お前の晴れた笑顔が見たい。
『明日は晴れると願いたい。』の奴視点です。短いですがどうぞよろしく!
アイツは空が晴れたように笑う。
何時からだろう。アイツが俺にあの晴れた笑顔を見せなくなったのは。
もう一度、もう一度だけでいいから、俺はあの晴れた笑顔が見たい。
◆◇◆◇
俺とアイツはいわゆる幼馴染みと言う奴で、バスケを一緒にする仲だった。両親同士がバスケ馬鹿で、小さい頃からボールと一緒だった。
アイツと初めて本格的なバスケを見たのは、4歳のときだった。アイツは、綺麗なロングシュートに魅せられたようだった。アイツが魅せられたときの顔が、空が晴れたような笑顔で、思えばこの時、俺はアイツが好きになったんだと思う。
それからは、バスケ三昧だった。アイツはどんどん上手くなっていくから、俺は必死だった。俺が綺麗なシュートを決めると、アイツは瞳をキラキラさせて、あの晴れたような笑顔で「すごい!」と褒めてくれた。
俺はそれが嬉しくて、アイツ以上に練習するようになった。
小学校低学年のとき、斜め向かいにあの子が引っ越してきた。あの子はとにかくフワフワしてて、女の子、という感じだった。クラスの男子全員があの子を好きになったが、俺はやっぱり、フワフワの茶色い髪より黒いストレートなポニーテール。アイツのことが好きだった。
あの子は少し我が儘で、甘えん坊だった。俺とアイツがバスケをしていると、
「つまんないからあたしと遊ぼうよ!」
と言って、俺だけを連れて行った。アイツは無視して、一人でバスケをするようになった。俺はアイツにとってバスケよりも下なんだと思うと、悲しくて何も言えなかった。
中学に上がる頃になると、アイツとの接点がどんどん無くなり、代わりにあの子の我が儘がどんどん増えた。俺はうんざりして、あの子の我が儘を聞かなくなった。
それに俺はバスケ部に入ったから、部活が忙しくてあの子と会う時間は減った。正直、ほっとした。でもこの頃からだろう、部活で見かけるアイツの顔がどんどん暗くなっていったのは。
中学2年の初夏、俺達の中学はクラス替えがなかったから、またアイツとは違うクラスだった。この頃から、アイツの変な噂が流れた。アイツと俺のクラスは離れていたから、俺まで届くのは少なくとも学年中、もしくは学校中に広まっているということだ。
曰く、
「友達だった子の教科書を破いて捨てた」
だの、
「友達だった子に向かって暴言を吐いた」
だの、要約すると、
「友達だった子を裏切りいじめた」
ということだった。
友達だった子というのが、あの子だということはすぐに解ったから、話を聞く為にあの子に会いに教室行った。
今思えば、俺はここで一つ間違えた。あの子に話を聞く前に、アイツの話を聞いてやればよかったし、あの子に聞くにしても、教室などの目立つ所で聞くんじゃなかった。
あの子は俺を見た瞬間、とても嬉しそうに笑い、泣きながら抱き着いてきた。そして、アイツがどんな酷いことをしたのか、声を大にしてアイツを貶めながら語った。アイツは何も言わず、下を向いて震えていた。
俺はアイツがそんなことするはずがないと思ったが、アイツは何も言わない。俺を頼らないのが悔しくて、俺はアイツが頼るまで助けないと思ってしまった。意地を張らず、助けてやれば良かったのに…
中3の春、アイツは事故にあってバスケを止めざる終えなくなった。俺はすぐに駆けつけたが、アイツの病室前で固まった。
アイツはバスケができないと聞かされたところだったらしく、泣き叫んで、怪我も気にせず暴れていた。
「なんで、なんで、なんで!なんで私だけ!嫌い!放して!触らないで!みんな嫌い!大っ嫌い!」
俺は病室に入れなかった。
俺は前にも大嫌いと言われたことがあったが、今回のは心の底からという感じで、胸が痛かった。助けてやりたかった。
それから俺にできることを考えた。考えて考えて、考えた。俺は、アイツが魅せられた綺麗なロングシュートを極めることにした。
俺はどちらかというと、ゴール下に切り込む方が好きだったから、ロングシュートを練習していると、どうしたんだとからかわれた。
高校はバスケの強いところに行くことにした。偏差値が高く、今からじゃ推薦は狙えないから、めちゃくちゃ勉強した。もう一度、アイツの晴れた笑顔が見たかった。
卒業式の日、俺はアイツを呼び止めて言った。
「バスケの強い高校に行く!お前の分も、俺がやるから!だから見てろ!お前も、バスケから離れんなよ!マネージャーとか、しろよ!お前が支えて、俺がやる。それで、一緒にやってることになるだろ?」
アイツは泣きそうになりながら、少し笑った。俺の好きな笑顔だった。
ちなみに、言ったすぐ後は言い切って満足した感じだったが、後になって、めちゃくちゃ恥ずかしくなった。
◆◇◆◇
高校に入学すると、驚いた。あの子も入学していたのだ。
俺は勿論バスケ部に入ったが、あの子もバスケ部のマネージャーになった。あの子は入部するとき、俺が好きだと宣言した。最初は部員に疎ましがられていたようだが、真面目にやっているということで認められ、部内公認の仲にされた。
でも、俺は知っている。あの子がいつも一緒にいる気の弱い子に仕事を押し付けていることを。だから俺は好きにならない。
俺が好きなのは真っ直ぐで、バスケが好きで、晴れたような笑顔のアイツだけだ。
それから俺はひたすらに練習し、高2になる頃にはエースと呼ばれるようになった。その間アイツとは会っていない。
アイツは東北の強豪校のマネージャーをやっているようだ。バスケから離れていないようで、俺はとてもほっとした。
冬、俺はあの子とバスケ部の買い出しに出かけた。他の部員達に押し付けられたのだ。
マンションの前まで帰って来たら、アイツがいた。あの子はアイツに向かって何事も無かったかのように、久しぶり、と言った。
俺が声をかけようとぐるぐる考えていると、あの子が勝手にさえずりだした。
「どうして高校教えてくれなかったの」
だの、
「あたし、心配したのよ」
だの、
「あたし達、付き合ってるのよ」
だの言っていた。
俺はあの子と付き合っていないが、アイツはどう思うんだろうと思った。嫉妬とか、悲しくなったりとかしてくれるかな?と思ってアイツを見た。
アイツはただただ、無関心に見えた。
俺は愕然とした。ショックだった。うつむいていたら、アイツがどうかしたのかと聞いてきた。俺は堪らなくなって、アイツの肩を掴んで言った。
「違う!俺はコイツと付き合ってない!俺が好きなのはお前だ!」
アイツはとても驚いた顔をして、俺を突き飛ばした。俺は突き飛ばされたことが、酷くショックだった。うつむいて黙っていると、あの子が何かブツブツ言い出した。
「おかしい…おかしい…なんで…どうして…あたしを好きじゃないとおかしいのに……おまえがいるから…おまえがいるから…おまえが!!」
アイツはあの子に突き飛ばされていた。
それからは一瞬で、気づいたら宙を舞っていた。アイツを助けられたかどうか、それだけが気がかりだったが、俺の意識はそこでプツンと切れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それからのことは、多くは語るまい。ただ言えることは、8年後、アイツが俺の腕の中で、あの空が晴れたような笑顔でいることと、その笑顔がもうすぐ一つ増えるという幸せを、二人で噛み締めているということだけだ。
俺は、お前達の晴れた笑顔が見たい。
ちゃんとハッピーエンド!だよね?
ありがとうございました!