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召使、仕事を辞める

今回は話の区切りをよくしようとしたら短くなってしまいました。まだまだ未熟です。

 未だ状況が飲み込めておらず、困惑する怜香に対し、恭一が馬鹿にするような口調で言った。

「はっ! 俺が誰かって? 高峰 恭一に決まってんだろ」

「ふざけないで! あんたが恭一の訳無いじゃない!!」

 叫ぶ怜香を前に恭一はぼそっと呟く。

「……馬鹿女」

「なんですって!」

 恭一の侮辱に怜香が憤慨するが、恭一は全く動じる事なく、それどころか心底馬鹿にするように言った。

「お前は自分を何だと思ってる? 天下の戸澤家の一人娘だぞ? そんなのが護衛も無しにうろついたらどうなるかよく考えろ馬鹿」

 恭一の態度に込み上げる怒りを何とか抑え、努めて冷静に返す怜香。

「それとあんたが恭一だっていう事と何の関係があるのよ?」

 怜香の言葉に恭一は心底呆れたような表情をし、そして怠そうに話し始めた。

「全部説明しないと判らないか、マジで馬鹿だな。いいか? ターゲットにいかにも強そうな護衛が居たとして、狙ってる奴らはどう動く? 単純に襲ってくるか? いや、来ない。

どんな馬鹿でも護衛がいると知ったら多少なりとも策を練るもんだ。じゃあ、ターゲットの側にいるのがいかにもトロくて使えなさそうな召使だったらどうだ? ちょっと襲っただけで簡単に誘拐出来そうだと思うだろ。つまりそーゆー事だ。ついでに、不細工で内気で気弱ならマイナス評価の情報が流れやすいし、護衛の邪魔になるような生徒なんかも寄って来ない。ほんと、苦労したぜ、擬似脂肪は動きずれーし、性格はストレス溜まるし、何より護衛対象が最悪だし」

 後半から顔を苦々しく歪め、文句を垂れる恭一。

 対して怜香は、屈辱に振るえていた。自分が長年蔑み、馬鹿にしていた相手にまさか守られていたなど夢にも思っていなかったのだろう。

「……いつから?」

「ん?」

「いつから護衛なんてしてたのよ?」

 恭一をキッと睨み付けながら怜香が問う。

 一体いつから騙していたのかと、目が言っていた。

「バーカ、んなもん始めからに決まってんだろ」

「始め……え? まさか……」

 怜香を彩ったのは驚愕と、呆然。

 無理もないだろう。当時七歳の子供がボディーガードとして機能するとは考えられない。

 しかし、思い出せと怜香は思う。恭一が太り始めたのはいつからだろうか?内気なのは?顔に今の面影が無くなったのは?と。

 目の前の男の言葉が事実なのだと、怜香がそう理解するのに時間はいらなかった。

「さって、こんなもんか、なっと」

 信じられない告白に息を飲む怜香をよそに、恭一はあらかた鞄に変装セットを詰め終えたらしい。鞄を肩に担ぎ、学生服のポケットから携帯電話を取り出すと、どこかにかけはじめた。

 数コールして相手がでる。

『主任? 何かあったんですか?』

 電話に出たのは若い女の声だった。

「あ、奈津なつ? 俺辞めるわ」

『…………は?』

「だから、辞めるわ。護衛」

『えっちょっ、どうしたんですか急に!?』

 まるで遊びに行くかのような気軽過ぎる、だが内容は決して気軽ではない言葉に奈津と呼ばれた電話の相手は酷く困惑していた。

「どーしたもこーしたも、もうウンザリだよ。飯は減らされ、荷物は持たされ、事あるごとに侮辱され。それだけならまだしも、今日なんか空き部屋で散々文句言われてリンチだぞリンチ!! こんな恩知らずの性悪馬鹿女の護衛なんぞ、やってられっかあ!!!!」

『わっ、わっ、え、えぇと』

 思い出して怒りが再燃したらしい。恭一は電話の向こうで狼狽する奈津をよそに吠えると、勢いよく電話を切る。

「さて、そーゆー事だから、アバヨ馬鹿女」

 携帯電話を仕舞いながら恭一はそう言い捨てると入口へ行き、生徒会室のドアを蹴破った。そのまま振り返る事も無く部屋を出ていく。

 怜香は呆然とその様子を見つめていた。

 あまりにも突飛な出来事の連続に、頭が理解に追い付かないのだろう。

「なんなのよ。一体」

 静まり返った部屋に、怜香のようやく絞り出した渇いた呟きが響いた。

 恭一が出てからしばらくして、怜香は男達の処理を取り巻きに任せ、一人帰路についていた。

「どうなってるのよ。私一人だけ知らない所で色々仕掛けてるって事? 冗談じゃない」

 時が経つにつれ、多少落ち着いた怜香はブツブツ文句を言いながら屋敷への道を不機嫌そうに大股で歩いてゆく。欺かれていた事や自分の知らない所で色々とやられる事が大いに不満のようだ。

 怜香の顔には帰ったら屋敷の人間に色々問い詰めてやるという燃えるような決意が見て取れた。

「あの、すみません」

 不意に、怜香の肩に手が置かれ何者かが声を掛けた。

 端から見ても不機嫌なオーラを充分過ぎる程噴き出している怜香に話し掛けるとは、一体どれだけの命知らずか。

「なんですかっ!」

 睨み殺さんばかりの勢いで怜香が振り向く。

 瞬間、怜香の全身がビクンと震えたかと思えば、その場に倒れ伏した。

「ほらっ急いで乗せろ!」

「分かってる!」

 いつの間に近付いたのか、怜香のすぐ隣まで来ていた黒のワゴン車のドアが開けられ、中から男が手を伸ばしていた。

 怜香を気絶させた男は持っているスタンガンを懐に仕舞うと、ぐったりした怜香を車内の男と車に詰め、自分も車に乗り込む。

 その日、恭一が護衛を辞めて僅か一時間半後に、怜香は消息を絶ったのだった。


さて、お嬢様掠われてしまいました。ところで……スタンガンと電気鰻ってどっちが強いんだろ?

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