続・いきなり反省会!(前)
その日、スイートメイツは正座させられていた。
「私が何で怒ってるか、心当たりはあるかい?」
彼女らの前には、一人の女が両腕を組んでいた。
白いエプロンを着た体は、そのパーツの一つ一つが大ぶりだ。170センチの長身に、年齢を重ねた恰幅。
彼女こそ、冒険者の店「白い山」亭の亭主、パンナである。
「さ、騒いでたから?」
ぽそり……と、クッキーが呟く。パンナがここまで怒りを露わにしていることは珍しく、萎縮しているのである。
「そんなことでいちいち怒りはしないよ。賑やかなほうが活気があっていい」
「じゃあ、いつもお菓子を食べているからですか?」
控えめに、プリンが問いかけてみる。だが、これにもパンナは首を振った。
「いいんだ。あたしが魔法戦士を引退したあと身につけたパティシエとしての技術を存分に振る舞えるからね」
「どういう経歴してんのよ……」
「船乗りや牧場主だった時期もあるって聞くぜ」
思わず呟くショコラに、タルトが囁き返す。
「そこ! 無駄口を叩くんじゃないよ」
「はい!」
ずびし! とお玉を向けられて、二人の声が重なる。権力にはめっぽう弱いのがスイートメイツだ。
「うちは困っている人々の依頼や、遺跡にあるお宝の情報を冒険者に斡旋するのが商売だ」
「もちろん。いつも助かっています」
少しでも機嫌を損ねまいと笑顔で答えるプリン。パンナは頷き、背後の掲示板を眺める。そこには今も、いくつかの仕事が張り出されている。
「全部成功して欲しいのがこっちの本音だけど、そうそううまくいかないこともわかってるよ」
やれやれと、パンナは首を振った。
「でもね、ちゃんと実力や実績を見て紹介しているつもりなんだよ。あんたたちなら、ゴブリン退治やジャイアントトードの調査くらいはできると思ったんだ」
「うぐっ」
一同が一斉にうなった。
元はと言えば、スイートメイツがこなしてきた仕事はこの冒険者の店を通じて紹介されたものだ。
成功すれば実績と信頼が高まる一方で、失敗は店の評判まで下げかねない事態である。
「まあ、それでも……仕方ないとは思ってるよ。私の見立てが間違ってることもある。思ってもみなかった事態が失敗につながることもある」
「じゃあ、つまり……仕事の失敗が原因で、あたしたちは座らされてるわけじゃないってことか?」
正座したままの足下をむずむずさせながら、タルトは上目使いに聞いてみた。
「そこはビジネスだからね。今後の扱いについては考えなきゃいけないけど、個人的な感情はないよ」
と、そう告げられると、スイートメイツは改めて首をひねるハメになった。では、なにが問題なのだろうか。
「あんたたち、うちが飲食店であることを忘れてないかい?」
さらに首をひねる一同。もちろん、毎日お菓子ばかり貪っているスイートメイツが、この店を靴屋や石切場に間違うはずがない。
「こっちはいつも見てるんだよ。この前、ランプから魔神が出てきたろ?」
「ええ。三つ願いを叶える、と言ったのに一つだけしか願わなかったときね」
苦々しい思い出を指摘され、ショコラは悲しげにうつむいた。本当にもったいないことをした、と何度か夢に見たほどである。
「あたしはカスタードをもらったからいいけどな」
「そこだよ!」
あっけらかんとしたタルトの様子に、再びお玉をつきつけるパンナ。
「普通の事態じゃなかったとはいえ、外でやるとか、考えて欲しかったね。店の中に馬を連れ込むやつがいるかい?」
「急にその場に出てくるとは思ってなかったからさあ」
「喝っ!」
「はいっ! ごめんなさい!」
言い訳を重ねようとするタルトへ、パンナが一喝する……あまりの迫力に、タルトはその場で深々と頭を下げた。
「他に謝らなきゃいけない人がいるよね?」
「は、はい」
ギラギラしたパンナの視線に射貫かれて、ショコラは恐る恐る声をあげた。
「自分がなにしたかわかってるね?」
「わ、私は店の中で薬の調合をしてました」
震える声と反らした目でショコラが答える。
「そうだね。錬金術は調合をまちがえるとなぜかやたらと爆発することで有名だというのに、それを人の店内で」
「あ、あのときは、爆発はしない計算だったのよ」
「喝ッ!」
「ひゃい! 私が悪かったです!」
迫力にあっさり負けて、ショコラも頭を下げた。長い黒髪が、ぱさりと床に流れる。
「わたくしたちもお二人のぶんまで一緒に謝りますから、このあたりで……」
「ボクたちは、そういう爆発的なことはしてないし……」
プリンとクッキーが意見しようとすると、パンナはにっこり笑った。
「本当に自分たちがなにもしていないか、よく考えてごらん」
お玉を掲げて、パンナが告げる。
「明日の更新までにね!」




