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深淵へ準備万端!?

 深淵の迷宮に行き着く前に、特訓で疲弊した僕は、リーンバーンの暁の商会で、シェリーさんの笑顔を見ていた。


「一ヵ月で橙銅階級(オレンジカッパー)になるなんて、ここでは新記録ですよ」


 結果的に、ここ一ヵ月で、信じられない程の探索(クエスト)を、転位型の魔動機と高速移動出来る馬車を使い、こなしていた。勿論、シャルロッタの表に出る後ろ盾のおかげで。


 ――まあ、新記録って言われても、いきなり銀階級(シルバー)とか白銀階級(プラチナ)とかあるから、微妙だけど。


「あ……ありがとうございます」

「こちらこそ。不良案件が片付いたので、助かりました」


『特訓』の体裁で、急造のパーティーの連係確認を目的に、フィリアが綿密な計画を立てて、『馬鹿なのか?』って数の『本気ですか?』な内容だったけど、その結果が僕の昇格という感じだ。


「一人でやった訳では無いので」


 シェリーさんの言葉に、そう謙遜を返す僕を見る、ノヴァル候の屋敷で、パーティーになったみんなの視線が痛い。でも、悪い雰囲気では無い。

 特に、何故か意気投合したフィリアとシャルロッタは、最中のご主人様的な雰囲気は無かった。


「まあ、上がったのは階級だけっぽいけど。大分ましになったわね」

(わたくし)の協力あっての事ですから、感謝なさい」


 僕は、真剣に頷きを返したが、フィリアとシャルロッタの協力のおかげで、多少の実感はあったりする。一応に使える術式が増えた感じだ。ただ、これがあと一ヵ月もあると思うと、もう、あれだ。


 でも、「あれだ」はおいて、この流れで行き着く先は深淵の迷宮に決まる。

 当たり前に、黒剣ブラッソさんのパーティーの名は、正に轟いた。


 ――僕から見て、個々の力もだけど、急造とは思えない。


 と、そんな雰囲気だった。そして、国事の探索(クエスト)の布告があって、当然、黒階級(ブラック)のパーティーとして、黒剣さん達は呼ばれる事になった。


 ――まあ、僕も入ってるけど。


 ただ、商会を通した、ベルガ候から正式な依頼の確認と返事をするのに、わざわざリーンバーン戻ったのは、黒剣さんが、シェリーさん達しか信用しなかったからになる。


 それはそれで、僕は御祖母様(おばあさま)が貸してくれた、通信用魔動器で『正式な』は、事前に知っていた。個人的には、ダニエルが合流するとなったので、ここに来たのもあったけど。


 因みに、腕に着けている通信器本来の役割は、はたしていない。当然な結果かもだけど、エリルからは、一度も連絡は無かった。


 ――まあ、頑張れと云われてはいたけど、現実はそんなものだ……

 




 そう、現実は厳しい。ただ、僕に取っては有意義だった。集合の日にあわせて移動して、更に探索(クエスト)を重た。

 時折、黒剣さんの「おらぁぁぁ――」を聞きながら、恐らく、銀階級(シルバー)に一番近い、白銅階級(ワイトカッパー)には届いただろうの中途半端な実感とで、期日の前に目的地に到着する。


 当然、深淵の迷宮(しんえんのラビリンス)。その階層の尖塔(スパイア)深層の迷宮(レビリンス)のある街。

 ただ、街とは呼べない様な、城塞な雰囲気があって物々しかった。



「ここなのかな?」

「そうですね、若様」


 馬車の中からその風景を見て、僕はダニエルそのままを聞いた。同乗している黒剣さんは、近くなってから、ほぼ無言で真剣な顔をしている。


 一応に、それらしい手続きの上に、僕らは城門を通って、先に来ていたノヴァル候の出迎えを受けた。



「シャル、母上が『戻りなさい』ときつく伝えるようにと」

「何故ですか? (わたくし)も降りますわ。それに、ウ、いえ、アリアを行かせるなら――」


「――『あれ』があるのは、分かっているだろう。最悪、僕が責任を取るから」

「それはそうですが――」


「母上が悲しむ。心配をかけないでくれ」


 屋敷の入り口で、いきなりの兄妹喧嘩の風に、若干引く僕ら……いや、僕だけだったけども。

 でも、『あれ』が何か分かった僕は、シャルロッタが、口ごもって引いた感じには納得する。


「それに、ウィルも魔導師適正があるだろう」


 引いた感じのシャルロッタに、ノヴァル候は僕を引き合いに出して、「エルライン伯爵夫人が、そのまま行かせる訳がないよ」と続けていた。


 一瞬、僕に視線が集まる。フィリアの『ふふっ』の感じで、僕がダニエルに渡された物の事を、知ってるんだなと分かった。


 ――一応、内緒的な、だったんだけど。信用無かったんだな。


 分かった『あれ』とは、『転送の秘石』の事。簡単に言えば、深層の迷宮(レビリンス)から戻れる現物(アイテム)になる。『帰還の翼』と呼ばれ、一般にも出回る高価な魔動器の元になっている物だった。


 フィリアは、ノヴァル候に聞いたんだろう。最近分かった事だけど、第三層にそれがあったらしい。祖父のエルライン伯は、何か分からずなり行きで、転送の秘石を持ち帰っていたらしいけれど。


