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出会いの森01

 暗く深い森に、よどみを伴った風が漂っていた。辺りが暗闇に向かう中で、少し開けた場所に僅かな音を出す焚き火の光が見えている。


 その光景の中で、背負い袋(リュックサック)を背に、冴えない感じな魔術師の僕が見るその先には、黒い大剣を背に、焼いた肉を口に運ぶ男の姿があった。


 ――まあ、自分で冴えないってのもなんだけども。


「助けて頂いてありがとうごさいます」


 僕は何度目かの声掛けをした。その人が黙々と口に運ぶ肉は、僕らを襲っていた、火熊と呼ばれる魔獣なのだけど。

 結局、僕の声には片手が返ってきただけで、その人は続けて肉を口にしていた。言ってしまえは、僕は命の恩人である、彼の名前すら知らない。


「それ、美味しいんですか」


 その問い掛けには、動く口が僅かに止まった。暫く時間を置いて、その人は僕の方に、焼けた肉を差し出してくる。――いや、食べませんよ。


「要りませんよ。美味しそうに見えませんから」

「ああ、不味いぞ」

「えっ。……だったら何で食べてるんですか?」


 焚き火の灯りで映し出された、その声と肉の焼けた感じが、違和感なく、僕に届いていた。可笑しな事を言うその人が、突然思い立ったのか、僕を見直してくる。


「お前誰だ?」

「えっ。……いや、先ほど名乗りました、ウィル=ライト・オブ・ファーシルです」

「何だ、貴族か」

「それも恐らく答えたと思いますが、一応はそうです。『端の端の袖』程ですけど」


 二度目の自己紹介の後に「何で居るんだ」と真面目に、また聞かれたので、事の経緯をもう一度説明する。


 ――まだ、名前の聞けていないこの命の恩人に……。


 この森に、強力な個体の魔獣か魔物が現れて、全体の魔獣や魔物が活性化したそうだ。そこで、僕の登録している、王国認定の月の雫冒険者商会に駆除の依頼がきた。


 ――とりあえず、たまたま僕が魔術師だったからそれに参加した訳だ。


 ぼっちの僕は、即席のパーティーで、他の何チームかとやって来たんだけど、想像以上に現場は酷かった。

 まあ、最後にたどり着く前に、僕的には凄いのが出てきた訳だ。他の人も、慌てまくってだからそうなんだろうな。


 それで、チームはバラバラになり、メンバーには置き去りにされて、目の前の人に助けられたという事になる。


 まあ、あれだ「(シリンダ)とか(チューブ)」と言われる、治療や回復用の魔導筒樽(マジックバレル)代わりな、銅階級(カッパー)の魔術師程度なら「知らんわ!」は仕方ない。――即席だし。


 その時に襲ってきた火熊は、この人の胃袋に入っていると言う事になる。改めて名前を聞こうとした時に、さっきの「何で食べてる……?」が突然戻ってきた。


「食ってるのは始めからだ」


 少し面食らって、言葉に詰まる。結構な流れで、話をしたつもりだったけど、いきなりその事を今ですか? ――ずれてるし。な感じになった。まあ、『何処(どこ)の』始めでからですかと、突っ込みたいのは我慢しておく。


「それもあれなんですけど、お名前をまだ教えて頂いてません」


 その言葉に、多分本気で「誰のだ?」の顔をその人はしていた。森が暗闇に包まれて来て、焚き火の明かりに浮き出る、黒髪の大きなその人が異様に怖い。


「ひょっとして『誰の名前か?』とか思ってませんよね」

「誰のだ?」

「いや、貴方しか見えないですけど……」


 真面目に周りを確認するその人が、ますます怖くなる。


 ――この人本気でこれですか?


「ああ、俺か?」

「他に居ませんよね」

「そうか」

「ですよね」


 この流れで、悩む仕草をしている様子に、僕も少し突き抜けた感じになった。腹を据えて返事を待っていると、一通り悩んだ様子から、ようやく名前らしきを教えてくれた。


黒剣(ブラックソード)だな」

「それ、背中の剣を見たままですよね」

「他の奴はそう呼ぶ」


 形容するなら、それで正しい。黒刀身の大剣が、見たままのそれだった。明らかに仮名か愛称のそれ。多分これ以上は無理だと諦めて、彼の事は、黒剣(ブラッソ)さんと心の中で呼ぶ事にした。

 多分、思◯期的なそれだ、自分でも自覚がある。まあ、彼が生焼けな火熊の肉を食べてる感じに『ブラッド』と呼ぼうと思った、とは言わない。


 その黒剣さんが、短剣で刺して(あぶ)る生焼けな感が気になって、自分の腰にぶら下がるフライパンを思い出した。とりあえず、それを差し出してみる。


「あの、それ焼きましょうか?」


 多分、「ああ」の後ろに掛かる感じの声が聞こえた。確かに、焼いているのを「焼きましょうか?」と言ったらそうなるけど。


 ――ちょっと顔が本気な気がする。


「ち、違うんです。これで焼くと誰でも上手く焼けるです……」


 これは、王国認定魔術院の寄宿舎に入る時に、母上に頂いた魔動器なのだ。お母様と言わないと、機嫌が悪くなるのはあれだけど。それに兄達は、剣とか槍とかを貰っていたのに、末の僕は何故かフライパンだった。


