表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/50

手癖

 届いた手紙を広げて、タルトはそこに書かれている文字に目を走らせていた。

「タルトが読み書きできるなんて意外だわ」

「それ、前も言ってたぞ」

 ジト、とショコラに釘を刺しておく。タルトは都会育ちではないが、彼女の部族は文字の価値を知っていた。

「それで、手紙にはなんと?」

「大したことじゃないよ。最近の村での出来事とかが書いてあるだけ。イノシシに柵を壊されたとかな」

「平和からはかけ離れた村だね」

 森のそばでの生活を想像したのか、クッキーは思わず背筋を震わせた。


「手紙を書いたのはお父上ですか?」

「いや、母さんだよ。こういうのが好きみたいで、マメに送ってくるんだ」

「あんたとは大違いね」

「まぁ、3通に1回くらい返事を返せばいいほうかなー」

 ショコラの皮肉にも動じず、タルトは赤毛の頭を掻いてみせる。


 楽しげな様子を、クッキーはニコニコと眺めていた。


「お母様も、タルトさんと同じような恰好を?」

 どうしても気になったらしいプリンが、真面目な表情で問いかける。

 しかし、タルトは少し答えにくそうに視線を逸らした。

「ま、まあ、家族の話はいいじゃねえか」


「なんでよ。ぜったい、気になるところでしょ」

 なおも詰問しようとするショコラ。タルトは、何かを訴えるように目くばせしてみせる。

「ほら、クッキーは……」

「あ……そ、そうね。無神経だったわ」

 その意図を察して、ショコラも口を閉じた。


「へ?」

 一方、いきなり名前を呼ばれたクッキーは意外そうな顔だ。

 大きな目で何度もまばたきしてから、なぜかまわりが沈痛な雰囲気に包まれていることに気づいた。そう、この盗賊少女は空気を読むのが苦手なのである。


「えーっと……」

 たっぷり時間を取って、彼女らが言いたいことを察し始めた。

 当惑から驚き、そして不機嫌さが顔ににじんでいって……


「言っとくけど、ボク、みなしごじゃないからね」

「ええっ!?」

 タルトとショコラの驚きの声が見事に重なった。


「嘘でしょ!? じゃあなんで盗賊に!?」

「思いっきり偏見じゃんか! 職業差別反対!」

 クッキーは珍しく、「びしっ!」と指を立てて抗議する。そう、盗賊が後ろ暗いイメージはもはや時代遅れなのだ!


「盗賊ギルドだって、犯罪者の集団じゃないし。ジジョーサヨー? ってやつが働いたんだよ」

「ま、まあ、ギルドがやってることがみんな非合法ってわけじゃないよな」

 と、タルト。古代の遺跡にもぐり込んで盗掘まがいの行為を働く冒険者の合法性については、今は無視してよいものとする。

「もともと、スリや詐欺を好き勝手にさせないように睨みをきかせるのが盗賊ギルドの目的だし、いまどきは冒険の技術を学ぶために入門するのもフツーだよ、フツー」


「私はてっきり、スラム街で生まれ育ったストレートチルドレンが他に生きる術を知らずに盗賊としての技術を見出されて……っていう、かわいそうな子なんだとばかり」

「ボクも好き放題言われたときには傷つくからね?」

 今までちょっぴり気を使っていたのだろう。ようやく言えた、とばかりのショコラの軽口に、クッキーはぴきぴき眉を振るわせる。


「まあ、クッキーさんの場合は、それだけじゃありませんけど」

 静かに話を聞いていたプリンが、にっこりとほほ笑んだままに言う。

「ぷ、プリン。昔の話でしょ」

「あら、ごく最近ですよ」

「ボクは若いから、ボクにとっては昔なの」

 必死に何かをごまかそうとするクッキー。プリンは口元を抑えて、ふふふとさらに笑みを深めた。


「昔、何かあったのか?」

 タルトとショコラはこの街の生まれではない。四人の中では、プリンとクッキーがいちばん古い付き合いだ。

「クッキーさんは昔からガマンがきかないタチで」

「昔から、じゃなくて、昔は、だから」

 汗をだらだら流しながら、クッキーが話を制しようとしている。だが、プリンは一向に止まらない。


「ほしいものはすぐに手に入れてしまう悪癖があったんですよ」

「それって……」

「あの時は、わたくしのブローチをすれ違いざまに……」

「うわぁ」

 絶句するショコラ。タルトも、ちょっぴりクッキーから距離を取り始めていた。


「さすがにそういう本格的な犯罪はあたしもヒくぞ」

「ほんとうに子供の頃の話なんだって! それに、おかげで盗賊ギルドにぶち込まれて色々と叩き込まれたし……」

 ぶんぶん首を振って、必死に仲間の信頼を取り戻そうとしている。

「し、信じて。お願い」

 子犬のような瞳も、盗賊ギルドで身につけた技術だ。門外不出! 今なら猫のマネも一緒に学べます!


「ちゃんとギルドで性根をたたきなおしてもらったみたいですし、もう近づいても平気ですよ」

 鉾のようにトゲトゲしい言葉と優しい笑顔を両立させて、神官が盗賊の肩に手を置いた。

「何度も謝ったじゃんかぁ……」

 というわけで、すっかりクッキーはプリンに頭が上がらないようだ。

16歳のプリンにとっては「最近」で、13歳のクッキーにとっては「昔」って、何年前のことなんでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