斧使いタルト
冒険者の店では、冒険者たちが仕事を探したり、パーティの仲間を募ったりしている。だから、だいたいは屈強な戦士や抜け目のない探索者たちが出入りして、がやがやと騒がしい場所だ。
その一角を毎日のように占拠しておしゃべりに興じているのがご存じスイートメイツの面々だ。
店にとっては迷惑極まりないことだろうが、厚かましい彼女らにわざわざ文句を言いにくる者もいない。あとが面倒そうだから。
というわけで、今日も今日とてテーブルを囲み、4人は思い思いに過ごしていた。
そんな中、周りの冒険者たちを眺めていたクッキーが、ぽつりとつぶやいた。
「いいなあ、剣士……かっこいいし」
腰に剣をさした冒険者たちを眺めてのひとことである。当然、聞き逃せない戦士がそばにいた。
「なんだよ、斧使いじゃ不満だっていうのか?」
そう、タルトの武器は斧だ。バトルアックスなどと呼ばれる種類である。
「不満ってわけじゃないけどさあ……なんか、見栄えが」
「剣は高いんだぞ。使ってる鉄の量が同じなら、遠心力をきかせやすい斧の方がずっと威力が出る」
「それって、なんかビンボーくさいっていうか……」
「私はタルトに賛成だけど」
珍しく、ショコラが話に割り込んだ(そして、タルトに同意を示すのはもっと珍しい)
「そうだろうそうだろう、ショコラも斧のよさを分かってくれるよな」
「剣は使いこなすのに訓練が必要でしょ。その点、斧なら振り下ろすだけだもの。タルトみたいなのが使うには最適の武器よ」
「おっまたあたしを貶めてるな?」
あっさりとしたショコラの口調に反感を示しつつも……言っている内容自体には、タルトも反論はないようだ。
「タルトさんは、そんなに斧が好きなんですか?」
と、プリン。
「まあ、子供の頃からよく使ってたからな。木を伐ったり、手斧で狩りをしたりね」
タルトは南方の森にほど近い地の出身だ。子どものころから力が強く、重宝されていたらしい。
「それに、剣は人間と戦うための武器だろ? あたしらは魔物との戦いの方が多いんだ。対人間を想定した剣術を身につけるより、力任せなほうが戦いやすいぜ」
「珍しく戦士らしいことを言うんだね」
クッキーは目を丸くしている。タルトにちゃんと理由があって武器を選んでいるとは思っていなかったのだ。ひどくない?
「ボクやショコラじゃ、本格的な武器を扱うほど力がないからさ。そこまで考えてなかった」
クッキーはダガーを使うことが多い。罠の解除に使ったり、いざとなったら投げることもできて、非力な盗賊には便利な武器なのだ。
ショコラは長い杖を使う。最近は短いワンドが流行だが、ショコラは流行に乗るのが嫌いなのだ。
「わたくしもいるんですけど」
「だって、そりゃ、プリンは……」
テーブルの足に立てかけられているメイスを見る。試してみたこともあるが、クッキーにとっては持ち上げるのがやっとである。
「プリンは、他の武器は試さないのか?」
タルトはせっかくだからと、前から気になっていたことを聞いてみた。
「聖職者は刃物を武器にしない……というのは、少し古い考え方ですけど、わたくしの性には合っているみたいです。イメージというのもありますし」
プリンが仕える光の神殿は保守的な装いを好む。雷や炎の神に仕える神官なら、いまどきは剣を使うことも珍しくない。
「ま、何にしろ……タルトがちゃんと考えて武器を選んでるってわかってよかった」
クッキーとしては、以前から引っかかっていたらしい。斧使いをバカにしていたわけではないぞ。たぶん。
「でも、剣がかっこいいのも利点よ。見た目がよければ、依頼主から信用されやすいでしょ」
と、ショコラ。冒険者にとっては、一目で信用を得られるかどうかは死活問題だ。
「その点、あたしは得だろ。美人だからこれ以上見た目をよくする必要がない」
「そう思うなら服を着てくださいね」
ビキニの戦士に対して、プリンが辛辣に告げる。
「何度も言っているだろ、この格好はあたしの部族に伝わる……」
「はいはい」
防具についての話は、だれも取り合ってくれないのであった。




