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沈黙の緩怠

「ごきげんよ……」

「プリン! 待ってたぜ!」

 金髪の女神官、プリンが店の入り口をくぐった途端、挨拶するよりも先にタルトが駆け寄ってきた。


「ど、どうしたんですか?」

「あれだよ、あれ」

 ビキニの女戦士が駆け寄ってくる光景はなかなかショッキングだ。あっけにとられるプリンに対して、タルトは店の奥……彼女らのいつもの席を指さした。


「……」

 そこには、黒い髪の魔法使い、ショコラが腕を組んで座っていた。いつもよりも2割増しくらいで唇を引き結んで、頬と口の間にに縦線が入っている。


「ものっすごく機嫌が悪そうですね」

「しゃべれないんだって」

 背もたれに胸を着けて行儀悪く座っているクッキーが、ひらひら手を振った。


「しゃべれない?」

「いわゆる、魔法封じってやつだな」

 声を出せないようにして、魔法を唱えられなくする……魔法使いの力を封じる方法としては、ポピュラーで効果的だ。


「はあ……何かあったんですか?」

「……! ……、…………!」

 ショコラが身振りで何かを伝えようとしていることは分かった。それに合わせて、口をパクパク動かしていることも。

 だが、必死に声を出そうとしているところまでは分かっても、その内容までは分からなかった。


「いつも騒がしい人が喋らなくなると不気味ですね」

「……!」

 目端をつり上げてショコラが怒りを露わにする。

 だが、悲しいかな彼女の腕力では暴れてもどうにもならない。


「あたしたちじゃどうしようもないだろ」

「プリンなら治療できるかもって思って」

「沈黙にもいろいろありますから……呪いなのか、肉体的な効果なのか……何があってこうなったのか、教えてくれますか?」


 魔女はしばらく肩をいからせて大きく上下させていたが、やがて「こほん」と咳ばらいをした。

「……、………………、……………………」

 そして、何やらジェスチャーを始めた。

 目を閉じて、ぱっちり目を開けたかと思うと、胸の前にある何かを押し上げるような。


「朝起きた?」

「……。」

 ジェスチャーを読みといたプリンを指さして、こくこくと大きくうなずく。


「そこから?」

「はしょれないか?」

「……。……、…………………………!」

 ショコラは顔を洗う作業を中断して、扉を開くしぐさ。そして、自分の口元を抑えた。


「学院の研究室に向かうと、そこには驚くべき光景が!」

「……。」

 プリンの読解力に何度もうなずくショコラ。


「……。……!」

「そこには?」

 ショコラは自分の後ろを何度も指さしている。


「背後から襲われた?」

 クッキーの答えに手でバッテンを作る。


「髪をつかまれた?」

 タルトにもバッテン。


「空間的な『後ろ』ではない?」

 プリンにはこくこくとうなずく。


「となると……?」

 思案するプリンへ向けて。ショコラは別のジェスチャーを始めた。両手で下から上に何かまっすぐなものを示す。


「棒? 建物? 木?」

「……。」

 クッキーの『木』という言葉に反応して、ショコラは大きくうなずいた。


「木の? 何、手をぐるぐるして」

「木の穴、と言いたいんじゃないですか?」

「惜しい? じゃあ……『木のうろ』か?」

「その? お尻を取る?」

「きのう……『昨日』ですね!」

 ばたばたと体を動かしていたショコラがようやく答えを導き、うんうんと大きくうなずいた。


「昨日がどうしたって?」

 ショコラは胸の前で四角い箱を持ち上げ、脇にどけるしぐさをした。

「置いといて?」

 それから、複雑な器具の形を手で示してみせた。


「な、なんでしょう?」

 それは魔法の薬を作るのに使う蒸留器や漏斗の形を表していたのだが、魔法使いならぬ3人に伝わるわけがない。

 無駄だと悟ったショコラは、ふーっと大きく息をついて、背筋をまっすぐにただして前を見た。


 そして、唐突に口元をゆがめて笑みを浮かべた。


「わ、笑った」

「いえ、何かを伝えようとしているのです」

 プリンの前向きな解釈を、ショコラは高く評価して親指を立てた。


「笑う……」

「というより、これは微笑み……?」

 思いつく限りの連想を並べていく。

「微笑……うふふ……にんまり……くすくす……」

「……!」

 クッキーのつぶやく言葉に反応して、ショコラは両手でゆびさした。


「くすくす? ……あ、『くすり』!」

 ショコラは思わず拍手した。彼女がここまで喜ぶのは珍しい。


「いや、今の笑い方は完全に『ニヤリ』だったぞ」

「仕方ないですよ、そういう顔なんですから」

 さっき上げたプリンの評価を下げながら、さっき置いておいたものを持ってくるしぐさ。


「昨日、くすり?」

「昨日作った薬?」

 核心に近づいてきていることを感じて、ショコラは何度もうなずいた。


 そして、両手をばっと広げてみせる。

「爆発か?」

 タルトは冗談のつもりで言ったのだが、魔女は大真面目にうなずいた。


「ホントに爆発したのかよ!?」

 おそらく、外気が混入したことで研究室の中に充満していた成分との間に何らかの作用が起きたのだろう……とショコラは考えているが、もちろんそんなことは伝えられなかった。


「昨日作った薬が爆発して……」

「……それを吸いこんだら、こうなったのよ!」

 伝わらないもどかしさに、ショコラは声を張り上げた。


「え?」

「あれ?」

 きょとん、と3人がショコラの顔を見つめる。


「あー、あー」

 首を押さえて、ためしに声を出してみた。いつも通りの、ショコラの声だ。


「……あんたたちの察しが遅いから、薬の効果が先に切れちゃったじゃない!」

「なんで怒られるんですか!?」

 声が出なくなる薬の効果は切れたが、どんな薬でも性格までは変わらないのであった。

ショコラは状態異常を引き起こす薬ばかり作ってますね。

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