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e-Sportsは君と共に  作者: むじく
1章 始まりの時
5/22

見知った彼女はフレンドリー

場所はネットカフェから少し離れた喫茶店。

午前中に集まったはずが今では既に消えかかりそうな夕日を前に明人は冊子の頁をめくる。


「......。」

「......。」


2人の間に流れる沈黙。気まずいわけはなく単純にこうなっているだけで、


ぺらっ、ぺらっ


ネットカフェに陳列されていた各ゲーム冊子(興味を引く作りなんだこれが)を帰り際一通り集めた空見は、店員に注文してからというもの手元においたそれを読み込んでいた。


明人を無視するというよりは夢中になっているというのが正しい。


ネットカフェでの話を聞く限り、結局ほとんどのゲームを触ったらしかった。

明人が起きてからというもの、同じジャンルをやり続けていたので手応えのようなものはあったのだと思う。


「何か良いのあったか?今日の今日だし全部は出来なかっただろうけど。」


「あ、はい。そうですねー、私が気に入ったのは、これです」


そういって空見が差し出した冊子はバラエティ豊かなもので、屈強なキャラ、兵器、迷彩色を着こなす野郎が写ったものだ。一見ばらつきがあるように見えるそれの共通点はすぐに理解できた。


「対人ゲームオンリーだなこれ。」


「一人で突き進んでいく冒険もいいんですけど、やっぱり人と戦って勝つのが楽しくて」


「なるほど。e-Sportsやるならむしろ良い傾向だと思う。次機会があればゲームセンターに行こうと考えてたけど、それならまたネットカフェで良さそうだな」


「...。」


何故か黙り込む空見。


「ど、どうした?」


「いえ、次の機会とか考えてくれてたんだなと。」

「...それにしても成瀬さん結構大胆ですね。尊敬すべき行動力です!」


「はっ!?無意識だった。」


なぜこんなに親身になっているのかは分からない。

ただ言えるのは、自身が面白いと思うものを他人に共感してもらうのはやっぱり嬉しいことで、誰かに趣味を紹介するのが楽しいように共通の趣味を持った知り合いが増えるのを嫌がる人はいないと思うんだ。


「お、デート?若者はいいねー」


...?


どこからともなく突然生まれた友達口調。

一瞬関係ないかと思ったが、如何せん声の発生源が近すぎる。


空見と同じタイミングで声のした方向へと向くとそこには、


「...店員さん?」


「うん、そう。はい、こちらアイスコーヒーとオレンジジュースになります。砂糖はそこ、テーブルにあるから」


どうやら明人達目掛けかけられた声で間違いないらしいが、フレンドリー過ぎないかこの人。


栗色の髪に整った顔立ち...その通る声には多大なる包容力を感じられる。


看板娘?いや、それにしても...。

フレンドリー店員は何事もなかったように注文された物を置きだす。


明人は今起こっている現象を一度整理するべく、おもむろに出されたコーヒーに手を付けた。

カフェインにはリラックス効果が云々。


「成瀬くんブラックで飲むの?大人だなー。」


「ふぁっ!?」


思わず吹き零しそうになるがなんとかセーフ。


「あ、咲宮さん。ここで働いてたんですね」


「そうそう。転校して早々デートとは手が早いなぁ、成瀬くん」


驚き咳き込んで突っ込めない明人に代わり、ワンテンポ遅れて空見が返す。


「ち、違いますよ!」


「あははっ。そんなに否定しなくても。意外とやるなぁ...」


「もう...。あれ?そういえば空見さんって」


明人を置き去りにした軽快なテンポで始まる女子トーク。

落ち着いて店員の方をよく見てみる。


この咲宮って人どこかで見たような...


「ん?どした?」


「あ、いや...ん?咲宮?」


「うん。」


思い出した。


「咲宮みさき。」


「お、おう。フルネームだね。まさかあれなの?アニメでよくあるフルネームでしか人を呼べない人?あっはは。」


「んな訳あるか。思い出してたんだよ。みさき姫、思い出した。」


いつも名前を聞くときは大体下の名前で囁かれているし、違うクラスだったから全然気づかなかった。


みさき姫。屈託ない笑顔を振りまくその姿を世の男たちはこう敬称している。誰とでも気さくに話す久道高校の有名人で、噂によればSNSのフォロワー数も相当多いとか。


最も同じ学園の男子の裏垢で埋め尽くされているらしいが。

あ、まずい。


「っておい、その呼び方は恥ずかしいからやめなさい。」


手は出なかったものの、小気味良い突っ込みが入る。囁かれているだけで、本人を呼ぶときに使う名前じゃない。


「悪い。というか言われ慣れてるな?その返しは」


「まーね。絶対皆からかい半分で言ってるだけでしょ」


笑顔で話す咲宮に視線を向けていた空見は、


「咲宮さんってお姫様だったんですか!?」


「ち、違うってば。ちょっと成瀬君、責任取ってよね。」


慌てたように否定すると今度は周りの客が一斉に咲宮に視線を向ける。

それだけ咲宮の声は透き通っていて聞き取りやすい、それが今回は少しだけ裏目にでてしまった。


「あー...。すみませーん..なんでもないんです、あはは..」


これが友人同士で遊びに来ているならいざ知らず、彼女は今業務中である。

これ以上言うのはやめておこう。

ほどなくして咲宮は店員の仕事を果たすべく場を離れ、来店したお客さんの注文を取りに行った。


「咲宮さんがここで働いていたなんて知らなかったです。学校からは結構離れてますよね」


「まぁ咲宮の人気から考えれば分からなくもないけどな。本人も注目されるのが好きってわけじゃないだろうし」


人気ありそうですもんね、と深く頷きながら呟いた空見に対し、そういえばと


「咲宮とはどうやって知り合ったんだ?いや、単純に疑問なんだけど。答えたくなかったら...」


言ってから余計なことだったかもしれないと思い返す。女子が女子と仲良くなるなんて当たり前のことでプライベートな情報を聞いてしまった感覚。


その質問に眉をピクリと動かした空見は頭を傾げ、さも当然、という口調で


「え?だって同じクラスですよね、咲宮さんって..あ」


なるほど、盲点だった。前の方の席だし気づかないのも仕方がない。

今気づけて良かったと思うべきだ。


「全く知らなかった。これが聞かれてたらと思うと」


「あの、バッチリ聞こえてるんですけど」


透き通るような声に誰もが一度は振り向くであろう整った顔。

お店の店長もさぞ喜んでいるだろうと思う。

俺が店長なら最高だ、出来る限りお客さんにその笑顔を存分に振りまいてもらって貢献してもらいたい。


だから今見せてる怒りマークが表示されそうな表情をしてはいけないと思うんだ。

もちろん原因は


「すみませんでした。」


「分かればよろしい。一回でも振り向けばあたし居るからね、君の後ろの席だし!」


そんなに存在感ないのかなぁ?と呟いている横で空見がフォローを入れていた。若干の罪悪感を感じつつ反省する明人。


「じゃあこれ、クリームあんみつ!ではごゆっくり」


手に持っていたお皿と領収書を差し出してそのまま奥へと戻る咲宮。


先ほどとはえらく違う対応に感じるが、本来店員というのはそういうものだ。


「えっと...一口食べます?」


「いや、それ間接キスだから」


スプーンを差し出した空見は驚愕の事実を知ってしまったかのような表情になる。

彼女としてはフォローを入れてくれたと思うのでそれ自体は有難いのだけど、間髪いれず突っ込んでしまった明人。


それから程なくして解散、それぞれが帰路についた。


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