いきなりフードファイト!(中)
優勝賞品の旅行券を目当てにタルトが参加した大食い大会。
小人族のヒッパというライバルが現れるも、タルトは順調に二回戦を突破した。
一話飛んでいるわけではありません。ご安心ください。
「二回戦の料理がケーキだったのが幸いしたね」
「対戦相手が甘いもの苦手だったから余裕だったわね」
「でも、少し苦しそうでしたね……わたくし、少し様子をみてきます」
さすがに、二食ぶんでかなりの量を食べている。心配そうに、プリンは控室へ向かっていった。
檀上では、二回戦の対決が始まっている。小人族は余裕綽々の様子で、ホールケーキを手づかみしていた。
「……あれ?」
ふと、クッキーは何かがおかしいような気がした。
「どうしたの、クッキー?」
「ちょっと気になることが……ごめん、先に行ってて」
そう告げて、クッキーは観客の中をかきわけていく。
「いいけど……」
不思議そうに首をかしげて、ショコラはプリンの後を追った。
「うー、食い過ぎた」
控室でぐったりと椅子にもたれかかり、タルトがうめいていた。
「まったく、2回戦はあんなに食べなくてももう勝ってたのに」
傍らに立つプリンが、眉をハの字にしてつぶやく。
「あのケーキ、うまかったんだよ。それでつい」
「だからって」
いつもよりも明らかにおなかが出ているのが、ビキニアーマーのせいで、はっきりとわかる。ふだんは細い腰を見せているから、余計にわかりやすい(ただし腹筋は浮いている)。
「まったく。いま、術をかけますから、動かないでください」
「おっ、食べられるようにしてくれるのか?」
「気分が楽になるだけです。消化促進もできますけど、ルール違反ですから」
「ちぇ、固いなあ神官さんは」
そう言いつつも、椅子にもたれたままプリンに体を任せる。プリンの白い手がおなかに当てられ、ぽうっと白く光った。
美容に不可欠な腸内細菌を調整するとともに、食べ過ぎによる不快感を軽減する魔法だ。そんな魔法あるんだ……。
「おっ! 本当にラクになってきたぜ。ありがとうな、プリン!」
「もって30分ぐらいですから、決勝戦では無理をしないように。限界を超えたら危険ですよ」
その頃、遅れて来たショコラが控室にやってきた。
「そろそろ、向こうの勝負も終わりみたいよ」
「どっちが勝ったんでしょう?」
「最初に少しだけ見てたけど、あの小人族でしょうね。スタートダッシュが全然違ったわ」
「あの体であんなに食べてたはずなのに……すごいですね」
ショコラの言うとおりだった。会場から、司会の大きな声が聞こえたからだ。
「勝者、ヒッパ選手! これで決勝はタルト選手対ヒッパ選手に決定しました!」
「おーっし、負けねえぞ」
「こっちの方がインターバルが長いし、ちょっとだけ有利よ。こうなったら、ちゃんと優勝して旅行券をもらってきなさい」
「任せろ! プリンのおかげで今なら何でも食えるぜ!」
びしっと親指を立ててみせるタルト。ショコラは何も言えない。なにがプリンのおかげなのかは気になったが、もしもズルをしていても勝てばいいか、と思ったからだ。
「インターバルって、どのくらいですか?」
「10分くらいだったかな。さすがにヒッパにも、腹を休める時間が必要だろ」
「でも、戻ってこないわね」
控室はふだんはギルドの応接室として使っている部屋だ。ショコラが部屋の外を眺めてみるが……小人族がやってくる様子はない。
「来ない、といったら、クッキーさんは?」
「後から来るって言ってたけど」
もう一度外に目を向ける。もちろん、クッキーが現れる様子もない。
「なんだか、妙ね」
「何が?」
「何がって、うまく言えないけど」
「確かに、変な感じですね」
「そうかあ?」
プリンも心配そうにつぶやく。気にしていないのはタルトだけだ。
しばしの間、沈黙が部屋を満たした。その間、ヒッパもクッキーももどってはこない。
「それでは、決勝戦を開始します!」
司会者のアナウンスが沈黙を打ち破った。
「それじゃ、行くかあ」
気楽なタルトは、おなかをさすりながら控室の出口に向かって歩いていく。プリンの術のおかげで、足取りは軽い。
「ま、心配すんなって。あたしのほうが体がでかいんだ、ヨユーで勝ってやるからさ」
と、手をひらひらさせて扉をくぐった。
一方、その頃……。
クッキーは、椅子の上に縛り付けられていた。
「はなせー!」
さらにつづく!