「お父様の胃袋を掴んだ逸品ですよ」


 真面目にそう言われて、流石に何故か聞けなかった。けれど、これに付いている、魔力調整補助の竜水晶はかなり凄い物らしい。そんな凄い物、フライパンに付けるなよの感じだけど。


 確かに、 冒険者になってから重宝している。黒剣(ブラッソ)さんには焼けると言ったけれど、どちらかと言うと勝手に調理してくれる感じになる。


 ――まあ、火熊の肉だから美味くなるかは未知数だ。


 何と無くの説明に、焼き方の問題なのか? という「ふん」で、(あぶ)っていた火熊の肉が向けられる。突いて引く短剣の速さで「刺される」と錯覚しながら、差し出された肉がフライパンに落ちるを見た。


 フライパンに食材が収まれば、後は、そこに魔力を通してやるだけだ。「焼く」に繋がる呪文に、自身の魔体流動――魔力が身体を流れる動き――を合わせて行く。


 焼くだけなら、魔力魔量――魔力の強さや魔力の量の総称――はそんなに必要はない。流動も二、三ヶ所の動かして魔動器の万能鍋(フライパン)に通せば、大体のところ火にかける必要すらない……。


 当たり前にほどよく焼けた肉を、黒剣さんはひたすら頬張り、追加していた。――きっと美味しくなったんだろな。とそう思う。

 その黒剣さんは、一通り食べ終わると、真っ暗になった森を指して、とんでもない事を口にした。


「帰るならあっちだぞ」

「えっ、いや、無理です」

「そうか」


「そうか」とかではない。既に周りは真っ暗になっているのに。ここに来るまで、あの人数でやっとだった。

 それに『帰還の翼』なんて高価な物は持ってないし、≪舞い戻る力(リターン)≫は、魔力魔量(けいけん)が足らなくて出来ない。


「こんな真っ暗の中、一人でなんて帰れません」


 僕の追加の言葉に、何度目かの「そうか」が続いた。その後に「じゃあ寝るか」と当たり前の顔が、焚き火の明かりに浮かび上がっていた。


「寝るって。ここで、このままですか?」


 結界も張らずに、見張りも無しで何て考えられない。僕は当たり前にそう聞いていた。


「まあ、いつもの事だ」

「結界も張らずに?」

「寝るときは駄々漏れだ」


 何が駄々漏れなのか分からないが、黒剣さんの続く呟きが聞こえてきた。「来るなら本命だ。まあ、他のでも来たら起きる」と明らかに独り言のそれで、彼は寝床を作る態勢に入っていた。


「本気ですか?」

「ああ」

「僕はどうしたら?」


 一瞬、真顔が見えたので、また『お前誰だ?』の展開が過ったけど、流石にそれはなかった。おもむろに、黒剣さんは頭を起こして、僕の方に「ああ」と表情を向けてくる。今度のは普通に聞こえた。


「仕事が終わるまで帰れんが。それで良いならリーンバーンまでは帰るぞ」

「送って頂けるんですか?」


 反対側の街の名前が出たけど、言い方の問題点なのか『僕はどうしたら良いのですか?』位の勢いがあった。まあ、聞いた言葉には頷きが戻ってきたから、とりあえず、送ってくれるらしい。


 ――でも、この人と会話が出来る気がしない。


 問いかけの連発で気が付いたのだけど、結構な間、ここでこうしているような感じでも、魔物や魔獣どころか、何もよってこない。

 気付いてしまってあれなんだけど、黒剣さんは変な物でも出してるんだろうか?

 もう、何が、駄々漏れなのか気になって仕方がない。取り敢えず、匂いを嗅いでみたけど、(くさ)いだけだった。


 そんな僕にはお構い無しで、黒剣さんは焚き火に、やたらと落ちてる木の枝を投げ込んでいた。

 そのまま、背中の剣を地面に刺してもたれ掛かって、いきなり寝息をだし始める。


 ――その体勢で寝るのか……


 焚き火からあがっていると思う、青い薫りが鼻に付く。そんな状況に、何故か取り残された感じで現実感が戻り、この場所で寝ないといけない事に不安が見えてきた。

 周りの木が動きそうな気もするが、一応開けた所に寝る場所を作る。結界なんてまだまだ張れる程ではないから、≪存在の抑制(サプレッション)≫を発動して、気配を消しておく。


 ――どれくらい効果があるかは、微妙だけど。


 でも、横になってみたものの、この状況では寝れる気がしない。意外と、いびきがうるさい事に気がいって、益々それに拍車が掛かった。


 ――起きたら、魔獣のお腹の中とか無しにしてほしい。まあ、そうなら気が付かないか。いや、喰われるときに痛いだろ。


 意外と馬鹿馬鹿しい事を、自分で自身に突っ込んで、真っ暗な空を見ながら『そう』思っていた。

 兎に角、黒剣さんのいびきが気になって仕方がない。暫しらく、耐える時間が流れていった。


 ――このまま……明るく……なる……ま……。


 格好良く言えば、運命的な、良くいっても只の偶然……それが僕にとって大きな意味を持つのを、暗闇に怯えて寝る事と格闘している僕は気付いていなかった。

 これが、魔物や魔獣が出る森の凡そ真ん中辺りで、僕の人生を変える。


黒剣(ブラッソ)さん」こと黒剣の捕食者ブラックソード・プレデターオース=ノワール・リーパとの出会いだった。



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