徊師の動きに、回避から攻撃に体制を変えたエリルへ、僕は『タイミングを』のつもりで、軽く手振りする。
そして、≪自動防護術式≫を待機状態にして、奴との距離をはかった。
僕は周りが良く見える。いや、人の目が気になるから、人の表情や雰囲気が良く見てしまい、その人の感情まで勝手に想像する。――単純に被害妄想? そんな人目をうかがう感じの延長で、僕の性格の問題だけど。
そのあたりで言えば、エリルは了承の様子で表情も余裕がある。そして、僕に釣られるそいつは『怪訝と怒気』あたりに見えた。
――まあ、人じゃ無いけど。
そんな奴の感じに、僕はフライパンの竜水晶に流動を合わせて、≪爆裂の火焔流弾≫を流動待機し機会を狙う。
徐々に詰まる距離で、エリルとタイミングを合わせる感じに、僕は身体とフライパンを揺らしていた。
そこに、最初の一撃で気絶して空気になってたあの戦士が斬り掛かる姿勢で、僕の視界に後ろから入って来る。
「ざっ、けんなっ――この野郎!」
当然に奴の正面からだけど、今度は真剣な雰囲気で、剣身がうっすら光っていたから、彼も本気なんだろう。
そう感じたままの勢いで、その戦士は振り払う奴の腕を斬り落とした。それに間髪入れず、エリルの剣が奴の背中を斬り裂く。
「ぐぎぎゃぁぐ――」
その連続で、沈黙の空間の効果の消失を告げる様に、高位徘徊師の叫び声がした。
その声と飛び退く二人を確認して、僕は爆裂の火焔流弾を再起発動の体勢に入る。
フライパンを振り抜く感じに、魔方陣を展開し、その発動の威力を増す為に明確な詠唱を――
そう思ったタイミングで、奴が僕を凝視して口を開け、閃光をためているのが見えた。
――はっ、そんなの出来るのか!
「≪爆裂の火焔流弾≫」
なりのまま、魔力発動をして、「ウィル!」と僕を呼ぶエリルの声と「おらぁぁぁ――」の叫びが聞こえた。同時に、奴を襲う炎焔と放たれた紫色の波動が激突する。
僕の視界が破裂する光で消えて、魔動防護術式の自動発揮を体感する。その瞬間、腕を掴まれて身体が浮いて、真横に飛ぶ感覚が唐突を告げてきた。
それで流れる視線には、黒剣さんが高位徘徊師を両断する光景が見える。
「大丈夫か? ウィル殿」
「はぁへぇ」
気遣う声を聞き、変な声を出してその先を見る。それは、僕の腕をを抱えて横っ飛びした、ピエールさんの声だった。
「えっ? どうして」
「あの御仁恐ろしいな。流石と言うには凄すぎる」
周りを見る余裕は無かったけど、そのまま続けられたピエールさんの話では、隔離の障壁を黒剣さんが叩き斬ったらしい。
――まあ、普通はあり得ないけど。あの人なら、もう驚かない。……そんな風な僕は、唐突な声を聞く。
「フライパン! 最後のためる必要無かったでしょ。何やっての!」
「はぁ……」
ピエールさんに感謝して、地に着いた足が戻ったあたりに、呆然な僕はフィリアの駄目出しを食らった。
「でも、よくやったわ。えらい!」
「はぐっ!」
駄目だしの直後に、フィリアに抱きつかれる。足に力か戻ってなかったら、倒れてたくらいの勢いたったけど。
――いや、行きなり。……でも、ちょっといい匂いがするけども。
「おい、少年。変な事考えない無いでしょうね」
「えっ、いや、あの……」
強引にお約束を作られた気もするけど、フィリアは、ほっとした様子に、僕から離れて両肩に手を乗せてくる。
「でも、今いいよ。本当に良かった。シャルに頼まれてるから、もう、変な事しないでよね」
それに、僕のせいではないと、言おうとしてやめる。
フィリアが何かを話しかけているのを聞きながら、周りを見ると、あの執事で魔術師の人がエリルと何か話していて、僕に気が付き会釈をくれた。
それと、黄階級のパーティーのあの戦士は、仲間に凄い勢いて怒鳴られている。それに、ダニエルの心配から揺るんた顔も見えた。
このあたりで、少し現実に戻って……震えるのを自覚する。
――やれば、出来るんだな。実感無いけども。色々確認しないとだけど、まあ、少し後だな……
――バチーン――
「あがっ!」
「フライパン、魔術使えたな」
強烈に背中を張られた音と痛みで、僕は苦悶な表情を作ったと思う。出した僕の呻きに続いた、黒剣さんの声で誰に何をされたか理解する。
――衣装甲突き抜ける衝撃って。痛い。それに今さら使えたなって、この二ヶ月はいったい……
「い、痛いです」
「ああ、俺もちょっと痛い」
予想外の答えと肩に掛かる黒剣さんの腕。そこから見せられる、あの台座の現物。
「お前のだ」
「はぁ」
「貰っときなさいよ」
フィリアの声に向いた先に、エリルの頷く様子。そこから目の前の装飾品に目を向け、手に取る。
――なんか円柱状の竜水晶。まあ、後で調べよう。
そんな事を思いそれを見て、周囲でコテージが展開するのを感じた。少し早いけど野営と言う事になったらしい。
でも、それよりも、コテージは凄いと思った。




