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湿地の戦い

「湿地なんて二度と行きませんから」

 怒りと失望を隠しもせず、プリンはそう告げた。

 冒険を終えた直後である。もちろん、今回も成果は大失敗だった。


「『湿地のモンスターが増えてるみたいだから、調査してくれ』って話だったよね」

 ブーツから足を抜きながら、クッキーがつぶやく。じっとり濡れたブーツと足の感触に、イヤそうに顔をしかめる。


「それで、様子を見に行ったら、大ガエル(ジャイアントトード)の大合唱」

 ショコラは泥だらけになったローブを窓辺に吊るし、いつもよりも軽装になっている。


「引き返そうとしたところで、誰かさんが思いっきりころんだんだったな」

 タルトはビキニアーマーの隙間にタオルを差し込んで濡れた肌をガシガシと拭いている。目に毒な光景だが、あんまりにもテーブルの雰囲気が険悪なので、ほかの客はちらちら覗き見するぐらいが限界だった。


「天然のトラップ、ですわね……」

 その誰かさん……金髪の女神官プリンは、深々とため息をついた。

 なぜか、彼女の服だけが目立った汚れが見られない。


「んなカワイイ表現で済ませられるか! 何匹ものトードに群がられるハメになったんだぞ!」

「珍しくクッキーが敵より先に感知してたって言うのに、台無しじゃない!」

「なんでボクにまで流れ矢を飛ばしてくるのさ!?」

 三人が一斉に喚くのも無理はない。


 血沸き肉躍る戦いならばともかく、相手は人間ほどの大きさのカエル。

 跳躍力を生かしたのしかかりは驚異的だし、全身を覆う粘液で武器は通用しにくい。

 意外な強敵なのだが、何せビジュアルに緊迫感がない。しかも、ぺたぺた触られると気持ち悪いし肌荒れの原因にもなる。戦わずに済むならそれが一番、な相手なのだ。


「ボクのダガーじゃ刃が通らないから、タルトの斧に任せるしかないし」

「魔法使いが火でも噴いてくれればなあ」

「そんな高度な魔法、私が使えるわけないじゃない」

「ひ、開き直ってる」

 冒険がうまくいかなかった時はおたがいに責任を押し付け合うのがメイツ流。今日も反省会とは名ばかりのギスギスが幕を上げている。


「まあまあ、みなさん。結果は結果として受け入れるしかありません」

「誰のせいだと思ってんの!?」

 ひとり冷静ぶろうとするプリンに、一斉に矛先が向けられた。


「いいわよ、ミスは誰にでもある。私も、ズッコけて泥に埋まってたことを責める気はないわ」

「責めてますよね?」

「問題はそのあとよ!」

 キッと目端を釣り上げて、ショコラがプリンへ詰め寄っていく。


「そ、そのあと、何かありましたっけー?」

 あさっての方向を向いてごまかそうとするプリン。だが、四人しかいないパーティでごまかしが通用すると思う方がどうかしている。

「そのあと、あたしたちが戦ってる間何してた?」

 別方向から詰め寄るタルト。怒りで眉をピクピクさせている。


「あらー、皆さんと一緒に戦ったはずですけど……」

「ちゃんと見てたんだからね」

 裸足を乾かすためにぶらぶらゆすりながら、クッキーがぼそりとつぶやく。ある意味、いちばん冷たい態度だ。


「……せ、聖水で泥を落としてました」

 そう。泥だらけになっていたプリンはおもむろに聖水の瓶を取り出して自分の服を洗い始めたのだ!

 その間、他の三人がトードにたかられて大さわぎになっていたことは言うまでもない。


「そうだね、プリンの服はキレイなままだもんね」

「汚れを落として衛生を保ち、しみ抜きもしてくれる加護を込めた聖水ですから」

「なんであんたはそういう術ばっかり得意なのよ」

 神聖な力で服をきれいにしてくれるのはなんともありがたい力ではあるが、残念ながら今は求められていなかった。


「わたくしの心からの祈祷が通じたのでしょう」

「仲間を助けることを心から願ってほしかったよ、あたしは」

 ようやく体についたカエルの粘液を拭い去って、タルトは大きく息をついた。屋外でやってほしい、とまわりは思っているに違いない。


「とにかく、湿地は二度と行くべきではありません。皆さんがこんなに苦しむくらいなら!」

 胸の前で手を合わせ、プリンは大きく宣言した。緑の瞳は争いに心を痛め、うっすらとうるんでいた。


「この子の面の皮の厚さは尊敬に値すると思うわ」

「半分は本気なんだよ、恐ろしいことに」

 ひそひそ声は聞こえないのもプリンのすごいところなのだった。

夏なので涼しげな話を……と思いましたが、涼しいというよりはじっとしてますね。

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