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カラキリ市

 十字路の街の南部には、『カラキリ市』と呼ばれる市場がある。

 主に大陸の南部と東部から運ばれてくる交易品は、そのほとんどが商人たちによって売り買いされるが、この市場にはそのあまりものが売り出される。「ピンからキリまで」の一級品ピンだけは手に入らないので「カラキリ」というわけだ。

 交易商人が滞在中にテントを広げたり日傘を立てて商品を並べるため、店も商品も日によって違う。

 ショコラとプリンは、そのカラキリ市にいた。


「これなんてどうですか?」

 東部風の織物に雑然と並べられているアクセサリーの一つを指さして、プリンが弾んだ声を上げる。

「ダメよ、見た目だけじゃ」

 しかし、ショコラはつれない態度だ。露天だから日差しで熱されてイライラしているせいかもしれない。


「でも、魔法の道具なんてそうそう見つかるものじゃありませんよ」

「だから、探しているんでしょ。テキトーに買い物して、見つけたものを買うお金がなくなったら困るわ」

 と言いつつも、もう2時間近くも市場のなかを歩き回っている。

 まだめぼしいものが見つかっていない以上、これ以上続けてもショコラの機嫌がますます悪くなるのは火を見るより明らかだ。


「ここは日によって並ぶ商品が変わります。今日がダメなら明日でも……」

「何かある予感がするのよ」

 執念深い割にうまくいかないと苛立つ。ショコラはそういう性格をしていた。


「お嬢ちゃんたち、魔法のこもった道具を探してるのかい?」

 通りがかったテントの一つから、声がかかった。

 土色のターバンを巻いた男が、ニヤニヤと笑いながら手招きしている。


「本物の魔法の道具ならね」

 ショコラはわざとつれない態度をとった。

 これも交渉術のうち。いきなり興味津々だと、足元を見られるに決まっている。


「もちろん、本物だとも! 見てもらえばわかるよ」

「どうだか。もし偽物だったら……」

「いいじゃないですか、見せてもらいましょう」

 ショコラはもう少し交渉の土台を作ろうとしたのだが、プリンはとにかく早く済ませたかった。


「どんなものですか?」

 睨みつけてくるショコラを無視して、プリンは男のテントの前にかがみこむ。

「これだ。見ていなさい」

 と、男は変わった形のモノを取り出した。銅のような金属製の機械で、ちょうど手のひらサイズの球体から棒が伸び、そこには硬質な羽のようなものが二枚ついていた。


「何よ、これ」

「持ち主の魔力に反応して動くんだよ。こうやって力を込めると……」

 男が掲げてみせると、球体から飛び出た棒がゆっくり回り始めた。そこについた羽も一緒に回るので、ふんわりと風が起きる。


「まあ、すごい! でもお高いんでしょう?」

「プリン、その段階は早すぎるわよ」

 実演販売でも後半まで触れない話題に一気に踏み込もうとするプリンにツッコみながら、ショコラは考えた。

(風をおこす機械? 武器にも見えるけど、さすがにそこまで鋭くはないわね……)

 こういう時、ショコラはまず他人を使って試すタイプだった。


「プリン、ちょっと持ってみて」

「盗んで逃げないでくれよ」

「そんなに早く走れないから平気よ」

「それ以前に、盗んだりしません」

 不満をあらわにしながらも、プリンは商人から球体を受け取った。体に当たらないようにしつつも、握った手に力を込める。

 すると、先ほどと同じように羽が回転を始める。しかも、先ほどよりも速く回り、より強い風が起きた。


「おおっ、お嬢ちゃん、大した魔力だね」

「これでも神官ですからね」

「こっちの黒髪の子はどうだい」

「確かに、魔力を感じるわね」

 間違いなく、魔法の力で動いているらしい。仕組みを分析しながら、ショコラはその球体をプリンから受け取り、握った。


 途端に、回転速度は遅くなった。

「……お、おかしいな、もうちょっと……」

 商人は驚きと困惑の表情を浮かべていた。今までこんなに遅く回ったことはないのだ。だが動作している以上は、何かが間違っているわけではない。

 ショコラの魔力があまりに低すぎるせいで、非常にゆっくりとしか動かないのだ!


