プリンセラとベネディクト
「あなたがたに依頼があります」
突然店に姿を現した少年……ベネディクトはその言葉とともに、羊皮紙を一枚、突き出した。
「お、おう?」
なぜかその目の前にいたタルトはその羊皮紙の文字をまじまじと見つめた。
「そういえば、タルトって共通語が読めるんだよね。ちょっと意外」
「あたしは故郷じゃ博学で通ってたんだぜ。本を読むのも好きだしな」
「それは本当に意外です」
「……」
羊皮紙を突き出したまま、金髪の少年は何かもの言いたげにしていた。
「プリンくらいは、反応してあげたほうがいいんじゃないの」
仕方ない、とでも言うように、ショコラは話題を振った。
「弟がいきなり現れて、名指しで仕事をさせたいなんてワケありでしょ?」
「はぁ……。家族との腹の探り合いなんて、気が進みません」
「せめて本人のいないところで言ってやれよ」
「ベンも少し前まではこんなに小さくて、いつも私の後を追いかけてきていましたのに」
「姉上……」
「騎士の盾に憧れていたから、わたくしが皮で作ってあげたら、どこにでも持ち歩くようになって……」
「姉上!」
少し顔を赤くして、ベネディクトは声をあげた。
実の所、どちらが会話のイニシアチブをとるかの政治戦はすでに始まっているのだが、姉の企みに気づくほど、ベネディクトは世間ずれしていなかった。
「僕が姉上を慕っていたのは、あなたが家を出るまでです」
「わたくしはすでに僧侶の身。あなたがたに口出しされるいわれはありません」
「口だけでしょう。父上と何度も面会しているではありませんか」
「神官と信者として語り合っているのです」
「詭弁です!」
「大人のやり方を学び、実践しているんです」
姉弟の問答は熱を増していく。
「なんの話してるかわかるか?」
「ぜんぜん」
「家族の話になると、プリンってなんだか怖いんだよね」
蚊帳の外に回された3人は、羊皮紙に書かれた依頼文を眺めながらひそひそささやき合う。
「それで、結局依頼というのは?」
「我が家の伝来の杯を探してください」
極力内面を悟られまいとしてか、いくらか声を低くしてベネディクトが告げる。
「あれが……なくなったのですか?」
プリンの声に怒気を増している。ベネディクトはかしこまったように体を縮め、おずおずと頷いた。
「大事なものなの?」
ショコラの問いかけに、プリンはゆっくりと頷いた。
「我が家にとっては、とても重要なものです。ある意味、今の家名はそのゴブレットのおかげとも言えます」
プリンの回答に、一同がゴクリと喉を鳴らした。
「わたくしの家計は代々、お酒に弱い上に酒癖が悪くて……代々、お酒絡みのトラブルが絶えなかったのです」
「ええー」
なんだか聞きたくない事情が飛び出してきて、クッキーは思わずうめいた。
「そこで、先々代が手に入れたのが、貴重な魔法のゴブレットです。それを使うと、いくら飲んでもお酒に酔うことがなくなる、という代物なのです」
プリンの説明をベネディクトが引き継いだ。
「それを手に入れて以来、酒席のトラブルはなくなり、円滑な会合ができるようになったのです」
「わかりやすいけど、程度が低いわね」
「ですから、このことは一族の秘密なのです」
「どうしても冒険者の力を借りたいのですが、外部に漏らされるわけには……」
「それで、プリンのところに来たってわけだ」
タルトがつぶやくと、ベネディクトはぐっと重たく頷いた。
「依頼料には、その分色をつけます。口外はなさらぬよう……」
「心配しなくても、そんなこと人に言わないよ」
「もし人に言って、プリンに報復されたら困るものね」
ぼそりとショコラが付け加えた。
「あら、報復の準備をした方がいいのでしょうか」
「言わないってば!」
無言のプレッシャーに首を振り、ショコラは依頼書を拾い上げる。
「もっとつり上げてもいいけど、プリンのためでもあるし。いいわよ、受けようじゃない」
「おい、リーダーのあたしに断りなく勝手に決めるなよ」
「えっ、タルトがリーダーなんだっけ!?」
放っておくとすぐに脇道にそれていく仲間たちを尻目に、プリンは弟に向き直った。
「どのようになくしたの?」
「確か……友人の酒席に顔を出したとき、ついうっかり杯をまちがえて口にして……」
ものすごく言いにくそうに、ベネディクトはぼそぼそとつぶやく。
「酔って気が大きくなって、橋の上から投げ捨てたと……」
「プリンの親父って……」
「言わないでください」
頭を抱えるプリンの肩をぽんぽんと叩いて、タルトは宣言した。
「その橋から調査をはじめよう」
突然ですが、50話までがシーズン1,みたいなイメージで書いています。
ここから数話のエピソードは、シーズン1のクライマックスに当たります。




