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いきなりグレイルクエスト!(中)

「無駄足を踏んだわ」

 衛兵の詰め所を後にして、ムッスリとショコラがつぶやく。


「こちらは念のため、でしたからね」

 詰め所に行ったら落とし物としてゴブレットが届いていた……という期待はゼロではなかったが、低いだろう、とは思っていた。

 盗賊ギルドは普通の市民が思っているよりもずっと、街の中の落とし物に敏感なのだ。


「ないならないでさっさとそう言えばいいのに、いちいち名前を控えたりするんだから……」

 おかげで、かなり時間を取ってしまった。

 合流地点に決めていたいつもの冒険者の店、「白い山」亭につく頃には、日はかなり傾いている。


 夕暮れ時だ。

 すでに、タルトとクッキー、それにプリンの弟ベネディクトがそこで待っていた。


「どうだった?」

「盗賊ギルドにも、落とし物としては届いてなかった……んだけど」

「だけど?」


 クッキーは待っている間に調達したのだろう木の実をかじりながら、面倒そうに肩をすくめる。

「昨晩、例の三つ子の小人族(リトルフィート)が下水の掃除をしてたって」

「しかも、あの水路の下流だ」

 タルトが付け足し、クッキーは大きく頷いた。


「あの連中なら、ギルドに黙ってちょろまかした……っていうのも、大いにありそうだろ?」

「確かにね」

 小人族はイタズラ好きでよく知られている……だけでなく、悪知恵が働く三つ子なら、仕事中に見つけたお宝を自分のものにしてしまう、ということも十分あり得る。


「それでは、彼女らを訪ねないと」

「何かと縁があるね」

「あたしからすりゃ、ろくな縁じゃないけどな」





 十字路の街はその名の通り、南北と東西の街道が交わる位置にある。

 街の中も十字の道で大きく区分けされ、盗賊ギルドが根城とする南東部は、独特の空気に包まれる……特に、夕暮れ時からは。

 そんな南東部の一角、「跳ねる大ロバ」亭は荒くれどもが集まる酒場だ。


「たのもーっ!」

 勢いよく扉を開くタルト。こういう時は、戦士が一番前に出るものだ。

 店中の視線が、大声を上げる妙な女に集まる。何せ、下着と見まごうようなおかしな鎧をつけている。


「あの方は、いつもああなんですか?」

「言いたいことはよくわかるわ」

 後ろに立たされたベネディクトが思わず問いかけると、ショコラは頭を抑えてつぶやき返した。


「げっ、お前ら!」

 探すまでもなく、ターゲットは反応してくれた。テーブルの上で踊っていた小人族の一人が振り返り、悲鳴じみた声をあげたのだ。

 小人族の三つ子は店のあちこちで踊って場を盛り上げ、小銭をせしめようとしていたようだ。残念ながら、まだ日が浅いから客の財布はそこまで緩んでいなかったのだが。


「探す手間が省けたぜ。聞きたいことがある。おとなしく答えれば、痛いことはしねえぜ」

 こういう場所では、舐められたら終わりだ。タルトはできるだけ迫力たっぷりにすごんで見せた。


「なんだと? てめえ、やる気か?」

 ずい、と大柄な男が間に割り込んでくる。

 なにか特別な事情があるわけではない。こういうところには、もめ事が好きな輩がいるものだ。


「おい坊主、女の後ろに隠れて情けねえと思わないのか?」

 男が声をかけたのはベネディクトだ。何せ、事情を知らないものからすれば、女性を4人もはべらせている……と見えてもおかしくない。


「そうじゃない。もっと平和的に……」

「声が小さくて聞こえねえよ!」

 知らず知らずのうちに、恐怖心があったのだろう。ベネディクトの声は、かなりか細いものだった。


「もう眠いのか? 俺が目を覚まさせてや……」

「あたしらを無視するなって」

 横を通り過ぎようとする男の襟首を掴み、タルトが言う。そして、小人族の一人が立ったままのテーブルへ投げ飛ばした。


「ぐえーっ!」

「ぎゃーっ!」

 男と小人族の悲鳴が重なる。

 途端、店内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「騒ぎを大きくしてどうすんのよ!」

「こっちの方が早い。クッキー、裏口から逃げないように見張ってろ!」

「もーっ!」

 タルトとのケンカにさらに何人かの客が割り込んでくる。ベネディクトは薄暗い照明の下で、その光景をしばらく眺めていた。





「それなら、確かに見つけたよ」

 しばしののち。

 何人かの客とタルトのケンカに恐れをなして震えていた小人族の三人……ヒッパ、フッパ、ミッパを正座させて、スイートメイツは話を聞き出していた。


 ケンカに参加していた客たちとタルトのケガは、プリンが見ていた。

 ここで無傷で切り抜けていたらもっとカッコいいのだが、いかんせんタルトには防御力が足りなかった。


「銀のゴブレットで、月のマークが刻まれています。間違いありませんか?」

「確かにそれだよ。真面目に働いてるあたしらへのご褒美だと思ったんだよ」


「次からは、ギルドに言ったほうが身のためだと思うけどね」

 プリンとクッキーの詰問に、ヒッパはふん、と鼻をならす。


「売り飛ばしたりしたわけじゃないよ。供え物にしたんだ」

「供え物? なんの話よ?」

 意外な言葉をショコラが聞き返す。


「あたしらがねぐらにしてた墓守の家があっただろ」

「ボクらがとっ捕まえたところだね」

 ヒッパは不機嫌そうに頷く。


「ゴブレットに水と花を入れて供えたんだよ。ちょっとでも、慰めになると思って」

「……意外と信心深いんですね」

 プリンが驚きの声をあげると、フッパとミッパが「別にいいだろ」「夢に出そうで怖いんだ」と口々に言った。


「ようやく、在処ありかがわかったか」

 血止めのために鼻に詰めていた布を抜きながら、タルトが起き上がる。

「では、そこに?」

 ベネディクトの問いかけに、スイートメイツは頷く。


「……だから、供え物ってなんの話よ?」

 一人を覗いて。

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