表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/17

王宮のある街~ベルーディーク

「ベルーディーク」イシュール王国の王宮がある都市になる。……要するに、国王陛下のある都市なのでかなり大きい。

 ――『大きい』かどうかは、若干どうでも良いかも……。


 単純に呼び出しを受けた場所は、オーヴァルレイズ公爵の屋敷。……御祖母様(おばあさま)の生家になる。

 まあ、それはそれだけど、着せられた感丸出しの雰囲気な僕が通された場所がやばかった。


 イシュール王国の『四方』を守る辺境伯の家門の当主が揃い踏み……とか。その丸テーブルに、僕も同席させられるとか。

 テーブルには、公爵と若い男女に壮年な男性の二人の四家の当主達と隣には、ドレス姿のエリルがいる。


 エリルとは一旦別れて、別々に顔を会わせた感じだった。まあ、彼女のドレス姿で益々の緊張。

 出来上がった話が進む中、彼女はずっと難しい表情だけども。


 ――エリルの事もだけど、この状況、有り得ませんけども。と言うか、領地領域は大丈夫なのだろうか……と若干の現実逃避。


 それに、祖父エルライン伯は立ってるし、御祖母様(おばあさま)は別テーブルで優雅にお茶とか。


 目の前には公爵が座って、斜め前のジグニ候――エバルフレット・ジグニ・デ・ネーブルラント――の後ろにアリルデットが立ってる……僕は座ってるけれども。


 流石に、相変わらずの美形なアリルデット……僕と同じ魔術院の次席で同期。見たままに、当時、(なび)かなかったのは、主席の彼女と彼女の取り巻きだけって……。


 まあ、『やっかみ』なのは自覚する。取っ替え引っ替えなのも、まあ、あれだけど……好きにはなれない。


 でも今は、彼よりもこの状況だ。


 恐々とした僕の感じに、近い席のノヴァル侯――ヴォル=ライル・ノヴァル・アルターライン――が妙な笑顔をして視線を向けている。


 再従兄(またいとこ)の彼は十歳年上で、普段は殆んど顔を会わさない。

 寄宿舎に居たこともあって久しぶりに顔を見たって感じだ。長期の休みも、大概、屋敷の自室で引きこもりだし……。

 まあ、訳もわからない小さい頃は、よく遊んで貰った記憶はある。


 ――ああ、その時こんな顔をしていた気もする。


 そして、彼の笑顔を『珍しい事』と見るような感じで座る綺麗で凛とした女性、フェイヴ家の当主、ゼフィル候――ビクトリア=アイリス・ゼフィル・フェイヴニアース――の表情に目がいった。


「ライル、妙に嬉しそうなのは気のせいか」

「アイリス。そう見えるか?」

「そんな顔を見るのは、あの時以来ではないか」

「いつの事だ? ……ああ、そんな顔をしてたのか」


 会話が続きそうなのを遮る声がしてきた。


「ゼフィル候。ノヴァル候もだ。私的な話なら後にして頂こうか。今は当家の話だ」


 ベルガ候――アイザック・ベルガ・リュラーフィールド――の武人然とした低い声だった。


「ベルガ候。この様な戯れ言の場で私的も何も無いと思いますが。先程の話にしても、両家の婚儀で当主継承権を持つ同士の事ゆえリュラー家だけの話とは些かかと。仮に、私がライルと『そうなる』と言えば、候も黙ってはおられまい」


「当然だろう。『当主同士が』など別の話だと思うが?」


 会話が僕を置いてきぼりにしていた。ベルガ候の鋭い眼光の言葉に、ゼフィル候が失笑している。


「ふっ、別の話とは異な事を仰る。ただ『今か先か』だけの事ゆえ、何処(どこ)が別の話だと言われるのか? ベルガ候、教えて頂けきたい」

「止めないかアイリス、いや、ゼフィル候。立ち会う立場で、余計な言を発した我らが悪い。それにその話は済んだ事だ……」


 ……若干意味不明な切れ方? のゼフィル候の言葉から、何が始まるんだの勢いが僕の目の前で続いていく。

 単純に、同格の四家門の当主が牽制の宴を見せている。……そんな、僕が普段では感じられない雰囲気が漂っていた。


 ――わぁー、もう無理だ。……とその雰囲気に、取り敢えず気配を消しておく。勿論、術式に頼らず素のままだけど。


 結局、優等生な感じにアリルデットが、「その辺りにされては如何ですか?」と声を出し「出過ぎた真似をするな」のジグニ候とのお約束? の展開を挟む間で、公爵の促しが見えていた。


