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迷宮への道

「迷宮って言うけどさ」

 ジョッキと見まごうような大きなカップに、たっぷりのセーキを注いで、ペースを変えずに飲みながら、タルトが不意に口を開いた。


「道に迷って苦労したことって、あんまりないよな」

 気楽な調子で告げるタルトに、パーティの仲間たちはおのおのの反応を示した。


「それはね……」

 クッキーは困惑と控えめな遠慮の表情だ。これでも、タルトは最年長で体も大きい。最年少で体が小さいクッキーには、彼女に意見するのはなかなか勇気がいるのだ。


「なんというか……」

 ショコラは信じられないバカを見る目を向けていた。彼女の言葉に対して、なんと返せばいいかわからない様子だ。


 プリンは……

「それは、タルトさんが気づいてないところで、わたくしたちがやっているからです」

 きっぱりと、言葉を告げた。


「やってる?」

「まさか、本気で気にしてなかったとは思わなかったけど……」

 ショコラが長い髪に指をすべらせながら、長いため息をついた。


「簡単な地形なら、ボクが頭に入れてるよ」

 棒状のチョコレートを口に含みながら、言いにくそうにクッキーがつぶやく。


「頭に入れるって、迷宮が頭蓋骨の中に入るのか?」

「頭の中で地図を書いてるってこと。いっつもボクに前を行かせて、それはないんじゃないの」

 ぶすっと不機嫌さをアピールしながら、盗賊娘が肘をつく。


「盗賊ギルドではそういう訓練をされるんですよね?」

「下水道の中を何日も歩かされるんだよ。もー、二度とやりたくない」


「おかげでいまは冒険に役に立ってるんだから、いいじゃありませんか」

 ぐったりしたクッキーのくせっ毛をなでて、プリンが慰める。


「地図を見なくても道がわかるんだ。便利なもんだなあ」

「いままでずっと世話になってるんでしょうが」

 まったく自覚のなさそうなタルトにあきれて、ショコラがこめかみの横を押さえていた。

「んじゃ、クッキーに任せてればどれだけ複雑な迷路でも平気ってわけだ」


「どれだけ広くても平気ってわけじゃないよ。ほかの仕事もあるし。あんまりおおきな遺跡なら、地図を作ったほうがいい」

「たまに地図職人が昔の遺跡の地図を売ってるもんな」

 うんうん、と大きく頷くタルト。


「お前たちもクッキーに任せきりじゃいけないぞ」

 いきおい、ショコラとプリンにも水を向けた。


「だから、戦うことしか考えてないのはタルトだけだってば」

「気楽そうでいつもうらやましいです」

 が、ふたりの視線は冷ややかだ。


「私の魔法で時々、道に刻印マークしてるの」

「魔力の無駄遣いだろ。魔法の才能ないのに」

「言葉を選びなさいよ!」

 眉をきりりとつり上げながら、ばん、と机をたたく。ただし、魔法使いの非力な腕では音を鳴らしただけだった。


「そうですよ。ショコラさんはそういう小細工魔法は得意なんですから」

「あんたも言葉を選ぶように。刻印しておけば、あとから魔力の足跡をたどれるでしょ。これはパン屑術と言って、むかし、邪悪な魔女を狩ることを生業としていた兄妹の狩人が……」


「へぇー。全然気づかなかったな」

「それはあんたに魔法の素養がさっぱりないから感じられないんでしょ」


 ショコラのとげとげしい言葉をさらりと受け流しながら、タルトの目はプリンへと向けられた。

「プリンもそういうなにかをしてるのか?」


「質問の仕方が雑ですね」

「話の流れでわかるだろ」

 横では疲労感にうなだれるショコラの黒髪を、クッキーが慰めていた。


「私は占術オラクルの覚えがありますから、手がかりがないときに道を示しているんですよ」

「ああ、しばらく黙ったと思ったら道を指さしてたのって、そういうことだったのか」


「それだけ見といて何してるかわかってなかったというのもたいしたものですわね」

「褒めるなよぉ」

「褒めてないって」


「この鈍さで、よく冒険者になろうと思ったわね……」

「ある意味、タルトさんのたくましさこそ必要なのかもしれません」

 思わず感心するプリンであった。

作者は主観視点のダンジョンゲームはめちゃくちゃ迷うので冒険者ってすげーなー、といつも思ってます。

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