信教
「たまには礼拝にいらしてはいかがです?」
話が落ち着いた頃に、それぞれのティーカップにお茶を注ぎ直しながら、プリンが聞いた。
「日曜にやってるやつ?」
「ええ、神殿の門戸は誰にでも開かれています」
クッキーが問い返すと、神官はゆっくり頷いた。
「そういえば、けっこう長いこと行ってないな」
「それは、クッキーさんが礼拝で騒ぎを起こしたせいでは?」
「うぐっ。その話はもうやめてって言ってるでしょ」
穏やかな声ながら、ちくりと刺すのを忘れないのもプリンだ。
「それって、昔、プリンのアクセサリーをスった話か?」
女戦士タルトが問いかけると、プリンは小さく首の動きだけで肯定した。
「いろいろあって、その後盗賊ギルドがクッキーさんを預かることになったんですよね」
「クッキーは光の神の信徒だったのね」
話を黙って聞いていたショコラが、ふと口を挟んだ。
「ま、まあね。今もそのつもりだけど」
「そういうショコラさんは、いかがですか?」
プリンはショコラに水を向けた。あまりクッキーにばかり話をさせるのも悪いと思ったのだろう。
あるいは、仲間が神殿に顔を出さないのも、それなりに寂しいのかもしれない。
「私は海の神の信徒よ。商人の生まれなんだから」
「そういえば」
「忘れてたんじゃないでしょうね」
ジロリ、とにらみつけるショコラに、プリンは穏やかな笑みで返した。ななめに受け流したのだ。
「タルトさんはいかがです?」
ちらりと視線を向けられたタルトは、ひょいと肩をすくめた。
「あたしは四大神には詳しくないんだ」
「南部の森の中で生まれ育ったんでしたね」
「まあ、傭兵はみんな雷の神を信仰してるから、傭兵ギルドじゃソレっぽく振る舞うけどさ」
雷の神の信徒は騒がしいことを楽しむ。
傭兵ギルドではだいたい、戦いに備えている時以外は夜になると歌うか踊るかをして過ごしている。そういう場所だ。
「四大神は友好を結んでるんですから、別の神の信徒が礼拝に来てくださってもいいんですけど……」
「確かにね」
ショコラがあっさり頷いた。自分が責められている時以外は、だいたいあっさりしているものだ。
「特に、十字路の街には海の神の神殿がないものね」
当然と言えば当然だが、海の神の神殿はほとんどが海辺に建てられる。
十字路の街があるのは平原のただ中であり、自然、海の神の信仰の人気は低い。
「実のところ、礼拝に出たからって神の加護が受けられるものなの?」
クッキーは実利主義だ。それに、13歳でもある。
だから、プリンは『それって役に立つの?』という質問に怒ったりはしなかった。
「神々のご加護は、簡単に目に見える形では現れません」
「やっぱり?」
「でも、祈らぬものに加護が与えられるということも、あまりありません」
「どういうこと?」
迷える子羊そのままの表情を浮かべるクッキーへ、プリンは易しく頷いた。
「人間の場合と同じです。知らない人に助けを求められるよりは、友人や家族に相談された時のほうが親身になるでしょう?」
「まあ、そうだな」
アーモンドをつまみながら、タルトは感心したように頷いた。プリンが意外と神官らしい話し方をしていたからだ。
「礼拝は、人間同士が交流を深めるのと同じです。自分の祈りを伝えたり、感謝を述べることで、神々との対話をするのです。直接応えてくれることは、稀にしかありませんけど」
「それで、神々と仲良くなればたくさん助けてくれるわけ? 神官みたいに?」
意地悪な問いかけをするショコラに、ゆっくりプリンは首を振った。
「わたくしは、特別扱いされてるとは思っていません。役割を与えられただけです」
プリンの回答に、ショコラは小さく鼻から息を抜いた。
「もちろん、私たちにとっては助かってるけど」
「加護を受ける代わりに、教えに反することはしないと誓いも立てています」
「本当に戒律を全部守ってるの?」
ふだんの言動からして、疑わしい……というように、クッキーが横目を向ける。
「もちろん、そうでなければとっくに加護が失われてます」
「その加護も、美容のことばっかりだけどな……」
癒やしの力はおまけである。
「光の神の戒律って、案外ゆるいんだね」
カップの中のお茶を啜りながら、クッキーはぽそりとつぶやいた。
「クッキーさんは、ぜひ礼拝にいらしてくださいね」
にっこりと笑みを浮かべたままのプレッシャーを溢れさせ、プリンが微笑む。
「……は、はい」
そのプレッシャーに推されて、クッキーはただコクコクと頷くのだった。
神様が実在する世界の宗教観について考えるのは、想像力を刺激されますね。




