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いきなりゴーストハウス!(中)

「ふぁ……あ」

 廃墟となった屋敷のなか、小人族リトルフィートのミッパは、おおきくあくびを漏らしていた。

 廃墟とはいえ、部屋もそろっている。姉のヒッパ・フッパと一緒に旅をしていて、自分専用のベッドが手に入ったのは、初めてのことだ。


「さすが、ヒッパは頭がいいなあ」

 ここに暮らしていれば楽できて見つからない、と言ったのは長女のヒッパだ。

 三つ子なのにまるで性格の彼女らがなんとかやっていけてるのは、姉たちの利口さのおかげに他ならない。


「にしても……今日は早く寝るかなー」

 本来、彼女の役目はこの部屋から入り口を監視しておくことだった。最初の数日は、この部屋の窓から見える正門を眺めていたのだが、やがて誰も訪ねてこないことがわかると、ミッパも見張りに興味をなくして手を抜くようになった。

 ハーフフットは夜目がきき、月明かりがあれば灯かりはほとんど必要ない。

 というわけで、ミッパはすっかり油断してベッドに寝転んでいた。


 ところが……

 がちゃっ!

 と扉が開いたと思うや否や、そこから人がなだれ込んできた。

「クッキー、足頼む」

「まかせて!」

「むぐっ!?」


 赤毛の女が飛び出してきて、手に持った布をミッパの顔に押し付けてくる。

 それを使って強引に、ベッドに向かって組み伏せられ、ベッドに頭がぶつかる。

 その間に、じたばたともがいていた両足が押さえつけられ、慣れた手つきで縄をかけられていく。


「一丁上がり!」

 ぱしぱしと手をたたきながら、クッキーがにっかりと笑う。

「むぐ、むがが……!」

 シーツを巻きつけられ、ミッパは手足を結ばれて身動きを封じられてしまった。


「こういうときだけ手際がいいのね……」

 後から部屋に入ってきた、黒髪の女……ショコラが呆れたようにつぶやく。

「ショコラの魔法で足跡がわかったからな。どの部屋にいるのか分かってれば楽勝だよ」

「ちなみにわたくしは何もしていません」

 自信満々な様子で、金髪の神官が胸を張っていた。


「他の二人はどこだ?」

「いうもんか」

「それじゃあ少し痛い目に遭ってもらうしかないね」

 クッキーは懐から何か、棒状のものを取り出し……


「そ、それが盗賊ギルドのやりかたか……」

「その通り。くらえっ!」

 その棒……すりこぎのようなごつごつした表面を、ミッパの足の裏にごりごりとおしつける。


「あいだだだだだっ!」

「内臓が不健康な証拠だねぇ~」

 何やら楽しそうにごりごりと足つぼを押すクッキー。

「容赦ねえなあ」

 ミッパを押さえつけているタルトも、さすがに同情の目を向けていた。


「わ、わかった、いう、いうって! ふたりは地下だよぉ!」

「なるほど、一人を見張りに立たせて、ふたりは見つかりにくい地下に潜んでいるわけですね」

「それで、昼間にイタズラ三昧? 気楽なものね」

「あたいらはそれが性に合ってるのさ」

「人に迷惑かけてなきゃ、それでいいんだけどな」

 タルトは結び目を確かめ、大きくうなずいた。どれだけ暴れても、まずほどけないだろう。


「それじゃ、ちょっと待ってなよ。のこりの二人も一緒に、ギルドに連れて行ってあげるから」

「ちくしょー……」

 ベッドに転がされたミッパの恨めし気な視線を受けながら、四人は地下室を目指していった。




 地下室は湿っぽく、かび臭い空気が漂っていた。

「こんなところで寝泊まりなんて信じられない」

「小人族は病気にならないらしいからな……」

 隠密行動中にも黙っていられないのがスイートメイツだ。もっとも、地下室に通じる出入り口は一つだけ。そこから入っている以上、逃がしようはないのだが。


「何か、見えますか?」

 プリンが、メイスを高く掲げながら問う。