 ――本当は、所有権が王国に云々はあるけど。きちんと、聞いておいた方がいいのかな。いや、それよりも……


「あっ、あの」


「ああ、申し訳ない。皆も休んでくれ。それと、ウィル。ベルガ候らは当然来ている。君の恋人の彼女もね。何なら、挨拶でもしに行くかい?」


「えっ、いや、そうでは無くて」


 兄妹の雰囲気に苦言をと言うのでは無く。まして、エリルの事を聞いた訳でもないのに、いなされた感じになる。――秘石の事は、まあ、そういう事なんだろう。

 その感じに、ノヴァル候の後ろから、相応な雰囲気で僕の名前が呼ばれた。


「ウィル殿、恋敵も来ているぞ」

「アイリス様!?」

「ああ、シャルロッタ嬢。久しいな」

「ええ、お久しぶりでございますわ……」


 一瞬の事に戸惑う僕より先に、シャルロッタが彼女を見つける。勿論、ゼフィル候だ。

 呼び止められた形の僕は、それで固まる。あと、他の三人は一礼して、黒剣さんはフィリアに引かれて、下がるのは感じた。


「ゼフィル候?」


 僕は、一礼からそつなく所作をこなして、そう呟いた。若干のノヴァル候の苦笑いが見える。


「思い出したよ。確か君は、シャルロッタ嬢の『ファヴォリ』だったな。ライルにも確かめたが、君が恋敵と言う見方も出来るな」


「ファヴォリって? あ……」


 当主然とした彼女の言葉。話が見えなくて、呟いた僕の様子に、シャルロッタの顔が真っ赤になる。そう、それの意とするところは、そういう事だと分かった。


 ――確か、シャルロッタが昔飼ってた『犬』の名前の筈だけど。かな、たぶん。


「アイリス様!」

「ああ、そうか、内緒だったな」


「犬って……」

「そ、それは、むっむ、昔の事ですわ!」


 なかなかの慌てぶりに、そのまま、シャルロッタが僕を『愛玩動物』的に見ていたのだと確信して、これまでの扱いが何と無く見えてきた。


 ――流石に、犬扱いはな。せめて、下僕か従者にしてほしかった。


 その雰囲気で僕は「お嬢様。大丈夫です」と答え、三人に一礼して、その場をまとめる事にした。勿論、シャルロッタも、ノヴァル候も、何か言っていたけど、反射的に答えるだけだと、自分で分かった。

 それに、ゼフィル候なんか、堪えきれない「ふふふっ」を出しているし……で。



 その流れでメイドに促され、あてがわれた部屋に向かう最中で、恋敵認定されたのが、アリルデッドなんだろうと思う。でも、兎に角、僕に出来る事の準備に気持ちを向ける。


 ――まあ、世の中、そんな物なんだろうけれど。先ずは、予習だ。と言う感じだな、だったけど……



 そこから、ひたすら期日まで引きこもり、持ち出しが出来ない核心的(コア)な資料を読み漁った。勿論、現実逃避をしている訳でもなく、至って前向きな孤独になる。

 久しぶりな感じに、少なくない充実感とフィリアの何気な「そう言うのは、期待するから」で、それと向き合う。


 若干、不貞腐れてると思われたのか、ノヴァル候にシャルロッタやゼフィル候の面会の意向もあったけど、一応に形だけの対応で、お願いした。

 また、エリル=ライラの来訪もあったけど、フィリアに頼んで、「力になりたいから」と準備の為にの体裁で断って貰った。


 それで、食事も部屋でという、その点は僕的にも爽快感すらある、充実した刻を過ごす。


 そして、決行の日はやって来た。


 僕は、母上が防護術式を刺繍した『若干効果の怪しい』羽織が、アリアンヌさんのお墨付きで、何故か安心感をまして、いつも以上に大きな背負い袋(リュックサック)を背に、零階層と呼ばれる、入口の広間に立っている。


 前方にの一段高い所には、何かを話すベルガ候と、その弟で今回の指揮をとる伯爵に、久しぶりに見たエリルのあの鎧姿が見える。

 その手前には、赤、黄、緑、青に白のパーティーが揃い踏みな、最上位階級冒険者(プライムカラーズ)の一団と参加する者達の場景。


 そして、近くには黒剣(ブラッソ)さん達。


 ――なかなか、場違いだけど。


 と、それを見て素でそう思う。それでもう一度、羽織の内側と胴衣に刺さる、魔導筒樽(マジックバレル)を確認し、左腕の新しい魔装具と腰に掛かる『フライパン』に手をやった。


 それで、隣に立つおっきい騎士、ダニエル・オー・ナヴァールを見て、色々な思いが頭を過る。


 ――母上は、心配何だろうな……


 抜け道はあるでは無いけれど、一応にその事を考える。その最中で、肩に掛かる手の重さを感じた。


「フライパン。いや、ウィル。中々だぞ」


 黒剣さんの声が耳元で聞こえ、振り返った所でフィリアの腕を組む『ふ~ん』が見える。それで、僕は何かに気がついた。


 ――名前で呼ばれた?


 と、それで、若干『場違い』な気持ちは、消えていった。



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