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谷と吊り橋の問題

「問題です。二人の冒険者が谷を渡ろうと……」

「なんだよ急に」

 いきなり指を立てて宣言したクッキーに、タルトはスコーンを口にくわえたまま聞き返した。


「先輩の冒険者から聞いた話でさ、みんなにも聞かせてあげようと思って」

「まあ、面白そうじゃないですか」

 ぽんと手を打って、プリンが賛同する。


「リドルじゃないでしょうね」

「ち、違うって」

 全身から氷のような殺気を放つショコラ。冷や汗を頬につたわせながら、クッキーは話の続きを思い出していく。


「二人の冒険者が谷を渡ろうとしてます。谷の間には、細いつり橋があるだけ」

「冒険者が行くような場所になんで吊り橋があるわけ?」

「とにかく、あったの」

 ショコラの細かいツッコミにいちいち答えていたらいつまでたっても話が進まない。とにかく、吊り橋を二人の冒険者が渡るのである。


「二人は安全のために、ロープでお互いの体を結んでたんだ。お互いの胴体をね」

「命綱か? でも、それならほかのものに結ばないと意味ないぞ」

「先回りしないでよ。そこが問題なんだから」

 タルトは山登りには慣れているらしい。

(その格好で山に登るのか?)とクッキーは思ったが、たぶんこの女はビキニアーマーで山ものぼるのだろう。


「そこで谷底から突風が吹いて、冒険者の一人がバランスを崩した!」

「きゃあっ」

 想像したのか、プリンがびくっと身を震わせた。想像力旺盛なのも考え物だ。


「片方が落下したら、狭いつり橋の上で踏ん張ることはできずにもう一人も一緒に落ちてしまう。さあ、もう一人の冒険者はこの危機をどうやって脱出したと思う?」

「魔法でしょ」

「魔法はナシ」

「は?」

「そんなに怒りを露わにされると思わなかった……」

 どうやらショコラは問題を出されること自体が嫌いらしい。クッキーは記憶に深く刻んでおくことにした。


「普通は、体を支えられるくらい丈夫な手すりがついてるだろ?」

「古いつり橋だから、それはなかったってことで……」

「後から条件を変えたり足したりしないでよ」

「あんまりディテールにこだわってたら長くなっちゃうでしょ! 抽象化だよぉ!」

「まあまあ、あんまりクッキーさんを困らせないで」

 どうどう、と間に入ってなだめるプリン。


「魔法使いなしで冒険に出るほうが悪いわ……」

 ショコラはまだ納得してないようだが、タルトは「抽象化」に協力してくれるようだ。

「つまり、細い橋の上で、一人が落ちて、ロープでつないであるからもう一人も落ちそう……ってことだろ」

「そう。橋は崩れてない」


「その場に這いつくばるとか?」

 プリンが首をかしげるが、クッキーは首を横に振る。

「それでも、転落は防げないよ。何せ、一人分の体重が一気にかかるわけだから」


 タルトはやれやれと首を振る。

「ほんとうなら、フックつきのロープを橋に引っ掛けながら進むんだけどな」

「基本ができてないから死ぬんじゃないの」

「死んでないって!」

 ショコラの全身から「さっさと話を終わらせたい」という雰囲気が伝わってくる。だが、クッキーはここで引くわけにはいかなかった。話題を振った手前、ひっこめにくいのである!


「自分の身に置き換えて考えてみたら? ボクたちで橋を渡ってて……プリンが落ちそうになったら?」

「どうしてわたくしなんですか」

 風を受ける面積が広そうだから、とは言いにくい。クッキーは黙秘した。


「見捨てるわ」

「オイ」

 思わずツッコむタルトに、ショコラはふいと首を振った。

「魔法は使えないんでしょ。そんな状況考えたくないわ」


「ショコラさん……」

 なぜか感じ入ったように、プリンが胸の間で手を組んだ。

「わたくしが危険な目に遭うところを考えたくないなんて、そこまで思ってくださったのですね」

「そんなこと言ってないわよ!」


 吠えるようなショコラを尻目に、クッキーは小さくため息。

「どんどん話がズレてくなあ……」

「で、答えは?」

 そろそろこの話題も終わりにしようと思ったのか、あっさりと聞いてくるタルト。クッキーとしても、さすがにまだ引っ張るつもりはなかった。


「反対側に飛び降りたんだよ。そうすれば、橋が支点になって二人とも引っかかるでしょ」

「カチカチボールみたいに?」

 登場人物はおろか読者にも伝わるかどうかわからないたとえを出してくるタルト。はたしてカチカチボールはこの世界にあるのだろうか。そして読者に通じるのだろうか。分からない方は検索してください。


「どっちにしろ胴をロープで結んでぶら下がるなんて、窒息したらどうするのよ」

 まだ文句ありげなショコラをなだめながら、タルトはにっと笑った。

「ま、でも、あたしたちならプリンが落ちても平気だよ」


「だからどうしてわたくしが落ちる扱いなんです……」

 プリンのつぶやきには取り合わず、タルトは続ける。

「一人が落ちても三人いるからな」

「……うん、そうだね」

 戦士の言葉に、盗賊は小さくうなずいたのだった。




 ちなみに、ロープで結ばれている人が三人いても滑落は防げない。

 正しい滑落防止方はそれぞれ調べてください。

登山家の間ではジョーク混じりでよく出てくる話らしいです。

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