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カスタード

「クッキー、手伝ってくれ。カスタードに鞍を着けてやらないと」

 と、タルトが声をかけてきたのは昼過ぎのことだ。


「カスタードって、この前魔人からもらった馬のこと?」

「そう、馬は願ったけど手綱や鞍は願い損ねたから、馬装の準備をしないとな」

 何やら大荷物を背負ったタルトが、クッキーを連れて行ったのは冒険者の店のすぐ近く、大通りに面した馬小屋だ。


 ここは冒険者や傭兵たちの馬やロバを預かるための場所だ。荷運びのためにそうした動物を飼い馴らす冒険者も少なくない。乗騎にしているものはそれほど多くはないけど。


「カスタード、ご主人様だぞー」

 日差し避けがされていても、昼間の馬小屋は暑い。繋がれている馬やロバも、心なし元気がなさそうだ。

 その中で、ひときわ立派な体格の馬がすっくと首を伸ばして立っていた。

 つややかなクリーム色に立派なたてがみ。手足の太い、筋肉質でずっしりした体つきだ。

 その馬……カスタード号は、やってきたタルトに気づくと静かに二つの目を向け、「ふるっ」と鼻を鳴らした。


「改めて見ると……立派な馬だね」

「そうだろそうだろ。あたしにふさわしい名馬だ」

「いや、それは全然」

 どっちがどう、とはあえていわないが、ふさわしさにはかなり疑問がある。


「プリンじゃないけど、見た目は整えてやらないと」

 タルトはそうとう上機嫌らしく、クッキーのつぶやきも聞き逃して水を汲んできた。


「ブラッシングを頼む」

 と、大きなブラシを投げてよこす。タルトはと言えば、水に浸した布をしぼっていた。


「こんな大きな馬、磨き切れないよ」

「やってやってくれよ。気持ちいいみたいだから。あ、後ろに回るときは気を着けろよ。蹴られるからな」

「怖いこと言わないで」

 しぶしぶ、クッキーはブラシを手に持った。空いた左手を馬体に置くと、見た目よりもずっと固く丈夫そうな毛の感触が伝わってくる。


「ん……しょ」

 押し当てるようにして、毛並みに従ってブラシをかける。優しくしたほうがいいかと心配したが、むしろクッキーが全体重をかけてもびくともしなさそうだ。


「け、けっこう力がいるね」

 左手を手首に当てて体重を込めながら、首元から尻に向かってなんどもブラシを滑らせる。整えられた毛は、心なしかツヤを増したような気がする。


「でも、気持ちよさそうだろ? ほーらカスタード、顔もキレイにしような」

 濡らした布をぴんと立った耳からあごに向けて撫でつけていく。首元に抱き着くようにタルトが顔を引き寄せ……


 がぶっ。


「ははは、こーいつぅ」

「噛まれてる、噛まれてるよタルト!」

 カスタードの大きなあごがタルトの頭にかぶさるように噛みついている。

 がじがじと噛みついているのが愛情表現なのか本気で嫌がってるのか、クッキーには見分けはつかないが……本気でけがを負わせるほど強くは噛んでいないようだ(ただ、ちょっと出血はしていた)。


「あたしにはなんでかなつかないんだよな。だから、協力してもらってるわけだけど」

「タルトが獣くさいからじゃないかな……」

 タルトは獣を祖霊として崇める部族の生まれだ。どこまで本当かはわからないが、クマの霊が先祖にいるらしい。


「今のうちにしっぽも整えてやってくれ」

 頭から血を流しながら、さわやかに指示してくる。

 タルトがケガをするのは見慣れているから、いまさら慌てたりはしない。それでも、さすがに痛そうだけど。


「はいはい……暴れないでよ、カスタード」

 プリンの手つきを思い出しながら、長い尻尾を手で整える。さいわい、ほかの馬のように目立った汚れがしっぽについていることはなかった。魔法で召喚された特別な馬だからかもしれない。


「ははは、動くとたてがみが絡まるぞぉ~」

 がぶっ。がぶっ。

 タルトは何度も噛みつかれながらもカスタードのたてがみを整えている。これはこれで、コミュニケーションが成立しているのかもしれない。

 本人たちの間に立ち入らざるべきものがあることを信じて、クッキーは自分の仕事に専念することにした。


 もしくは、あまり関わりたくなかったか。


「それじゃ、鞍をつけるか」

 二人が汗だくになるころ、ようやくグルーミングは終わった。

 タルトが運んできた荷物をほどくと、あぶみ(・・・)のついた鞍が現れた。


「うわっ。こんなの、どうやって手に入れたの?」

「傭兵ギルドのツテでな。安く譲ってもらった」

 傭兵たちの間では、タルトはけっこう顔が広いらしい。クッション替わりの布を背中に乗せた後、二人がかりで鞍を持ち上げて背負わせる。

 カスタードはその間もおとなしくしていた。人間に触られるのを嫌がっているというわけではないらしい……もしかしたら、ほんとうにタルトにもなついているのかもしれない。


「サイズは……よさそうだな」

 腹帯をしっかりと留める。問題になっている水袋も、鞍から左右に吊るせばかなりの量が運べそうだ。

「よーし! それじゃ、あたしたちのためにバリバリ働いてくれよ!」

 いつでも冒険に連れていける装備を得たカスタードの首に、タルトがぽんと首を置いた。


 が、カスタードは首をすくめてその手をひらりとかわし、代わりにかみついた。

 がぶぅっ。


「こ、こーいつぅ!」

 ひきつった笑顔で悲鳴をこらえるタルトを眺め、クッキーはため息をついた。

「本当に大丈夫かな……」

「アウトロウ」にも馬を登場させましたが、素敵な生き物ですよね。

カスタード号は魔法の馬なので、食事の必要はないという設定です。夢かよ。

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