 掲げたメイスは黄白色の光を放っている。プリン自身の魔法によって、光を灯されているのである。夜目のきかないスイートメイツにとっては、光源は重要である。


「しーっ。何か聞こえないか?」

 先頭のタルトが口元に指をあてる。それから、下り階段のたどり着く先を示した。

「聞こえない」

「クッキー、聞く努力をしろよ」

 頼りにならない盗賊をにらんでから、一歩ずつ慎重に下っていく。すると、そこには……


「すー……すー……」

「んがっ……ぐー……」

 涼しい地下室に寝袋を広げて、小人族が二人、眠っていた。


 スイートメイツは顔を見合わせた。

 プリンは黙って光の明度を下げて、うっすらと輪郭がわかる程度の明るさにした。

 タルトとクッキーはそれぞれロープを構え、寝袋ごと縛り付けようとすり足で近づいていく。

 ショコラは……やることがないので、とりあえず杖を構えて格好を着けておいた。


 その時だ。

 ショコラの視線の先……のんきに寝ているヒッパとフッパの間に、ぼうっと白い姿が浮かび上がった。

 真っ白の肌にぼさぼさの黒髪の女は、恐ろしく薄い、骨ばった頬で笑みを浮かべ、ショコラを見つめて笑っていた……


「ぎゃーーーーーーーーーーーっ!!!」


 たまらず、ショコラは叫んだ。

「むがっ!?」

 寝こけていた小人族も、反射的に起き上がる。

「クッキー、逃すな!」

 戦士の勘というやつか。こんなときでも、タルトは素早く反応していた。ヒッパが体を起こしきる前にのしかかり、床へ押し倒す。


「まかせ……」

 クッキーも女戦士に続け、とばかりにロープを構え、小人族に踊りかかろうとしたその時。

 ショコラの大声に驚いたせいだろう。地下室の物陰から、細長い生き物がしゅるしゅると這い出してきた。

「ヘビーーーーー!!」

 裏返った声を上げて、キュウリを見つけた猫のようにクッキーは飛びのいてしまった。


「な、なんだあんたら……こういう時は、とにかく逃げる!」

 寝起きのミッパはぎゃーぎゃー叫ぶ女たちの間をすり抜け、出口に向かって逃げ出していく。


「こ、こうなったら、プリン! 逃がすなよ!」

 呆然自失のショコラと、ガタガタ震えているクッキーが役に立たないと見切ったのだろう。タルトはひとりヒッパを押さえこむ仕事をこなしながら、残る仲間に声をかけた。


「は、はい、もちろんです!」

 かよわい乙女を自称するプリンとはいえ、相手は小人族。しっかりと腰を落とせば、細い通路をふさいで通れないようにするくらい……


 ぽとっ。

 と、そのときプリンの胸元へ何かが落ちてきた。小さな毛玉のように思えたそれは、もぞりと身をゆすってから、「チュウ」と高く鳴いた。


「ネズミぃぃぃぃぃっっ!」

 その瞬間、プリンは何もかも投げ出してネズミを振り払うことに全力を尽くした。明かり替わりのメイスも床に落とし、ばたばたと両手で体を払う。


「なんだか知らんが、ラッキー!」

 その間に、ミッパはプリンの腰の横をすり抜けていく。身軽な小人族は、階段を素早く駆けあがっていった。


「何やってんだよ!」

「あわわわわわ……」

「ひいいいいっ、ヘビ、ヘビーっ!」

「もういやです! 帰ります!」

 悲鳴を上げる仲間たちには、どうやら話をしている場合ではなさそうだ。タルトはヒッパを軽々と縛り上げた。ミッパと違って寝起きが悪いので楽勝だった。


「……ん?」

 そこで、タルトも違和感に気づいた。逃げ出していったミッパの足音が不意に途切れたのだ。

「どこに逃げやがった……?」


 その時、空気の流れなどほとんどないはずの地下室に冷たい風が吹いた。涼しいを通り越して、寒気を感じるほど。

 そして、階段の上からは『ごと、ごと』という、とても足音とは思えない音が聞えてきていた。


「おい、やめろ……」

 タルトは、恐怖をごまかすためか、目を見開いて叫んだ。

「階段を怖い動きで降りてくるんじゃねえぞー!」


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