いきなりゴーストハウス!(前)
「こないだの大食い大会をおぼえてる?」
と、クッキーが切り出したのは夕方に差し掛かったころだ。
「タルトが優勝できなかったやつね」
「言い方を考えろ、言い方を」
辛辣なショコラに対して、タルトはぼそりと付け加える。
けっきょく、その賞品にされていた旅行券はスイートメイツが受け取ることになっているのだ。タルトからしてみれば、もう責められるいわれはない、ということだろう。
「それに出てた小人族がいたでしょ」
「ああ、3人組の」
「そいつらが、ちょっと盗賊ギルドで問題になっててね」
やれやれと肩をすくめるクッキー。
「問題……というのは?」
「この街で細かいイタズラを繰り返してるみたいでさ。スリとか、子供相手の恐喝とか……」
「普通に犯罪じゃねえか」
「そういう連中が調子に乗らないように、衛兵より先に捕まえておくのもギルドの仕事なんだ」
盗賊ギルドは基本的には秘密結社だ。衛兵たちから見逃されているのは、ひとえに彼ら自身が犯罪を抑制しているからである。
「で、ボクらは彼女らの顔を見てるし、捕まえてきてくれないかって言われててさ。彼女らの居場所は分かってるけど、手が出しにくいんだよ」
「つまり、お仕事としてわたくしたちに依頼を?」
「そう。ボクとしてはみんなに協力してほしい。こういうところでギルドに貢献しとかないと」
「非合法行為に加担させられるわけじゃないでしょうね?」
「今回については、バレて困るような仕事じゃないと思う。彼女らのほうが、まわりに迷惑をかけてるから」
「小悪党を捕まえて盗賊ギルドに突き出すわけか。そのあとは……」
「ギルドに任せる。でも、彼女らにも何か仕事をさせるんじゃないかな。下水の掃除とか」
十字路の街の地下には広大な下水がひろがっている。その管理は、ほぼ盗賊ギルドによって行われている、というのも周知の事実だ。
「あたしはいいぜ。連中に借りを返したいしな」
「私も。たまには治安に協力しないとね」
「わたくしは、異存ありません。被害が深刻化する前にオシオキしてあげましょう」
こうして、スイートメイツは合意に達した。
冒険者というのは、このように仕事を引き受けることもあるのですね。
「って、こんなところに潜伏してるなんて聞いてないんだけど」
騒ぎを起こしている小人族が潜んでいるとおぼしき場所に近づくにつれて、明らかにショコラは不機嫌になり始めていた。
十字路の街の郊外にほど近い場所だ。わき道には墓地がひろがっている。
「言ったら、ショコラが嫌がるかなーと思って」
「当たり前でしょ、こんなところで……ひやっ、今何か動いた!」
飛び跳ねるように、魔法使いがタルトの後ろに隠れた。ショコラはオバケの類が苦手なのだ。
「そんなんでよく魔法使いをやれてるよ」
一方、タルトのほうは一向に気にしていないらしい。
「大丈夫ですよ、聖職者のわたくしがついてますから」
よしよし、とショコラの背中をなでるプリン。何せ神官だから、除霊や呪い避けは得意……なはずだ。たぶん。
「うう、覚えてなさい……」
恨めし気なショコラをなだめつつ、一向は進む。
道の先には、どんよりと暗い雰囲気の屋敷が現れる。見える窓には、明かりはひとつもついていない。
「廃墟……ですか」
それを眺めて、プリンがつぶやく。 クッキーがおおきくなずいた。
「昔は、墓守の一族が住んでたらしいけど、今はいなくなっちゃって。空き家になったところに、小人族がすみついてるみたい」
「なんでそういういわくありそうなところをわざわざ選ぶのよ」
「そこなら、近づかれないと思ったんでしょ」
行くよ、とばかりにクッキーが道の先を示す。
「いわくなんて、大したことはないよ。墓守の一人娘がなくなったくらいで……」
「思いっきりあるじゃないの」
「単なる病死だって。よくあることだよ」
「ものっすごく嫌な予感がするわ……あれ?」
ショコラがふと顔を上げた時、これから向かう先の廃墟の窓から、ぼんやりと白いものがこちらを向いていた気がした。
「……」
まばたきした直後には、その白いものはもういなくなっていた。
「どうした? 早く行くぞ」
「……わかってるわよ」
ショコラもうーうーうなりながらついていった。さすがにここで大声を出すわけにもいかない。
墓場のオバケたちに祟られるかもしれないからだ。




