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フォーメーション

「冒険の質を上げるために、フォーメーションを見直しましょう」

 ……と、言い出したのはショコラだった。


 いつものとおり、全員でむしゃむしゃお菓子を食べていたところだ。

 きょとんとした表情でクッキーが首をかしげる。

「フォーメーションって?」


「今は、冒険をするときにタルトとクッキーが二人で前に立って、私とプリンが後ろに並んでるでしょ?」

 ショコラが指を立てて説明する。フルーツをいくつか取って、テーブルの上に並べた。

 前にリンゴとイチゴ。後ろにはオレンジとスモモだ。


「あたしだけなんでそんなにでかいんだよ」

「ボクだってそんな小さくないよ!」

「大きさは実在の人物とは関係ないわ。進めるわよ」


 一同がフルーツを覗き込む。最初に、タルトが前のリンゴとイチゴを指さす。

「戦士と盗賊が前に立つのは普通だろ?」


 それに対して、ショコラは後ろのオレンジとスモモを示す。

「でも、このフォーメーションだと後ろから襲われた時に危険だわ」


「確かに、私もショコラさんも非力ですからね」

 と、プリンもショコラに同意する。


「ショコラはともかく、お前のどこが非力なんだよ」

「まあ! わたくし、メイスより重いものを持ったことがありませんのよ」


 タルトの突っ込みにも、プリンはひるまない。がっくりとクッキーが肩を落とした。

「メイスが持てれば十分だよ……」


「今後はバックアタックにも備えて、三列になった方がいいと思う」

「どう分けるんだ?」

 プリンのことをスルーして、ショコラとタルトが会話を続ける。


「魔法使いの私が真ん中。前後に三人を配置して、私を守るのよ」

「それって、ショコラさんがひとりだけ安全ではないですか?」

 会話に復帰するプリン。ゆっくりとショコラが首を振った。


「一番効率のいいフォーメーションを考えてるだけ」

「本当かなあ……」

 呟くクッキーの声に、ショコラの地獄耳がぴくんと反応する。


「あのね、クッキー」

「う、うん」

 普段表情に乏しいショコラだが、『ゴゴゴ……』と効果音を背負いそうな迫力がある。


「あなたたちに挟まれてるからって、安全さは全然変わらないのよ」

「確かに」

 頷かざるを得なかった。


「それじゃあ、クッキーは盗賊だから前に立つだろ?」

 意外なところで真面目なタルトは、まずイチゴを先頭に置く。


「前が一番危険なんだよ。ボクに一人でいろっていうの?」

「なんだ、あたしに守って欲しいんだったら、素直にそう言えよ!」

 勝手に解釈して、バシバシとクッキーの背中を叩く。体格が違いすぎて、クッキーはげほげほと咳き込む。


「タルトさんはまず自分を守ることを考えた方が……」

「ちゃんとした鎧を着なさいよ」


「あたしはいいんだ。たとえあたしが犠牲になっても、仲間を守れれば……」

 二人からの矛先を向けられても、タルトは気にしない。メンタルの防御力は強いらしい。


「守れてないから言われるんだと思うけど」

「自分を客観視できない人ですわね」


「ショコラさんを挟んで前に二人、後ろに一人……となると、後ろに立つ人が一番危険な気がしますわね」

「背後から襲われた時に対処できる人じゃないと」

「それだけ、腕が立つ人じゃないとダメってことだね?」

 三人が並べたフルーツに向けていた視線を、一点に向ける。


「お? なんだ、みんなしてあたしのほうを見て。まぁ、この中で腕の立つ戦士っていやあ、あたししかいないからな!」

 大きな胸を張り、頭を掻いてみせる。だが、仲間の反応は冷ややかだ。


「しいて言うならよ」

「タルトさんは馬鹿力ですものね」

「どっちかっていうと、力馬鹿って感じだけど」


 せっかく調子に乗っているのに、一向に持ち上げてくれない仲間達。さすがのタルトも、少し冷静さを取り戻した。

「でもあたしはいやだぞ。戦士が一番後ろを歩くなんて格好悪いじゃないか」


 三人が顔を見合わせる。


「そういうことなら、わたくしが後ろに立ちましょうか?」

「いやいや、ここはボクが後ろになるよ」

「いっそ、私が後ろになるというのも」

 一人ずつ、手を上げていく。ひとり挙手していないタルトは、どことなく居心地が悪い。


「そういうことなら、あたしも……」

 と、手を上げた直後に、三人が手を降ろした。


「どうぞどうぞ」

「やると思ったよ!」

 と、騒いでいる間に、フォーメーションを見直すという話題は、すっかり忘れてしまうのだった。

冒険者パーティが最初に決める並び順。優秀な冒険者ならこんなに悩まないのですが。

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