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魔法の世界

「魔法ってなんだ?」

 空になったグラスの縁を舐めるのをやめたかと思うと、タルトはとつぜんそんなことを言い出した。


「は?」

 ショコラはすでに怒気をバリバリににじませている。


「お、落ち着いてください」

「そうだよ、タルト、あんまりうかつなこと聞くもんじゃないよ!」

 プリンがショコラをフォローし、クッキーがタルトを攻める。迷宮の中にいるよりもずっと息の合ったフォーメーションだ。


「だ、だからさ、魔法ってどうやって使ってるのか、ちょっと気になったんだよ。もしかしたら、あたしにも使えるかもしれねえだろ?」

「タルトには無理よ」

「無理ですね」

「無理だよ」


「ふたりはともかく、なんでクッキーにまで言われなきゃならねえんだ……」

 流れるような3連撃に、さすがの鉄のメンタルも、ちょっぴりへこんでいる。


「魔法っていうのは、緻密で精巧な理論に基づいてるんだから。タルトのおツムじゃ理解できないわよ」

「おまえ、人が気にしてることを!」

「知力が数字で見れたらいいのにね」

 やれやれ、とショコラが大きく首を振る。


「それに、魔法は不思議と驚異に満ちていますから。想像力が必要なんです」

 プリンはすっかりいつものペースを取り戻し、紅茶を口に運んでいる。


「それ、ショコラの言い分と全然違うよ」

 と、クッキー。さすがに黙っていられなくなってきたようだ。


「どっちも本当のことよ。知的な論理であるとともに、創造的な芸術でもある」

「両方のありようを認めることが魔法使いには求められるんです」

「ショコラが芸術ぅ?」

 あからさまな引っかかりを感じて、タルトが元気を取り戻した。ろくなことではない。


「人の顔もろくに描けないこいつが?」

「うるっさいわね! 魔法は絵じゃないわよ!」

「あぁー、なんだかわかるかも」

 沸騰しそうなショコラから距離を取りながら、クッキーはつぶやいた。


「ショコラにはゲージュツ的な感性がないんだね」

「年下だからっていつまでも甘い顔してあげると思ったら大間違いよ」


「まあまあ、魔法が使えない人の意見ですから……」

「おっ、魔法使い特有の使えないやつ差別か?」

「タルトは話をまぜっかえさないの!」

 ぜー、はー。

 ショコラは呼吸を落ち着けて、深く座りなおす。


「とにかく、一言で説明できるような簡単なことではないんです」

「そういうことよ」

 プリンの言葉にショコラが大きくうなずく。


「精霊の力がどうとか、説明してもらえると思ったんだけどな」

「どうせ、説明しても聞き流されます。それに、法則が決まってしまうと後々に矛盾する出来事が説明できなくなったり、理屈のほうを合わせないといけませんし……」

「プリン?」

 なぜか早口になり始めたプリンを、クッキーは思わず止めようとした。だがそれはできなかった。


「むやみに論理的に解釈しようとしてうまくいかなくなる人を何人も見てきました。だいたい、論理と言いつつも、魔法的なワンダーを強引に物理的に解釈しようとしたものだったりすると……はぁ、物理や化学の理解も及んでいないのに、説明できるわけありません」


「それ、プリンが喋ってるのよね?」

 叙述トリックを疑い始めるショコラをよそに、プリンは続ける。


「だいたい、作中人物が驚いていることをすべて読者に説明する必要はないのに。その場でそれらしい解説ができればいいところに、先回りして理屈をつけておくなんて。よい設定とは後から解釈が加えられるものであって、細かい決まりが多ければいいというものでは……」

「もしもーし」

「……はっ」

 きょとんとする一同の前で、ふとプリンの目が焦点を結んだ。今まで結んでなかったのかよ。


「失礼、なにかを受信してしまったようです」

「神様の信託ってこと?」

「それに近いような、もうちょっと雑念的なもののような……たまに、受け取ってしまうことがあるんです」

 もう大丈夫です、と豊かな胸に手を添える。


「こえーな、神官って」

「何言ってるかわかった?」

「さっぱり」

 タルトとクッキー、魔法使えない組が顔を見合わせている。


「まあ、とにかく、魔法にはいろいろあるってこと」

 と、ショコラ。


「まとめ方が強引じゃありません?」

「誰のせいだと思ってんのよ」

注意

プリンの発言はあくまで謎の受信によるものであり、この世界の神的な存在、および作者の考えを代弁しているわけではありません。

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