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オウルベア

 中央のお皿に置いてあるマフィンを人数分に取り分けようとしていた時のことだ。


梟熊オウルベアって実在するの?」

 ぼんやりと斜め上を見ていたクッキーが、ふとそんなことを言い出した。


「オウルベア?」

 プリンは自分のマフィンを皿に乗せて、フォークとナイフを用意していたところだった。

 いきなりの質問に首をかしげると、やわらかい金髪がさらりと流れる。


「フクロウの頭にクマの体の怪物だろ? あたしの故郷でも見かけたって聞いたことあるぜ」

 タルトは……さっそくマフィンを半分ほどかじっていた。


「でも、絶対ヘンだよ。頭が鳥で体が獣なんて」

「相変わらず、根本的なところに文句をつけてくるわね」

 ショコラはマフィンをお皿に乗せたままにしている。その前に取ったビスケットをまだ食べていないのだ。


「グリフォンだってそうでしょう? ワシの頭にライオンの体です」

「……ほんとだ!」

 指摘されて初めて気づいた、というようにクッキーは大声を上げた。


「そっちは受け入れてたのか?」

「なんとなく、グリフォンはそういうものだって自然に感じてた」

「美意識の問題かしらね」

「うーんうーん、でもなんとなく受け入れやすいっていうか……ワシもライオンも強そうだし」

「フクロウもクマも強そうだろ」

「そう言われたらそうなんだけどさあ」

 がやがやと盛り上がる一同。いったん、グリフォンのことは忘れて考えたほうがよさそうだ。


「とにかく、オウルベアはいるわよ。詳しい生態調査の報告も見たことあるもの」

「ショコラってなんでも『知ってる』っていうよな」

「私の〈図書館〉技能を甘く見ないことね」

「なんですか、図書館技能って」

 これ以上話題をわき道に逸らすわけにはいかない……という理屈で、ショコラはプリンのツッコミをスルーした。


「ショコラはオウルベアを見たことあるの?」

「実物は……見たことないけど」

「じゃあなんでいるって確信できるのさ?」

「自分の目で見たことがなくても、客観的にいると判断できるなら実在を信じるのが知識体系というものよ」

「つまり?」

 ショコラの言葉が難しくてわからない、とは口には出さないけど、クッキーは目でまわりに助けを求めた。


「つまり、足跡があれば獣を見てなくてもいるとわかるってことだろ」

 意外にも、ショコラの論をタルトが補強する形となった。

「オウルベアは獲物を前あしで捕まえて、クチバシでついばんでくるんだ……あたしも、実物を見たわけじゃないけど、あたしの故郷じゃみんな知ってる」

「それなら、フクロウの頭にクマの体も効率的……なのかな?」

「クチバシでも牙でも大した差はない気もしますけど」

 だってもうつかんじゃったら同じじゃないですか、とプリン。


「でも、もしかしたら逆かもしれないでしょ」

 ショコラはようやくマフィンに手を付け始めているところだ。

「逆って?」

「オウルベアのほうが先で、フクロウやクマのほうが後から生まれたのかもしれないじゃない。オウルベアみたいな頭の鳥と、オウルベアみたいな体の獣がいるのかも」

「そりゃ、世界最初のフクロウを見たわけじゃないけどさ」

「タルトさんは先祖がクマだった……という、言い伝えがあるんですよね?」

 なんとなく納得いかない様子のタルトを見て、プリンはその内心をなんとなく察していた。


「オウルベアとは遠い親戚になるんでしょうか」

「まー……そういうことになるな」

「オウルベアからクマが生まれてた場合は、タルトから見たらおじいちゃんみたいなものかしら」

「そんな言い伝えはされてないから、クマのほうが先だ、絶対」

 断言。

 というより、一族の歴史を丸ごと見直さなければならない提言に対する断固とした拒否だ。


「実のところ、どっちが先か分かってないんですか?」

「オウルベアよりもクマやフクロウのほうが古い記録に残ってるから、たぶんオウルベアのほうが新しい生き物だと思うわ」

「そうだろ! ったく、知ってたなら先に言えよな」

 大きな胸をなでおろすタルト。ちょっぴり不安だったらしい。


「生き物が新しくできるなんてことあるの?」

「魔法使いが生き物を合成して新しく作り出したんじゃないかって説が有力だけど、はっきりした起源はわからないわ」

「褒められた実験じゃありませんねえ」

「私に言われたってどうしようもないわよ」

 神官として難色を示すプリン。いっぽうショコラは、かつて行われた生物実験にそこまで拒否感を抱いているわけではなさそうだ。


「クッキーが変なこと言い出すからこんなことになるんだぞ」

「ボクは思ったことを言っただけだし」

「知識が深まったじゃない」

「素直な思い付きも言葉にするのは大事ですね」

 こうして、一つの話題が過ぎ去り、また別の話題へと四人の興味は移っていった。


 だが、お分かりいただけただろうか。

 冒険者が怪物の話をしているのに、どうやって戦うかという話をしていないのである。

 いつか……そう遠くない未来に、オウルベアに負けたスイートメイツの反省会が、あなたの前にあらわれる……かもしれない。

オリジナルのモンスターを考えようとするのはファンタジー創作者あるあるですが、オウルベアを超えるインパクトを考えるのは大変難しいですね(好き)

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