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毒針安眠法

「反省してるか?」

「もう反省してるってば」

 いつものテーブル席のすぐそば。

 いつもなら4人が椅子に座って円卓を囲んでいるのだが、今日は少し様子が違っていた。


 盗賊のクッキーが床に座らされている。

 しかも、その首には看板が下げられていた。その看板には大きな文字でこう書かれている。

 『ボクは毒針に刺されて眠っていました』


 さすがのクッキーもこの仕打ちは堪えるらしく、クセだらけの茶色い頭を下に向けている。

 冒険者の店に出入りする客たちも、なんとなくいたたまれない風に目を向けていた。


「さすがに、やりすぎなのでは……」

 心配そうな調子で言うプリンを、タルトが手で制した。

「いいや、たまにはきっちり反省させないと」

「気づかなかったものは仕方ないじゃん。ボクだって、精一杯やったんだよ」

 小鳥のように唇をとがらせて、クッキーが反論する。


「クッキーは、手先は器用だし、身軽だけど……」

 ひとり着席したままのショコラは、ティーカップを傾けながら静かな口調だ。

「勘がニブいのだけは、なんとかならないのかしら」

「なんとかって言われても」

 反省ポーズのまま、クッキーが小さく唸る。


「騒がしい中で、集中して罠を見破るなんて、ふつう無理だって」

「そのムリをできるように盗賊の訓練を受けたんだろ」

「だから、罠解除(・・)は得意だもん」

「罠発見(・・)はニガテですけどね」

 なんとか口先で言い逃れしようとするクッキーだが、逃げ道はしっかりプリンが塞いでいた。


「時間をたっぷり使って、いろんなやり方を試せばボクにだってわかるはずだし……」

「あたしたちがモンスターをひきつけている間に扉を開ける! って息巻いてたのは誰だっけ?」

「ボクです」

「正直なのは美徳ね」

 盗賊としてはどうか……ということは保留しておく。クッキーは13歳で、他のだれより若い。この店に出入りしている冒険者の中でも、最年少である。


「扉が開けば、そこに逃げこんで体勢を立て直す……ってこともできたんだ」

「残念ながら、クッキーさんは眠ってしまったわけですけど」

「ドアノブの裏に毒針が仕込んである仕掛けだったなんてね」

 ノブをつかんでひねると、隙間から針が飛び出す機構だ。かなりスタンダードな仕掛けである。今回は、その針に眠り薬が塗ってあった。チクリと痛みを感じたかと思うと、クッキーはぐっすり眠りに落ちたというわけだ。


「それで、冒険は中断。あたしがクッキーを背負って帰るハメになったわけだ」

「さすが、頼りになる」

 ゴマすりモードに入ろうとする盗賊娘を、タルトはひと睨みした。

「まあまあ、前向きに考えてみませんか?」

 と、プリンが助け舟を出す。わざわざ看板まで作ってはずかしめられているのだから、すでに罰を十分に受けたころだろう。


「前向きって、どうやって?」

「どうすればクッキーさんが罠を見つけやすいか、やり方があるなら……わたくしたちにも協力できるかもしれません」

「なるほど。聞くだけ聞いてみましょうか」

 クッキーは面白がるような口調だ。今回の件でたまたま被害を受けていなかったのである。


「え、えーっと、そうだね。まずは、できるだけ静かにしてもらって……」

「周りにモンスターがいないときはな」

 大きく溜息をつきながら、タルト。


「あと、周りに誰かがいると気になるから一人にしてもらって……」

「迷宮の中で?」

 ショコラもあきれたようにつぶやく。


「それから、リラックスできるアロマを焚いたり、温かいココアをいつでも飲めるようにしたり、緊張をほぐすマッサージを施してもらえれば……大丈夫、絶対!」

 首から看板をぶら下げたまま、きりっと眉に力を込めるクッキー。

「みんなの協力があれば、ボクももっと頑張るよ!」


「……もうしばらくこのままにしておきましょうか」

 さっきまで同情的だった神官がふいっと背中を向ける。

「プリン?」

 小動物のような上目使いも、相手がこっちを見ていないのでは通用しようがない。


「じょ、冗談だって。あ、でもマッサージくらいは……」

「何か注文するか?」

「おかわりもらおうかしら」

「季節のデザートも気になります」

 もはやクッキーに耳を貸すものは一人もいない。


 今回も、反省会に効果はなかったのだった。

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