 それが、観察眼全開の僕の中を通っている。ただ、既になすすべ無しな僕は、隣のエリルのアリルデットを見る目が気になった。


 ――確かに、美形だけども……。


 多分、現実を見た感じで自虐的な逃避の僕に、ベルガ候の声が向けられて来た。


「ウィル=ライト殿。余計な話になったのは申し訳ない。公私の話で言えば、親としては私的な感情もあるのは理解して貰いたい。ただ、娘に聞いても的を得ないのだが、君は娘に好意があるのか?」


 ベルガ候は先程、明確にジグニ候に謝罪をしていた。勿論、白紙にする旨の内容だったけれど。

 そして、僕に向けられている言葉には、一応口裏を合わせていた。


 でも、そこで僕が口から滑らせた言葉は、ちょっと違っていた。


「初めて会った時に、剣を向けられたんです」


 一瞬固まる周りの雰囲気に、思わず我に返る。……現実逃避中で出てしまった。

 思い切り『はっ』となるのを我慢して、平静を装い続けて声を出す。


「確かに、『冒険者』気取りで、御令嬢の所領に勝手に入ったのが悪いのですが、見上げた姿が『慌てて見えた』のをよく覚えています」


「娘の話とは違う様だが――」

「――私が、御令嬢に頼んだのです。出会いが『賊』と間違われたのでは流石にですので」


 いっぱいいっぱいで、何が言いたいのか僕も分からなくなっていた。ベルガ候の鋭い眼光の表情に、殺気が見えた気がする。

 その様子に、エリルが肘辺りをさりげなく摘まんできた。ただ、ベルガ候の雰囲気に横を向く余裕はなかった。


「私が聞いたのは『好いているのか?』のつもりだったのだが」

「も、勿論です。でなければこの場にいません。場違いなのは自覚しています。だだ……」


「ただ? 『ただ』なんだね」


 威圧感を凄く感じるのは、僕側の問題だろう。エリルの「父は見た目と違って優しい」の言葉で、なし崩しでここに座っている。

 だけど、だ。見るからに武人な雰囲気に、そう感じてしまっていた。


 それでもだけど、出した言葉は無かった事にできない。だから、そのまま勢いで言葉を出してみる。


「た、ただ、彼女の違う一面を引き出せるのは僕にも出来たと。私自身には無い凛とした彼女の姿に惹かれ、過分にも隣にいる機会を得て別の表情を見ました。その輝いた瞳とはにかんだ笑顔を見れた事で、今この場にいる事が出来るのです。『好きなのか?』と聞かれたら、自信を持って『好きです』と答えてます」


 勢いのままに、やってしまった感が出たのをその場の雰囲気で察した。


 難しい顔のベルガ候に、侮蔑を含んでいる様なジグニ候の視線。口の形が「ほぉ」なゼフィル候と笑いを堪える様に口元に拳を当てるノヴァル候に、「何を言っているのだ」の雰囲気の公爵……


