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e-Sportsは君と共に  作者: むじく
1章 始まりの時
12/22

人見知り大作戦

閲覧ありがとうございます!

始業式に受け取るはずだった新作のゲームが3週間の時を経て今、開かれようとしている。


「予定では速攻クリアして別のゲームしてるはずだったんだけど。その間の暇を潰せたと考えればいいか」


明人の拘りからか、ゲームは可能な限りパッケージ派。ダウンロード版は出来るだけ手を付けないのが成瀬流である。

達人曰く、『パッケージもゲームの一つ』の信念を貫き通した結果、棚には数えるのが億劫になるほどズラッと並んだゲーム群。


「このゲームの表紙がいいんだよな、こう購買意欲をそそるというか。期待を煽るというか」


丁寧に取り出したディスクをコンシューマ機に差し込む。売ることはないが、可能な限り丁重に扱うのは昔からの癖かもしれない。


「その期待を裏切らないのが神ゲーなんだ。そして俺は神ゲーを求め今日もガチャを引く」


ゲームなんて実際は買ってみないと分からない。いい部分だけを映像に落とし込んだ動画は興味を引くだろうが新品は安くないのだ。

限定版ならなおさらに高い。それ故に一定の期待未満のゲームを買うかはレビューによって左右されることになる。


「他人の意見に左右される前に買うのが乙なんだ。レビューはレビュー。俺は俺。頼むぞ...」


既に購入したゲームに望みを託して明人はタイトル画面を待った。



「壊れるか、あそこで」


呟いた明人が向かったのはゲーム街のショップ。ここではPC周りの機器からゲーム関連までをサポートしているので、いざゲームをしようと思ったらコントローラーが壊れてしまった場合でも対処は難しくないだろう。


明人がお目当てのものを探していると見知った顔が近づいてきた。


「おーい、明人!今日も暇だな!」


「いつも暇みたいに言うな。陣、今日部活は?」


「休みだ。さすがに毎日部活はやってねーよ。」


「珍しい...こともないか。用事はあれか?」


明人は陣の奥でマウスを眺めている影を視線で指す。

それに対し陣は、「おい!」と一呼吸おいてから


「あれって言うな。あれは可愛い可愛い...」


言ってるぞ、と明人が陣に突っ込む前にこちらに気づいたのか、軽い足取りで近づいてくるのは


「明人ー!久しぶりだねっ」


明人の腕に抱き着いたのは本山美沙。陣の妹だ。妙になれなれしいのは前から、明人としても悪い気はしないのでそのままにしている。


「美沙。久しぶりだな。」


「うん!あ、言っとくけどお兄ちゃんは関係ないから。たまたま会っただけだから」


勘違いしないようにと釘を刺した美沙の横で悲しそうな顔をしたのはもちろん陣だ。

陣と同じく美沙のコミュ力も異常に高い。

一言で言えば快活で、明人に言わせるなら人懐っこい性格である。


前髪を分けたショートヘアでピョンと跳ねたアホ毛が特徴的。

兄に対しては冷たい一面を見せることは多いがそれも兄が原因なのだとすれば妹にこそ同情するべきだろう。


「そうなのか。勘違いして悪かった、シスコン」


「シスコン上等だろうが!お前はそうやって俺から妹を奪っていくんだ...」


「え?明人、美沙のこと...」


美沙の大きく見開いた瞳が明人に期待を寄せる。それに合わせて陣も何かを悟ったようにどこか遠く空を見上げる息の揃った兄弟コンビネーション。

そしてそれは明人の言葉で終幕する。


「...ああ。友達の妹以上、友達の妹以下だ。」


「そんな~...明人ー」


どこからが発端か忘れたがこの流れは既に確立してしまったため、明人も毎度付き合うようにしている。

美沙の方はツンツンしているものの、この流れを見るに実際はとても仲が良い兄弟なのだと明人は思っている。


「美沙は何か用事か?PC関連なら何か力になれると思うけど」


「あー、うん...」


曖昧な返事をしながら何かを探している様子の美沙。明人と同じように何かを買いに来たのだろうか。

探しものなら手伝うぞ、と言いかけた明人をよそに目当ての物を見つけたのか美沙は会話の輪を抜けて先ほど居た場所へと戻っていく。


「?」


「じゃ俺は用事あるから帰るわ。美沙をよろしくな」


陣はそういうと明人に妹を任せて店を出ていく。偶然会ったのは本当らしい。

美沙が居た方を見やると既に姿は無く、明人も自分の用事を済ませようと思ったのだが、頼まれた瞬間に目を離すのも後味が悪いと考え直し彼女の後を追うことにした。


「明人ー!」


姿を消した場所へ向かうと美沙が分かりやすく手を振って明人を誘う。

近づいてみると美沙とその隣で美沙と同じぐらいの少女が視界に入った。

美沙はその少女に声をかけるようにして、


桜霞(おうか)、無害なお兄さん見つけてきたから。お兄ちゃんよりも優しいし話しやすい、今一番欲しかった人材だよ」


「お前は俺の何なんだ。」


「新しい仕事を紹介してるの!大切な仕事だよ?明人にしか出来ないんだよ。」


即席のプロデューサーが真っすぐな瞳で明人を見つめる。

自分にしかできない仕事と言われるとやる気が少しだけ出てくるのはもしかしてちょろいのか俺は、と明人は思ったがどちらにせよ、陣の可愛い妹の為に一肌脱ぐことには変わりない。


