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姉弟

「プリンセラはいますか?」

 冒険者の店に姿を現すなり、少年はそう言った。

 日よけの短いマントに整えられた白い服。騎士風にも見えるが、年齢からしてそこまでの地位はないだろう。従騎士スクワイアといったところか。


「プリンセラって……」

「プリンのことだよ」

 少年のほうを眺めながら、クッキーはさらりと言った。


「あいつ、そんな立派な名前だったのか」

「お菓子と同じ名前なんておかしいと思ってたのよ」

 爆弾発言を交えつつ、ショコラはさらりと手を振って見せた。少年はそれに気づかなかったようなので、代わりにタルトが声をかける。


「おーい、こっちだ」

「うわっ!?」

 ぶんぶか手を振るビキニアーマーの女と目が合って、少年は多少たじろいだようだったが、周りのだれも気にしていないらしいことを察すると、マントの襟を立てて口元を隠しながら近づいてきた。


「プリンを探してるのか?」

「ボクら、彼女の仲間なんだ」

「今は、まだ来てないけど」

 お菓子を食べる手を止めて、スイートメイツの3人はそれぞれなりに挨拶した。


「そうですか。神殿に居なければこちらだと思ったのですが……」

「それより、あなたは?」

「し、失礼。僕はベネディクト・トップス。騎士見習いで、プリンセラの弟に当たります」

 少年は胸を張ってみせ、精一杯に体をこわばらせている。


「プリンの弟?」

「そう言われると、似てる気がするな」

「目の色なんか、そっくりね」

 プリンと同じ金髪緑眼だ。3人の好奇の視線に充てられて、ベネディクトはもともと赤みのある頬をさらに赤くした。


「そ、それよりも、皆さんはここで何を?」

「見てわからないか?」

 タルトは座りなおしつつ、自分たちのテーブルを示した。相変わらず、甘ったるそうなお菓子がテーブルの上には並べられている。


「ええと……」

「反省会よ」

 黒髪を払って、ショコラは言って見せた。どう見ても過剰な午後のお茶会か、さもなくば集団でのやけ食いにしか見えないのだが。

 事実上集団のやけ食いなのではないか、という指摘については、ここでは沈黙を守る。


「反省するようなことがあったんですか?」

「アンデッドに関係する冒険があったんだけどね……」

 深いため息とともに、ショコラは首を振った。


「神官って言えば、普通はアンデッド退治の専門だろ? それが、まともに働いてくれなかったからな」

 と、タルト。緑のネバネバまみれにされたことについては、それなりに恨んでいるらしい。

「プリンに聞かせるためにたっぷり50個はイヤミを考えて来たわ」

「ちょっと、二人とも」

 キシキシと悪人笑いを始めるショコラの裾をひっぱって、いさめるようにクッキーがささやく。


「ダメだよ、家族の前で悪口なんて」

「本人が聞いてないから、悪口じゃなくて陰口よ」

「もっと悪いってば。弟くんが傷つくよ」

 ベネディクトはクッキーよりは年上だろうが、弟くん呼ばわりである。


「つまり……姉は、役に立っていないと?」

 神妙な面持ちで、ベネディクトがつぶやく。

「そういうわけじゃなくて、今回はたまたま……だ、だよね?」

「そ、そうだな。あたしたちは次に活かすために反省をする、意識の高い冒険者なんだ」

 ひとつのウソを守るためにはさらにウソを塗り固めなくてはならない。


 と、その時。

「ベン! こんなところで何をしているの?」

 店の扉を開いて、当のプリンが姿を現した。

「姉上、それはこちらのセリフです」

 マントを翻し、ベネディクトはプリンに向き合った。


「家を出て聖職者となったばかりか、こんな連中と付き合っているなんて」

「こんな?」

 ビキッ!?

 少年の背後で、3人の冒険者が額に青筋を立てている。


「おかしな格好をした戦士に、陰険そうな魔法使い、一人は子どもではないですか!」

「誰の格好がおかしいって!?」

「私のどこが陰険そうなのよ!」

「ボクは子どもじゃないって!」

 おかしな格好をした戦士と陰険そうな魔法使いと子どもが叫ぶが、ベネディクトはその抗議を聞き流した。


「しかも、冒険者としての功績も上げておられないとか。こんなことを続けていては、姉上までポンコツになってしまいます」

「……」

 もうなってる、という叫びは、さすがに3人も飲み込んだ。ポンコツにも人の心があるのだ。


「ベネディクト、言いたいことはそれだけ?」

 いつもの柔和な雰囲気はどこへやら、冷たい怒りを称えた声をプリンは吐き出した。

「私のことはどう言っても構いません。でも、仲間に対する愚弄はそれなりの覚悟が必要になりますよ」


「う……」

 その勢いに圧されて、ベネディクトが一歩後ろへ下がる。


「あなたの家族と、あなたの主人に伝えなさい。私を連れ帰そうとしても無駄だって」

「僕は、姉上のためを思って……」

「言うことが聞けないの?」

 静かな迫力に負けて、また一歩後ずさる。


「き、今日のところは引き下がります。でも、姉上のためにも、いつか連れ戻しますからね」

 そう言い残して、ベネディクトはせいいっぱい大股に歩き去って行った。

 店の中に漂っていた緊張感が、ようやく解けていく。


「ふう……すみません、弟が迷惑をかけました」

「複雑な事情がありそうだね」

 クッキーのつぶやきにも、プリンは「ええ、まあ」と小さく答えた。


「家族はわたくしが冒険者をすることに反対らしくて」

「あの調子じゃ、ガンコそうだな」

 弟だから簡単に退けることができたが、親が相手ならプリンもここまで強くは出られないだろう。


「まあ、でも、こちらの問題です。それよりも、反省会をしないと。今日の議題はなんですか?」

 切り替えましょう、とぽんと手をたたくプリン。

 一同の視線は、イヤミを50個用意してきた女へ向き……


「なんでもないです」

 ショコラもすっかり迫力に圧されていた。

メインキャラクターの家族が登場するなんてまるでネタ切れじゃないですか!

ネタは5話くらいで切れてます。

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