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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死出の旅

シンクロニシティ 〜音に狂わされた人生〜

作者: 清浄


月明かりが街路樹の輪郭を映し出す。


風が裂かれるたびソレらは雫を散らし、弾け飛んでいく。


悲鳴が木霊し、真紅に染まる路傍の花。

死の舞踏を無慈悲に眺める観客たち。


魂を狩り取る象徴だったものは、もはや狂人の玩具に成り果てた。


次なる舞踏の相手を求め、踊り狂う。


「シンクロニシティー」



音による支配を受けた世界。

耳につけた、大きなベッドホンによりある一定の音をノイズキャンセリングを行う。

バッテリー式、防水機能つきで四六時中ベッドホンを外すことはない。


音の共感覚、この国の多くは音により景色を認識してしまう。

かの有名な宮沢賢治もそうだった。ベートーベンの交響曲を聞いたときは、音が映像になり、「この大空からいちめんに降りそそぐ億千の光の征矢そやはどうだ、手に手に異様な獲物を振りかざした悪鬼が迫ってくる」と言った




この国で今、起こっているのは音による行動支配。


他人を巻き込みつつ、踊り狂う。



同時期に別々の場所でおこる死の踊りを指して、当時の彼らは「シンクロニシティ」とよんだ




-8月 夏の刃物市-


普段、寂れた商店街。閉まっている店舗が多く、賑わいを見せるのは最近出来たプラモ屋と、老舗の蕎麦屋ぐらいだ。

本屋も、洋服屋もいつ開店して閉店しているのかがわからないぐらい地元の人間にとっても馴染みが薄い。

地味な商店街はあちこちガタがきており、錆色のとれない看板がいい味をだしている。


そんな商店街もこの夏の3日間だけは賑わう。3日間は通常の営業をストップし…店の前に出店を展開する。

日本の各地から刃物が集められ、刃物市場と化する。

イロモノの出店は、海外から輸入した品や、模擬刀等、多彩な品揃え揃えおり毎年の恒例となっている。


この時期、この場所では刃物製品を無料で配っていたりもする。いわゆる使える不良品だ。噛み合わせが少し悪いだけで使えるハサミや爪切り。少し剃り心地の悪いカミソリ。中には果物ナイフ等ももらえることもある。もらえる種類も少なくない。客寄せの為ではあるけれども、それにつられてくる客も少なくない。


不快指数85を超える猛暑日、照りつける太陽、じめっとした空気。汗で、肌に張り付く服。不快感を隠せない夏日のことである。


夏「今年も賑わってるなぁ…」

-僕、八鍬夏南は、毎年この夏休みにある人に会うため、都市部にある学校寮からこの地元に帰省している。


時代劇で使われそうな刀を見て。

夏「包丁、ナイフはまぁ普通として…アレって一般家庭じゃ使わないよね…隕鉄を打ち込んだ刀か…値段がないや…展示品かな」


鎌や西洋のものと思われる刀剣を見て。


夏「向こうにおいてあるのは…コスプレ用のレプリカかな?最近はあんなのまで展示してるのか?」


椿「相変わらず1人言が多いわね。」

夏「椿」

椿「はたから見てると不審者よ」


-この人は柊つばき。高1で僕より年上だ。-

夏「こんなか弱くて可愛いらしい中1男子を不審者だなんて…痛!痛い痛い!」

ツバキに関節を極められるカナン。

ツ「図に乗るからよ。この感覚欠落者」


夏南は、学校の背の順でも先頭にきてしまう。小学4年生と間違われたこともある。傍目からみたら、高校生が小学生をいじめているみたいだ。


夏「全く、すぐ暴力に走る…。それに口もどんどん悪くなってるし…。感覚欠落者って言われても…遺伝的なもんだから仕方ないよ…それにヘッドフォンしてればみんなと変わらないし」


(突然の爆発音)


突然の爆発音、同時に起こる旋風と砂けむり。

刃物市会場1kmにわたって、同時に倒壊する建物。


商店街の密集した店々は、今や逃げ道を遮る障害でしかない。


砂けむりに紛れて、人々の叫び声が聞こえる。刃物が擦れる音、血の水溜りが床一面に広がっていく。


観光客「痛ぇ」


視界を遮る砂けむりに関係なしに、そいつらは暴れ続ける。まるで、こちらが見えているかのように


砂けむりに紛れて、突然現れたそいつらは黒い眼球…


いや…義眼を持っていた


今、僕の目の前にまで迫り来る…。


椿「何、ぼーとしてるの!」


ツバキは近くにあった隕鉄を打ち込んだ刀で暴れるそいつらの一撃を防いだ。


特異な鎌で、僕を両断しようとしていた

夏「ごめん、助かったよ」


観光客「なんなんだよ!こいつらは!」


被験体A「みなさん、楽しんでいますか!