間違いなく仕事内容には今呼ばれた桜霞という少女が関わっている気がするが、今にも逃げそうである。その状態で明人に出来ることはあるのかは些か疑問が残る。


「内容によるぞ」


「桜霞ー。ほら、挨拶」


内容を聞かされないまま、美沙の後ろで小さくなっていた子がおずおずと出てきた。


ピンクと白を基調としたワンピースがお似合いの銀髪少女が姿を現す。背丈は美沙より少し低く、触れてしまったら壊れそうな繊細さを感じる。


「...夕凪桜霞、です」


明人の自己紹介も終わり、落ち着いた場所に移動して美沙が早速本題に入った。


「桜霞の人見知りを直すために何かアドバイスを!」


「...人見知りか。」


そう言って明人は夕凪に視線だけ向けてみる。


それでさえも身体をビクッと震わせて顔をそらすのだから、相談するレベルなのは間違いないだろう。

明人は美沙の方に視線を戻しいくつか思案してみる。特別素晴らしい答えを出す自信はないが、出来るなら力になってやりたい。


「そうだな...例えばバイトしてみるとか」


「嫌です」


「...」


速攻で返事をした夕凪の小さいながらも強い言葉に、その後の言葉を見失ってしまう明人。


暫らくの静寂が走ったがこのままでも埒が明かないので引き続き思いついたもので攻める。


「確かにハードルが高すぎた。うーん、簡単なところからいくと近所の人に挨拶するってのはどうだ?少しずつ慣れてきたら会話まで発展したりな」


「ん...まぁ」


先に比べれば上々の返答だ。人見知りはほとんど慣れと言うし、最初から大きなことはせず身近なところからきっかけを作っていくのが良さそうだ。

明人と夕凪の息が、初めて合った気がした。


「それはダメだよ明人。桜霞は家から出ないからそれで慣れるっていっても何年かかるか、美沙にはわからない」


「それでも朝登校するときぐらいは何度か顔合わせするはずだろ?それを繰り返していけば」


「明人...」と小さく呆れたように呟いた美沙は、この計画が長期化する理由を語りだした。


「あのね、その考え自体には問題ないんだけど桜霞はね、そういう朝の井戸端会議ばっちり避けちゃうから。つまり、誰も居ない道を通って通学してるってこと」


「てことは、一人だけならなんとか挨拶できるってことか」


「甘いわ明人。その一人の条件はとてつもなく険しいの。優しそうで怒らなそうで女性で必要以上に会話を求めてこなくてたとえその人の挨拶をスルーしても次の機会を待ってくれるような、そんな人このご時世見つかると思う?」


「分かった。この案も無しだ。でもなんとなく夕凪のことを理解できた気がする」


「...っ。」


頬を紅潮させるかのように下を向いた夕凪はどこにでもいる普通の少女。

明人もどちらかと言えば人見知りな方だったが、年を重ねるごとにいつの間にか緩和されたらしい。部活に入っていたのもあるかもしれないが、きっかけさえあれば難しい問題じゃないはず。


「明人?もしかして桜霞のこと...」


「その下りはいらん」


「ですよねー。」


それから何度か明人が思いつく言葉を並べる。当たる当たらないは別として夕凪なりの解決方法にさえ引っ掛かれば好転するかもしれない。


「部活に入るってのは」

「あのね...」


「自信を持つってのはどうだ?」

「じゃあ持たせてみせて」


「youtuber」

「嫌」

「絶対諦めたでしょ、明人」


「...。」

「...。」

「...。」


提案しているのは初めから明人なので、黙ってしまうとそれだけ無の時間が流れていく。

数ではなく、質で勝負するべきだと頭をリセットした明人は今日今までの流れを思い返して気になるワードを手繰る。


「そういえば始めの方で家から出ないっていったよな?それって」


あー、と思い出すようにして話す美沙はおそらくその光景をみたことがあるのだろう。


「桜霞ゲーム好きなんだよね。めちゃくちゃ好き。今なんでもネットで買えるじゃん?桜霞はネットしか使わないから外に出る必要がないんだよね」


「なるほどな。俺と一緒だ」


「そう...なんですか?」


「そうだな、ほとんど外に出てない。去年はゲームセンターにいくために何度か出たけど本質はゲームだ。家で引きこもろうと思えばそれはそれでいける。食材も届けば飯も届く、良い時代だ」


「そうですか」


ほとんど表情の変わらない単純な返事のように見えたが今までで一番の笑みだ。笑顔になったら案外凄く可愛いのかもしれない、と明人は思いつつ頭をひねらせ続けるが明確な答えは出てこない。一歩視点を変えるために明人は質問する側に回ってみることにした。


「そもそもなんだが、どうして美沙がそこまで熱心なんだ?これは夕凪の問題だよな」


美沙は夕凪はタイプも違えば、見たことはないが学園内のグループだって違う気がする。

明人自身この二人が揃っているところを未だかつて見たことはなかった。始めは夕凪が遠慮しているように見えたが、美沙が上手く詰めているように見える二人にはまだ距離があるように感じていた。


「私たちの問題だよ、明人」



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