あなたはどうして魔術師に?
「ショコラってさ」
しばしの沈黙を打ち破って、クッキーが唐突に聞いた。
「なんで魔法使いになったの?」
「それは侮辱のたぐい?」
黒髪の魔法使いは、細い眉をぴくぴくと震わせていた。
「ち、違うって! そうじゃなくて、どういう経緯があったのかなって……」
「聞きにくいことをズバッと聞くのは、クッキーのいいところでもあり悪いところでもあるな」
盗賊娘の肩をポンポンと叩いて、タルト。たまに最年長らしいことを言う。たまに。
「クッキーには言ってなかったんだっけ?」
「わたくしも聞いてません」
イチゴを齧って機嫌を取り戻そうとするショコラに、プリンも控えめに手を上げてみせる。
「私の家は古物商でね。特に、古い本を扱うのが得意で……」
「親も魔法使いってわけじゃなかったんだ。ボクはてっきり……」
「てっきり、何よ」
ギロ、とショコラの(もともと鋭い)目が(さらに)吊り上る。
「てっきり、家系だから仕方なく魔法使いになったんだと思ったんだろ」
「それで、魔法の才能がなくても諦められなかったと?」
「3人がかりなら私をおちょくれると思ったら大間違いだからね」
ショコラは視線とフォークをピシッと向けてけん制してから、話しを続ける。
「おあいにく様だけど、自分で望んで魔法使いになったの。父の取引先の学院に何度も出入りしてるうちにね」
「へぇ」
クッキーが感心してうなずいた。そして、縦に振った首をすぐに横にかしげる。
「じゃあ、なんで冒険者に?」
「実践が必要なの」
「実践って?」
「実践は実践よ。私は試験や論文ではいつも高い評価を受けてるのよ。いつもよ!」
「い、怒りのスイッチを入れるのが急すぎます」
ヒートアップするショコラの肩を、今度はプリンがそっと抑えるように触れる。
「……それなのに、いつまでたっても私の学位は低いまま。どうしてかわかる?」
「魔法の才能がないからだろ」
「ちっがーう!」
肩を大きくいからせて、ぽん、とショコラがテーブルをたたく。本人としては「どん」と言わせたかったのだが、悲しいことにそこまでの筋力はなかった。
「実践が足りない、っていつも言われるの。魔法の実験や、実地調査のね」
「実験と言っても……」
プリンが言いにくそうに眉をハの字にしてる。
「いまさら、遠慮しなくてもいいわよ。私の魔力じゃできる実験はたかが知れてる、って言いたいんでしょ」
「そんな……」
プリンはうなずきはしなかったが、否定もしない。
「その通りよ。魔法を実際に使わなきゃ使い手としてのレベルは上がらないけど、私にはできることが限られてる。だったら、どうやって実践を積めばいいと思う?」
「それで、冒険者?」
と、クッキー。
ショコラは大きくうなずいた。
「そう。他の生徒からも嫌われてるし、冒険者でもなんでもやるしかないでしょ」
「今さらっとすごい告白をしましたわね」
「あの性格じゃな」
「そこ、うるさい!」
ひそひそ声で話すプリンとタルトを、再び視線で射抜くショコラ。魔法はともかく、地獄耳は誇ってよさそうだ。
「『これからの時代、魔法使いも自分の目で見、自分の耳で聞くべき。机上の空論では役に立たない』とかなんとか、頭でっかちの年寄りどもに認めさせてやるのよ。私の理論の正しさをね!」
「頭でっかちって……」
「どっちかというと、ショコラのほうが……」
「多数派に甘んじてる連中はみんな頭が固いのよ」
ぷい、とショコラが顔を逸らす。
「まあ、とにかく……」
タルトはぽんぽんと手を鳴らして、周囲の注目を集める。
「わざわざ冒険者になる魔法使いは少ないんだ。あたしらも、ショコラに感謝しないとな」
「そうだね。ショコラの知識には助けられてるよ」
「わたくしも、いつもショコラさんのしたたかさを尊敬しています」
「ま……まあね」
ちょっぴり照れて顔を赤くするショコラ。
誰も魔法の実力について触れない優しさが、そこにはあった。
魔法を教える組織と冒険者を統括する組織が別々にある世界では、なぜ魔法使いが冒険者になるのかがよく議論されます。
だいたいは「冒険者になるような魔法使いはちょっと変わっている」くらいで済まされるのですが。