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路傍の碧  作者: 百々色ゆふ子
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依頼

堀川氏の事務所は、鏑木が構える古本屋から電車で5駅程離れたところにある、オフィス街にございます。


鏑木のアブノーマル屋敷を出るとすぐに、主人がチャコに何かを命じました。

チャコは優秀な斥候でもありますから、先行して調査に赴いたりするのであります。

命じられたチャコはゆったりと主人の腕から降り、すぐ先の路地をふいと曲がると、もう姿が見えなくなっておりました。


初めのころは主人と二人でどうすればよいか分からず不安で、うろうろとチャコを追いかけようとしたものでした。


近頃では道端に落ちる毛玉のようなものを片付けるのが日常になっていて、主人によるとそれらは人間が落としていく雑念のようなものだそうです。


黒い糸くずが絡まって出来た小さな毬のような形で、どうやら人の目には見えておらぬようでございました。


チャコには見えておりましたが普通の野良猫はヒゲにそれらがくっついていてもお構いなしでしたので、おそらく見えておらぬのでしょう。


人は常に何かしら思考していて、前を歩く女が美しくないだとか、初老の男性の匂いが嫌だとか要らぬことを考えては捨てているそうでございます。


その念が気の流れなどで寄り集まり、絡まって落ちているのです。

ある日私の身体がそれらを吸収することを発見したので、町内会のごみ拾いよろしく集めているんであります。


時折それらを形のない手にとってほぐしていくと、切れ切れになった雑念が蒲公英の綿毛のようにどこかへ飛んでいき、また取り留めなく誰かに取り付いては吹き溜まっていくようでございました。


吸収した念が私の身体のどこに行ってしまうのか、主人に聞かれた事もございましたが、とんと見当がつきません。


妖を見る主人の目にも、私がブラックホールのように念を吸い取るところまでしか見えぬのだそうです。


「上の連中なら分かるのかもね。」


あさっての方角を向いたままボソッと漏らした主人ですが、それ以上は何も言いませんでした。


***


堀川氏の事務所はひび割れた古い建物の一室にございまして、高い建物によくある昇降機は備わっておりませんでした。

運動は好きな主人ですが階段だけは性に合わないようで、四階にたどり着くまでちょくちょく舌打ちが聞こえます。

私には疲労するための筋がそもそもありませんので、どすどすと登る主人の後をそっとついてゆきます。


四階には堀川の事務所の他にもいくつか商を行う集団が部屋を借りているようでした。

階段の登りきり、折り返すと突き当りに金属の扉があり、白い板が張り付けてあります。


【堀川探偵事務所】


主人はノックもせずに扉を開けるとズカズカと中に入ってゆきます。


「あっ。」


机に向かって書類を並べていた地味な小男が恐らく堀川氏でございましょう。



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