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荷重

「もう荷物持ちはイヤだー!」

 とつぜん叫びだしたタルトに、店中の視線が集まった。


「ちょっと、そんなに叫ばないでよ」

「わたくしたちが強引に働かせてるみたいじゃないですか」

 あわてて静まらせようとするショコラとプリン。だが、戦士タルトは意固地になるとなかなか譲らない困った性格をしていた。


「いつもいつもあたしにばっかり重いものを持たせてるだろ!」

「それはタルトさんが一番筋力があるのに一番軽い服を着ているせいでは?」

「うぐっ」

 ズバッと核心を突くプリン。タルトが吐きだそうとしていた怒りも、さすがに喉につっかえる。ビキニアーマーだけは絶対に譲れないという信念も、ちょっぴり揺らぐほどである。


「珍しくちょっとは儲かったのに、どうしたのさ」

 テーブルの上で勘定を着けていたクッキーが、さすがに黙っていられない様子で口をはさむ。こういう細かい作業が割合好きらしい。

「そこだよ、問題は。あたしだって、冒険でお宝が見つかったらうれしいよ。でも、そういう時は絶対にあたしが運搬役になるだろ」


 胸の下で腕を組んで、いらだちの表情。鍛え抜かれた大胸筋のおかげか、つねにビキニでもしっかりと弾む。

「特に、今回みたいに、銀貨や宝石がどかどか出て来たときは……」

「なんで迷宮って銀貨や宝石ばかり出てくるんでしょうね」

「見た目で価値がわからないものは見かけてもスルーしてるのかも」

「目利きがきく仲間がいればなぁ」


「聞け! あたしの話を!」

 すぐに脱線し始める仲間たちに、弱火だった怒りが中火くらいになっている。


「わ、分かってるって。でも、ニセ硬貨やガラス玉もたくさん混じってるでしょ」

 強火になる前になだめよう、とクッキーが両掌を見せた。


「だから、とりあえず全部持って帰って鑑定してもらうしかないじゃない」

 事実、今回見つけて来た銀貨や宝石も、キズがついていたり、材質が悪かったりして、半分ほどは値がつかなかったのだ。


「そこで、問題はなんであたしが持たされてるのかってことだよ」

 鼻息を荒くしながら、タルトは一同の顔を見回していく。


 最初に目を着けられたクッキーは、指を組み合わせて、

「ボクは、身軽にしとかなきゃいけないし。じゃらじゃら音が鳴る物を持ってたら、隠れたりできなくなっちゃうし……」


「ま、いいとしよう」

 盗賊の主張に、タルトは不承不承ながらうなずいた。


 次に、戦士の目はショコラへと向けられた。

「私は魔法使いよ。非力だし、重いものを持っていたら魔法が使えなくなる」

 魔法を使うには、呪文だけではなく身振りが必要になる場合もある。だから、魔法使いは身動きが制限される鎧を着こむことを嫌うのである。重い荷物も同様だ。


「まあ、もともと使えないようなものだけどな」

「なんですって?」

 詰め寄ろうとするショコラをあえて無視して、タルトはのこる一人に目を向けた。


「問題は……」

「わたくし、メイスより重いものを持ったことがありませんの」

「おまえだー!」

 かよわいフリをして身をくねらせるプリンを、びしぃっ! とゆびさした。


「どう考えてもプリンは持てるだろ! いままでなんとなくであたしに押し付けてきてたけど!」

「そんな、タルトさんほどの怪力はわたくしにはありません」

「分担だよ分担! 3分の1でも4分の1でも持ってくれよぉー!」

 もはや怒っているというより懇願である。が、プリンは困ったように眉を寄せるばかり。


「そうは言っても、荷物持ちだなんて。馬やロバみたいじゃありませんか」

「あたしがその馬やロバの仕事をさせられてるんだが!?」

「タルトは半分、熊なんでしょ」

「ちくしょー部族の誇りを盾にしやがって!」

 タルトの部族にはそういう言い伝えがあるのだ。


「にしたって、何か方法があるだろ? それこそ、馬やロバを買うとか……」

 精神的に疲れ果てたタルトは、別のアプローチを模索し始めた。またプリンにけむに巻かれていることには気づいていない。


「そんなお金、あるわけないじゃん」

「エサ代が月いくらになると思ってるのよ」

 彼女ら自身が毎日食べているスイーツ代をガマンすれば何とかなるような気もするが。


「そうだ、魔法でなんとかならないのか? 重さを減らして運びやすくするとか」

「できなくはないけど、鳥の羽をたくさん用意しないと。それも、むしりたてじゃないと効かないわ」

「役に立たねぇー」

「……そうね」

 いつもなら、大声で反論するショコラが小さな声でつぶやき、視線を落とした。


「お、おい、どうした?」

「確かに、私の魔力じゃ実用的な魔法なんてとうてい無理よ」

「そ、そこまで深刻な意味で言ったんじゃねえって」

 慌ててフォローに回るタルト。そこで、ショコラの青い瞳がまっすぐに向けられる。


「その点、タルトは……みんなの役に立ってる。あなたにとっては、つまらない仕事に思えるかもしれないけど」

「そうですわ。恵まれた力を自分のためだけでなく仲間のために使えるなんて……」

「タルトはすごいよ。うんうん」

 プリンは自然に、クッキーは強引に流れに乗った。その違いなどタルトに分かるだろうか。(反語)


「み、みんな……。そうだな。へっ、やっぱりあたしがいなきゃだめだな!」

 ショコラがテーブルの下で親指を立てた。

 こうして、今まで通りに荷物運びはふんわりとタルトに押し付けられることになったのだった。

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