目ん玉に焼き付けてみてはどうですか!

刃物祭りってのはこういうことを言うものですよ…あはははは」


地面には、血が流れ…人々はただ逃げ回るしかなかった。


すすめど押し返される波、どうやら商店街の入り口と出口両側から攻め込まれているようだ


夏「音の反響音で建物や人を認識するエコーローケーション装置…」

「盲目者用の映像変換型ベッドフォン…一般的には盲目者の視覚を補う装置なんだけど…様子がおかしい」


椿「本人たちがみてる景色が、現実とは異なっているってこと?」


夏「うん…正気とは思えない。

それに必ずしも、眼球を取り出すってわけじゃない。むしろ一般的ではない。それなのに…同じ種類、同じメーカーのものって変だよ」


椿「眼球をくり抜いて、あえて盲目者にして…幻覚を見せてる…って仮定したらつじつまがが合うんじゃない?」


カ「共感覚を持って生まれたからこそ起きた集団的事件…本当にそうなら狂っている」



夏「ここで1番安全な場所はどこだと思う?」


椿「そんな場所あるわけないでしょ!」


夏「いや…被害を受けない立ち位置があるはずだよ」


椿「…盲目者たち?」


夏「そう…ツバキ!おまえの力を貸してくれ」


椿「何よ!偉そうに!」


夏「盲目者のヘッドホンは、誤情報を与えているかもしれない。けど、僕たちの位置は正確に捉えてる。エコーローケーション自体は発動しているんだ。

それともう一つ。同じ盲目者は狙わない。ヘッドホンか義眼が電気信号を発信して…盲目者同士は襲わないようにしてるんだと思う。


装置が見てみたいんだ、協力して欲しい」


2人はあたりを見回した


そこに、2人の親子座りこんでいた。


鎌を向ける狂人に対して、その親子は目をそむけ目をつむった…


狂人は、動きを止めた。


いつまでたっても振り下ろされない鎌に対して、再び親子は目をあけ振り返る。


狂人は、再び動きだす。


その間に、ツバキは間に合い刀で受け切り。

得意の合気道で投げ飛ばした。


夏「目を背けるなってことか…死ぬ瞬間を味合わせようってこれを作った人間はいい趣味してるよ。眼球意外に目もくれない」


椿「目をつむることで、標的を見失うの?」


夏「たぶん…盲目者たちも同様に恐怖を眼に焼きつけさせて…目をくり抜いたんだろう…イかれた眼球性愛者…ってこと。ここで、僕らが中途半端に生き残れば、盲目者側。死ねば眼球はコレクションにされる…」


夏「目玉のない人間は襲わない…狂人同士で傷つけ合わないようにするために」


夏「つまり目を開けてちゃダメなんだよ」


椿「目を開けずにどうやって歩くのよ。ただでさえ、視界が悪く人がぶつかっている状態なのに。危機的状況で、情報を得る手段がないじゃない。誰だって僅かに効く視界をあてにするじゃない」


狂人の黒い眼球に手を突っ込んで取り出すカナン。

ヘッドフォンを付け替えようと外すと、ベートーベンの皇帝の曲が街に流れていた。

夏「なんで、ノイズキャンセルする曲が街に流れているんだ」

付け替えたヘッドフォンからは音が流れている。


椿「これからどうするの?」


夏「仮定がたったらまず証明」


夏「僕だったら、共感覚を持たないからヘッドフォンをしても幻覚は見ない…音の法則性を分析する頭脳もある」


椿「何、調子に乗ってるのよ!」


椿「それで?どうしたら止められるの?」


夏「目ん玉に焼き付けろ…って叫んだ人物のところさ」


夏「おおよそ、そいつが元凶…敵将をうてば勝ちだと思うよ。狂人たちを操っている人間さ」



(実験中)