「こんなもの!」

 機械のせいではないのだが、ショコラは怒り任せに握った機械をふりあげた。だが、振り下ろすつもりはなかった。弁償させられるのがイヤだから。

 怒って帰ってしまった、と見せかければ交渉を切り上げられる、と半分は考えていた。残りの半分は本当に怒っていたけど。


 だが、その時。

「あら、ショコラじゃない。珍しいわね、こんなところで」

 突然、横から声がかかった。

 声の主は……いかにも魔法使い、というローブを着た女だ。しかも、ショコラとは違って高級品で、特殊な糸が魔法の模様を描き、身を守る魔力がこもった逸品だ。亜麻色の髪を後ろでアップにしている。


 こぶしを振り上げたままのショコラはゆっくりそちらに顔を向けた。明らかに、イヤそうな顔をしていた。

「アプフェルシュトゥルーデル」

「はい?」

 この場面でつぶやくにはあまりに長い言葉に、プリンは思わず聞き返した。


「学院の学生よ、私と同じ。アプフェルシュトゥルーデルってファーストネームなの」

「立派なお名前ですのね」

「文字稼ぎじゃないかしら」

「何の話です?」

「私を無視して話を進めないで!」

 いつものでプリンと話し始めるショコラに、アプフェルシュトゥルーデルが怒りの声を上げる。

 商人も無視されているが、むやみに客の神経を逆なでしない方がいいことを彼は知っていた。


「こほん。……こんなところで何をしてるの?」

 仕切りなおしのつもりか、咳払いしてアプフェルシュトゥルーデル(以下アプフェル)が聞く。背の高いショコラに対して優位をとろうとしているのか、かなり胸を逸らしていた。


「冒険の役に立つアイテムを探しているのよ」

「あら、そうだったわね。余裕のないあなたは冒険者をして学費を稼いでるんだった」

 口元を扇子で隠しながら、アプフェルは目を細めて笑った。


 ぽん、とプリンが手をたたく。

「だいたいどんなキャラか分かってきました」

「想像通りよ」

「そっちで勝手に話を進めるのはやめて」

 自分のペースで話が進まないと気に食わないタイプらしい。


「それより、楽しそうな格好ね。それはなあに?」

 アプフェルがショコラの手(まだ振り上げたままだ)を指さして問いかける。

 その時だ。ショコラの頭に電撃のようにあるひらめきが浮かんだ。この機械の正体がなんなのか、ある仮説が思いついたのだ。


「使ってみればわかるわ」

 口元に薄い笑みを浮かべて、ショコラは言った。

「優秀な魔法使いなら使いこなせるはずよ」

「あら、それじゃあショコラには使えなかったのね」

 勝ち誇った笑みを浮かべるアプフェル。ショコラは何も言わず、上に伸ばしていた手をアプフェルの方へ向けた。


 アプフェルはそのまま……つまり、ショコラが手を掲げていたから上へ手を伸ばし、それを受け取った。

 その瞬間、球体の羽は猛烈な勢いでまわりはじめ……

「な、なによっ!?」

 ふわ、とアプフェルの体が浮き上がった。回転する羽が生み出す揚力により、ぐんぐん上昇していく。


「なぁあああああぁぁぁぁぁ!?」

 屋根がないから、遮るものは何もない。

 アプフェル、空へ――――


「やっぱり、ああやって浮かぶための道具だったのね」

「冷静に分析してる場合じゃないと思います」

 二人は上を見上げていた。アプフェルは悲鳴を上げながら上へ上へと遠ざかっていく。


 まさかの「つづく」!

断じて文字数稼ぎではないです。

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