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冒険者の店

「よく考えたら、『冒険者の店』ってなんだよ」

 タルトがいきなりそんなことを言い出した。


「さんざん利用してきて、今更何言ってるのよ」

 もちろん、彼女らがいまいる場所こそ『十字路の街』最大の冒険者の店、『白い山』亭である。


「あたしの場合、最初から冒険者になろうとしたんじゃなくて、最初は傭兵ギルドを頼ってきたんだ」

 タルトは大陸南部の出身だ。南部には都市は少ないから、彼女は都市生活に慣れていない。


「どうして冒険者に転向したんですか?」と、プリン。

「傭兵をやめたわけじゃないけど、こっちの方が性に合ってる」

「傭兵たちのほうが、タルトと一緒に仕事するのは嫌がるんじゃないの」

 頭からつま先まで、大部分が肌色を露出しているタルトを眺めてショコラがつぶやいた。


「とにかく、あたしが冒険者になったのは行きがかりだったからさ。よくわかってねえんだよ」

「モンスターの群れが現れたら、街や領主がその退治をする必要があります」

 プリンが指をたて、説明が始まった。


「ふだんエラそうにしてる貴族には、そういう時に働いてもらわなきゃね」

 クッキーはつぶやいてから、プリンが貴族出身であることを思い出して、きまずそうに視線を逸らした。


「いえ、その通りです。市民を守るのが貴族の務め。でも、戦力が足りなかったら傭兵を雇う必要があります」

「そのために、傭兵もギルドを作っているわけね」

「貴族がひとりひとり面接して雇うわけにもいきませんから」

 ショコラにうなずき返し、プリンは再度、周辺を見回した。


「ただ、そこまでの事態に発展することはまれです」

「まっ、モンスターが群れになるまでほっとくのはな」

「だから、そうなるよりももっと前の段階の小さなトラブルを取り除くのが冒険者の仕事です」

 プリンはすっかり今回の解説役になっている。


「つまり、数が増えてきたモンスターを退治するとか」

「モンスターの巣になるかもしれない迷宮を調べるとか、ね」

 クッキーとショコラが続けて言い、店の中央部にある掲示板を示した。


「けっきょく、仕事の範囲が広がって他のもっと細かい仕事も引き受けるようになってしまいましたけどね」

 今も、掲示板には様々な依頼が張り出されている……逃げ出したペットの捜索、試薬の実験台、パーティの数合わせ、なんていうのもある。


「なるほど。……じゃあ、この店は?」

「他の街では、冒険者がギルドを作っているところもあるらしいけど」

 クッキーは情報通だ。もっとも、この街を離れたことはないので、噂に詳しいだけだが。


「少なくともこの街では、店が仲介役になってますね」

「こういうのは先に利権を握った人がシステムを決めるから」

 冷めた様子で、ショコラが肩をすくめた。


「んじゃ、なんで飯まで出してんだろうな」

「冒険者に払ったカネを余所で使わせたくないんじゃない?」


 スイートメイツも、ただここでクダをまいているわけではない。

 新しい依頼が張りだされたときは、基本的には早い者勝ちが冒険者の鉄則だ。

 だから、仕事を探すときは冒険者の店に張り付いていることになる。それなら、飲食物を提供して金をとる方が店の収入は高まるというわけだ。


「なるほど。それじゃあ、あたしたちは最初にトラブルに対処できるよう、番犬がわりに飼われてるわけだ」

「その分、図書館の目録作りよりは稼ぎになるわ」

 タルトにうなずいて返し、ショコラは紅茶をすする。


「傭兵にもどりたくなった?」

「いや、やっぱあたしにはこっちの方が向いてるよ」

 タルトはくるりとフォークを指のなかで回してみせた。


「ここなら、甘いものも食えるしな」


 なお、なぜ冒険者の店でテーブルを埋め尽くすほどのスイーツメニューが提供されているのかについては、まったくの謎である。

現代のファンタジー世界では冒険者ギルドが流行ですが、本作ではいわゆる「冒険者の店」を舞台にしています。

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