ツバキは、カナンの背中に捕まって歩く。


夏「狂人たちに近づくと、音が変化する…。これは警告音かな。さらに近くと音が消える。狂人たちからしたら盲目に逆戻り…か。」


夏「お互いが見えないなら、狂人相手には五分…」


目をつむったりあけたりして犯人を探す


音が止む時に、車椅子にのる20代の青年が座っていた。正規品のエコーローケーションをつけているようだった。


夏「お前が犯人か?」


被験体A「よくたどり着いたな…」


夏「そのリモコンのスイッチを止めれば止まるのか?」


ツバキは、被験体Aを車椅子からつき落とした。カナンはスイッチを停止させた…


だが、狂人たちはまだ暴れている


被験体A「…残念だったねぇ~」

口が裂けたように心底意地汚い笑みを浮かべる。


カナンは、スイッチとヘッドフォンを自前のドライバーで手早く分解すると表情を強張らせて言葉を絞り出した。


夏「…スイッチはもう一つあるみたいだ」

夏「OR回路なんだよ…どちらか一方のスイッチを起動させてるだけでアウトなんだよ」

椿「ッ…!…場所は?」

携帯をいじりながら無線の種類をみる

夏「無線の範囲はわかる。1.5kmだ。だけど範囲だけじゃあとても…」



カナンは、狂人が目の前に現れるのに気づくのに遅れた。ツバキは、カナンを押し倒す。


おでこをぶつけ合うようにして倒れる


椿「また、ボーとして何してるのよ!」

ツバキのヘッドフォンがはずれ、同時に迫り来る共感覚。


悪魔が槍を持って踊りだす…。

椿「!?」

突然現れた悪魔に驚くツバキ。

夏「ツバキ!?」

頭を手で抑え苦い表情を浮かべるツバキ。

椿「いきなり…頭の中にイメージが…悪魔みたいなのが槍を持ってて…」

夏「槍を持った悪魔…?」

一瞬訳が分からなかったカナンだが、相変わらず流れているクラシック曲を聴いて目付きが鋭くなる。

夏「昔、とある作家がこの「皇帝」を聴いて同じような感想を言ったらしいけど…」

夏「曲が流れ出したタイミングといい、偶然とは思えないね。---確かめる必要がありそうだ」


椿「何か分かったのね?」

夏「この意味深な「皇帝」が流されてる場所…無線範囲とも合致する」

椿「その場所って?」

夏「市役所」



カーテンが閉められ、ラジカセが榎本の足元に置いてあった。放送用のマイクの前でイスに腰掛けていた。


蟄兎「クラッシックに惚れてここまで来たわけじゃなさそうだな…」


蟄兎はツバキが所持している刀をみて言った


蟄兎「途中、眼球性愛者に合わなかったか?」


夏「胸糞悪い…最低最悪な人間ならいたよ」


蟄兎「使えねーな…ほんと。見込み違いだわ」

「俺が開発した性的倒錯者の中でも、とびきり使える人間だと思ったのによ。俺の目も狂ったか…」


椿「なんで、こんなこと」


蟄兎「なんで…みりゃわかるだろ。こんな世界なんかどうだっていいんだよ」


蟄兎「オレぁ、みた通り共感覚を持たない人間さ。だからこそいろいろな音が楽しんできた。だが…それを理解する者など誰も居なかった」


蟄兎「理解されない…理解されない、理解されない!」


蟄兎「理解されないなら、こんな世界は必要ない…」


蟄兎「ヘッドフォンの修理会社で働いてた俺はある日思った…。無線を仕込んで直接耳に音を送り込んだらどうなるのか。俺の世界は変わるのか!理解者を増やせるのか!


…だが、結果は違った」


夏「ニュースでやっていた130人の同時失踪事件は…お前の仕業か」


蟄兎「ハーメルンの笛吹き男みたいだろ」


蟄兎「結果は、精神崩壊するか性的倒錯を発症するかのどっちかだった。純粋に音を楽しもうってそんな奴は1人も居なかった」


蟄兎「三界の狂人は狂せることを知らず

四生の盲者は盲なることを識らず」


蟄兎「無知な人間はどこまで言っても無知なんだよ!」

蟄兎は、身体をわなわなと震わせる。


蟄兎「どうして、この音楽の素晴らしさが理解出来ないんだ。こんな世界ってあるかよ。ふざけるのもいい加減にしろよ。」


椿「あんたが言ってるのはひとりよがりなのよ。」


夏「音楽ってのは、みんなを楽しませるものって言うのなら理解出来る。けど、みんなを巻き込むってのは違う気がする」


蟄兎「こんな世界なんか、滅べばいい…どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ」


蟄兎「俺はただ、普通にみんなと音楽を楽しみたいだけなのに」

蟄兎「俺の世界にお前らは必要ない」


榎本は懐に手を入れた瞬間に、ツバキは犯人に取っ組み合いになる。


擦り切れてボロボロな一冊のクラッシックの譜面を記した本が床に落ちる

犯人の口から、タバコが落ち。譜面の上に落ちる

椿は、スイッチを奪った


夏「早くスイッチを切って。みんなを守らなきゃ!」


蟄兎「あぁ…あぁ…大事な譜面が…貴重な…譜面が…」


燃え上がった一冊の本


夏「おまえが、こんなことしなきゃ…みんなはこんなことにならなかったんだよ!」



市役所前にて


椿「ありがとう…助かった」


蟄兎はその頃、屋上にまで登っていた。


夏「助けられたのは僕の方だよ…これからも助けてね」


椿「うん…」


蟄兎は屋上から故意に落ちた。

ツバキもまた、カナンに恋に落ちた。


私は、初めてこいに落ちる音をきいた。

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