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e-Sportsは君と共に  作者: むじく
1章 始まりの時
8/22

選択授業

「おはよっ、成瀬君」


「おお」


後ろの席に座る女子と軽く挨拶を交わし穏やかな一日は始まる。

寝坊して朝食を取り忘れたので、どこかのタイミングで腹ごなしをしようと考えていたときだ。


戸を開けて入ってきた担任にクラス中の期待の念が寄せられる。メインは大抵の学生が楽しみにしている”あれ”だろう。


そんな生徒の視線にフッと笑った担任は真剣な表情になり


「今日から選択授業が始まる。ほとんどの希望を通しているからしっかり励めよ、お前らの人生だ」


そう言うと、担任はある一枚のプリントを配っていく。そこには誰がどの選択授業に組み込まれたか、という表。

担任の言葉に生徒は安心したような表情でそれを眺め、意気込む生徒もいれば友達同士でハイタッチ、眠たい朝にも関わらず活気に満ち溢れている。


机に肘をついて明人はその表を上から下まで視線をなでていると、おもむろに担任が近くまで駆け寄ってきた。


「悪いんだが、こちらのミスで空見はまだ希望が取れてないんだ。今日のところはどこに参加してもいいから、成瀬がいろいろと教えてやってくれ。希望があったらこの用紙に記入して私に渡してくれればいい」


「はぁ」


初日から空見に関することを大概押し付け...任せられているので、今更どうってことはないのだが。

この楽しい雰囲気を早く味わいたいとばかりにワクワクしている空見の元へ向かう。


「選択授業ってそんなに楽しいものなんですか?柔道とか剣道とか、ですよね」


「楽しいというか楽しみ、に近いだろうな。種類だけは間違いないなら、きっと空見が気になるものがあると思う。」


空見のアンケート用紙に目を落とす。ずらっと並ぶ名称はそのまま選択授業の数だ。


「といっても小難しいものじゃなくて空見の考えている認識で問題ない。この学校の特徴がこれなんだ。ちなみに選択した授業は四半期に一度変更できる。」


「私は文芸コースにしたよ」


後ろから話に入ってくる咲宮。折角なので話に混ざってもらう。


「文芸コースなら小説読んだり、自分で執筆したり、だったか」


「そうそう。ちょっと興味あるんだよね。今日が一回目だし」


明人が意外だと思っているのは心に留めたままで、空見には気になる授業を上げてもらうことに。


「うーん......ダンス、宇宙、機械学習。た、たくさんです」


柔道剣道2種類の世界から来たなら戸惑う気持ちもわからなくはないが、このままだと目を回しそうなので明人が声をかける。


「そんな深く考えなくていいぞ。先生の言うように今回はどこでも良いし、変更のスパンは短いってことはそれだけ経験出来る機会が増えるってことだ。少しでも興味が湧く物を選択するのがこの授業のテーマ...」


「これにします!」


「決断早いな!って...やっぱりか」


空見が指さしている方を見て納得した明人。一旦話はそれまでとして、選択授業の時を待った。



「学校にこんな場所あったんですか!?コンサートホールみたいです...」


「それは言いすぎだ。」


選択授業が行われる指定された大教室に入るや否や空見は物珍し気に中を見渡す。


「人気のある授業から優先的に広い教室が割り当てられる。出来るだけ前がいい」


席に指定はないので二人とも並んで適当な位置に座る。当初は20人程度の集まりだったそれは、開始時間が近づくとともに人数を増やしチャイムが鳴る頃にはほとんどの席が埋まっていた。


「何が始まるんでしょうか?これだけ人を集める授業...。ドキドキです」


「んー、最初の一発目だし説明で終わる可能性が高いと思うけどな」


言い合っている間に、一人の男がマイクを持つ。

恐らくこの人こそが選択授業担当の講師なのだろう。短く切り揃えられた髭が目立つ、見た目30代後半ほどだろうか。

あまり使わないのだろうか、マイクの頭をポンポンと叩いて、口元に寄せる。


「あー。マイクテスト。よしいい感じだ!」


マイクテストに手応えを感じる人を初めて見たかもしれない。そのまま軽く息を吐いた教師は目線を生徒に向け、言い放つ。


「これから、選択授業”ゲーム分野”を始める」



ゲーム分野は人気の選択授業の一つ、ゲーム業界に興味のある生徒は多いのは創造を推してる学校ならではだろう。

担当する講師は現に働いている人を採用しており、授業内容も濃い。それだけ学校も生徒と向き合ってくれている証拠でもある。


「そうだな、まずは自己紹介から。水瀬だ、よろしく頼む。まーこれだけわかれば十分だろ。気になったらググってくれ」


自分を紹介するときにググってくれ、なんて言える日が来るのだろうか。少しかっこよく思えてきた。


「名前まで言ってないから結局分からないところがミソだ。面白いだろ?」


あっはっは、と一人で笑う水瀬は緊張している様子はない。見るに開幕からこの真面目で静まった空気を和らげようとしてくれているのだと思う。


「なんだかおもしろそうな人ですね!」


空見的視点でも好評らしい。そのまま水瀬は大きなスクリーンに映されている映像をバックに話を続ける。


「で、だ!みんながこのゲーム分野に興味を持ってくれたことはまず嬉しい。この時点で既に目的が定まっているやつはイラスト書いたり、プログラムしたり、もうインターンで働いているかもしれないな。まぁそいつらはそいつらで頑張ればいいさ。」


「みんなに対して俺が出来るのは、ゲームを取り巻く全てを伝えその中で何かに興味を持ってもらうこと。音楽が好き、数学が好き、物語が好き、遊ぶのが好き、相手に喜んでもらうのが好き、何でもいい。全てがゲームに繋がる。自分だけの好きを見つけて動き出すための、第一歩としてほしい。」


水瀬の強い気持ちが言葉となって座っている生徒たちに突き刺さる。


「みんなが次のゲーム業界を担う人間になることを心から楽しみにしている。よし、今日の授業は...」


水瀬の話は明人を含め、今まで遊ぶ側だった生徒にとって充分刺激的な内容だった。

寝ている生徒がいなかったのは水瀬の話運びが上手く、皆が元々持っていた興味を引き出すには十分だったのだろう。


「もう終わりか。悪かったな、話だけで。次は制作に関わる各ポジションの仕事内容について触れる。どれも面白いぞ。それではお疲れさん」


言い終わるタイミングでチャイムが鳴る。時間管理も得意らしい。

大教室から戻る途中空見の興奮は一向に収まらず、放課後まで続いたその興奮は喫茶店へと持ち越されることとなった。

ゲーム作りは良いぞ。

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