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真夏日は30℃以上

「あっちぃ……」

 その日は雲一つない青空で、十字路の街には直射日光がこれでもかと降り注いでいた。

 数日間降り続いた雨の直後で、快晴は歓迎されてしかるべき……なのだが、あまりにも急激な天候の変化により、町中がうだるような湿気に包まれているのだった。


「その格好で暑がらないでよ」

「暑いものは暑いんだから仕方ねえだろ」

 タルトは相変わらずのビキニアーマー姿だ。代謝がいいのか体温が高いのか、全身からとめどなく汗が噴き出し、あごの下からもぽたぽたと垂れ落ちている。


「天気がよすぎるのも考え物です」

 何度もブラシで髪を直しながら、プリンが大きく溜息をついた。

 湿気のせいで髪の毛が膨らみ、いつも通りにセットできないのである。


「光の神の神官なんでしょ。そんなこと言っていいの?」

「厳密には、太陽は光のひとつの側面でしかありません。何事もバランスです」

「まいにち晴れてればいいってわけでもないってことだね」

 いままさに痛感している、というように、クッキーもうなずいた。


「こんなんじゃ冒険どころじゃないよ。夏だからってこんなに暑くならなくてもいいのに」

 ブーツから両足を抜いて、椅子の上で膝を抱えている。行儀は悪いけど、ブーツの中が汗まみれになるよりはマシだ。


「ショコラは……」

 会話に加わってこないショコラの方を気にしてみてみると、黒髪の魔法使いはテーブルの上に突っ伏していた。長い黒髪が、ぱらぱらと広がっている。


「もう……私には構わないで……」

「暑さであらゆるやる気を失っている」

 ぴくりと動くような体力も使いたくないらしい。さっきからずっと同じ体勢のままだ。


「また研究スペースを追い出されたのか?」

「私の階位が低いからって強引に……」

「学院の中なら、少しは涼しそうですのに」

「魔法で涼しくできないの?」

 呻いているショコラに同情しながらも、クッキーはまたも野放図な疑問を口にした。


「無理よ、無理……店中改造してもいいならできるだろうけど、大量の魔力がいるわ」

 突っ伏したままのショコラがうめく。その後頭部を眺めながら、クッキーはふぅん、と鼻を鳴らした。

「神官でもできないの?」

 と、今度はプリンの方へ水を向ける。


「できなくはないですが、わたくしのレベルでは……」

「そういう術自体はあるんだ?」

「高位の神官なら、砂漠や雪原でも普通に動けるようにする加護を与えることができます」

「それじゃ、あたしも雪山で冒険できるわけだ」

「服を着ればもっと簡単ですよ」

 あきれた様子でつぶやくプリン。雪山のほうも、ビキニアーマーで登ってこられたら扱いに困るに違いない。


「あたしなら、もっと簡単に涼しくなる方法を知ってるぜ」

「なに、泥に浸かるの?」

「あたしと泥を結び付けようとするな。そうじゃなくて、川や湖に行くんだよ」

「なんでわざわざ……」

 突っ伏したままのショコラのか細いツッコミに、タルトは「ふっ」と笑って見せた。


「この前の、大食い大会の賞品があっただろ」

「旅行券ってやつ?」

「そう。結局優勝者なしになっちまったから、ギルドが扱いに困っててな。仕事をこなしたら、あたしらに譲ってくれてもいいって」

「ほんとに!?」

 がば、とついにショコラが顔を上げた。船旅をあきらめてはいなかったのだ。


「んで、その仕事が湖の方でな。どうだ、やるか?」

「涼しいところで冒険して、旅行も行けるってこと?」

「その通り」

 表情を輝かせるクッキーに、タルトが澄ました顔でうなずいてみせる。


「やるわ」

 ゆらりとショコラが体を起こす。

「この暑さから逃げられるならなんでも」

「ショコラ、思い詰めてねえか」

 迫力をにじませるショコラをなだめながら、タルトはまわりに目を向ける。


「異存はありません。日差しの強い日に出かけたくはないですけど、屋内でも暑さは変わりませんし」

「ボクも、いいよ。このままじっとしてたら、自分の汗で塩漬けになっちゃいそう」

「それじゃあ、決まりだな」

 こうして、炎天下の中でスイートメイツの冒険が始まる……!


 ネタバレ:冒険というほどの冒険は始まらない……!

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