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プロローグ
その日は、雨が降っていた。
土砂降りの雨は、僅か一メートル先さえ霞ませる。
痛い程の雨を全身に受け、少年は立っていた。
目の前に広がる風景は、墓、墓、墓。見渡す限りの墓場は、数え切れない程の死人を飲み込んでいる。
少年の両親も、ついさっき此処に飲み込まれた所だった。
真っ黒な服で、絶望に染まった瞳の少年は、まるで人形のように、ただ、立ち尽くしていた。
そんな少年の後ろから、不意に近付く影が、一つ。
影は少年の真後ろにまで来ると、そっと自分の傘に少年をいれる。
「……」
まるで周りになど関心を示さない少年に、影の主から言葉が掛かった。
「うちに、来ないかい?」
「……」
優しそうな男の声だった。だからだろうか、少年はゆっくり振り返ると、生気の無い瞳で男を見上げる。
「……おいで」
男が少年に手を差し出し、言う。少年は無表情で、だがしっかりと、男の手を握った。
こうして、高峰 恭一は、戸澤家で暮らす事となったのである。