 ――僕も何を言っているのかわかりませんけれども。……遠くなる感じで、現実から逃避してしまう……僕。


「そうか」とのベルガ候の言葉に、多分、僕は内側にこもってしまった様だ。それから、幾つか会話をしたけれど、殆んど覚えていなかったから……




「……と言う感じです」

「それはあれだったわね。で、フライパン。ライラは?」


 ノヴァル候の屋敷で、黒剣(ブラッソ)さんとフィリアに事の次第を話していた。まあ、目の前にはフィリアしか座って無いけど。


 その状況で、彼女の「ライラは?」には別から声がする。 


「返答は後日という事で、解散になったよ。彼、最後は人形の様になっていたから、ははっ。失礼、多分ご令嬢との最後の会話も覚えているか怪しい所だ」


 フィリアに答えたノヴァル候ヴォル=ライルは、思い切り笑っていた。


「ノヴァル候、やめてください。あの場で失神しなかっただけましです」


「ここではヴォル=ライルで良いよ。でも、そうか大変だったな。ははっ、流石に事情を知ってあの場だったから、笑いを堪えるのに苦労したよ」


 既に、笑いを隠すこと無く、彼は窓枠に手を掛けて、そんな風に言っていた。――そんな事知らないから。

 一応に、その感じで苦い顔をしていた彼を見ていた僕に、フィリアが突っ込んでくる。


「はあ? 何で置いてくるのよ!」

「えっ、いや、あの」


 大きなフィリアの声で、黒剣さんと祖父のエルライン伯が僕らを見てくる。何故か通じるものが有ったんだろう、意気投合して力こぶを比べていた。


「なんだ?」

「ウィル、どうしたのだ?」


 突然向けられた声に、僕は「うへぇ」と変な音をだした。自分の耳にはそう聞こえていた。


「『うへぇ』じゃなくて、どうしてライラ連れて来なかったのかって事。大体、頭数に入ってるんだからね」

「何でも無いです!」

「だから、フライパン聞いてる――」


 フィリアの追撃を遮るノヴァル候 ヴォル=ライルの笑い声で、黒剣さんと祖父は何事かの表情をした。

 そして、集まる視線を受けて笑いを堪えて彼は声を出していた。


「ははっ、止めてくれウィル。君は相変わらず女性に弱いんだな。あの時のままだよ。それに、何度聞いても『フライパン』は無いだろう。くくくっ」


「何なの、なんか調子狂うんだけど。本当にこの人ノヴァル候なの?」


 フィリアの怪訝な雰囲気に、ノヴァル候 ヴォル=ライルは口に手をあて、差し出す手のひらが待ったをかけている。


 ――あの時って、嫌な事持ち出さないでほしい。


 僕の動揺からの戻りに暫くの間が出来て、黒剣さんと祖父は何事も無かった様に、また二人の雰囲気に戻っていた。

 そして、笑いから持ち直した彼はフィリアに軽く視線を落としていく。


「ああ、間違いなくそんな呼び名だよ。まあ、好きではやっていないから、そんな風に見えるかも知れないな」

「自覚有るんだね。まあ、オースが貴族かどうかも聞かなかったし、貴族に見えないかもしれない」


 何故かフィリアは普通に話してる。別に彼は気にもしていないので、僕も違和感ないけれど……普通はあり得ない。


 ――彼は、アルター家の当主なんだけども。


「まあ、そんな事はどうでも良いよ。取り敢えず、リュラー家のご令嬢とは、また会える筈だ。いつかとは言えないけど。間違いなくそうなるさ」


「えっ、でも一応は好き同士な体裁なんでしょ。なら、『会える筈』って可笑しくない?」


 中々なフィリアさんって勢いあるけど、確かにそう言われればそうだ。……そんな感じに僕も彼を見ていく。


「ああ、あの場でそんな話を信じてたのは、オーヴァルレイズ卿だけだね。ウィルは昔ままに、嘘をつけない感じが変わってない。それに彼女も様子がおかしかった。間違いなくばれてるよ」


「まあ、二人なら分かる気もする。でも、だったら逆だよね。会えなくて当然な気がするんだけど」


 フィリアの疑問でノヴァル候の彼は、真面目な顔をした。……いや、少し含み笑いにも見える。


「確かに、普通ならそうなる。でも、ここだけの話、今度はリュラー家に王命が出るんだよ。何が?

 って、深淵の迷宮(しんえんのラビリンス)の探索さ。北――ネーブル家――が駄目なら、南――リュラー家――って事だよ」


 出て来た言葉とヴォル=ライルの視線に誘導されて、僕とフィリアは黒剣さんを見た。

 思わず僕は、口元に人指し指を押し付け、ノヴァル候の彼に示していく。


「彼、黒剣の捕食者ブラックソード・プレデターだろう?」


 ヴォル=ライルの小声に、フィリアも僕と同じ仕草をしていた。それに続く「ベルガ候に君達の武勇伝も吹聴しておいたから」と笑顔があった。


 思わず僕は、何か言おうとして、突然開いたドアと音にに意識を奪われる。

 そこには、背の高い男を連れた、赤毛混じりの金髪(ストロベリーブロンド)が印象的なドレス姿の少女かいた。


「ウィル! 来てるのならどうして、私の所に挨拶に来ないの? 」

「うへぇ、シャルロッタ!?」


「あら、呼び捨てですか? 暫く会わない内にウィルも偉くなったものね」


 凛とした立ち姿の彼女に、僕の声は切り捨てられていた。……多分、彼女は、僕のトラウマの一つである。



放置解除です。次は……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