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リドル

「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足の生きものはなーんだ?」

 会話が止まったタイミングで突然、ショコラが切り出した。


「いきなりどうした。勉強のし過ぎで脳みそがカスタードになったのか?」

「ちっがーう!」

 心配そうにのぞきこんでくるタルトを押し返し、黒髪の魔女は(ない)胸を逸らした。


「唐突に思い出してムカつくことってあるでしょ」

「まあ、たまにねえ」

 ミルフィーユ生地を薄く剥がすことに情熱を燃やすクッキーの生返事は、ショコラをさらに苛立たせたようだ。


「そ、れ、で、思い出したのよ。古い教本に書いてあった、有名なリドル」

 ぎらぎらと青い瞳を光らせて威嚇している。思い出しムカつきからさらに火がついたようだ。


「リドルって、迷宮でたまに出されるなぞなぞですね」

「そう。昔の魔法使いは、そういうのが好きだったのよ」


「なんで迷宮でなぞなぞなんか出すんだ?」

「そうやって、挑戦者の知性を試してるのよ」


「えー、絶対ウソだよ」

 向こう側が透けて見えそうな生地を掲げながら、クッキーが声を割り込ませた。行儀が悪いことには、今は誰もツッコまなかった。


「だって、迷宮って宝を隠したいんでしょ。頭がいいからって宝をあげたいわけないじゃん。解けない問題を出して楽しんでるんだよ」

「……!」

 ぴしゃーん。ショコラの背景に稲妻が走った。もちろん、もののたとえだ。


「『解けない問題を出した俺の方が頭がいいぞ』って?」

「そーそー、魔法使いってたいてい……なんでもない」

 言いよどむクッキー。魔法使いが同席してるからね。


 しかし、当の魔法使いはそんなことを気にしている場合ではなさそうだった。

「そうよ! その通り! よく言ったわクッキー。まったくろくなものじゃない!」


「叫ぶのはやめてください。はしたない」

 唾を飛ばす勢いのショコラから、プリンがささっと自分の手元のお皿とカップを守る。自分のぶんだけ。


「最初から答えにたどり着けないように問題を出して、困惑するところを楽しんでるに決まってるのよね! 『わからない』とか! 『ヒントを下さい』とか! 『知力判定でわかったことにしていいですか』とか!」


「落ち着けよ」

「落ち着いてる場合じゃないわよ! 学院で『解けるまで居残り』なんて言われた私の気持ちがわかる!?」


「それでムカついてたんだ」

「いつのことです?」

「5年前」

「根に持つやつだなあ」


「それでそんなこと言い出したんですのね」

「ショコラって頭の回転が速いけど話題をめちゃくちゃに飛ばすことがあるから……」

「悪い癖だぞ」

「ちょっとは私の気持ちを味わいなさい。ほら、朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足の生きものは!?」


 ショコラの剣幕に押されて、タルトが腕を組んで考える。

「わからん」

「1秒も考えてないじゃないの」


「でも、そんな生きものいるか? だいたい、動物は生まれてから死ぬまで4本足だろ」

「あ、でもカエルは足が生えるよ。カエルの赤ちゃんは足がないもん」

「そうですね、2本足になるのは人間くらいです」


「あっ」

「えっ?」

 プリンの何気ない一言で、場の空気が変わった。


「……人間が答えか?」

 ギラギラの剣幕をとたんに引っ込めたショコラの様子に気づいて、タルトが問い詰める。


「クイズを出して、答えが出た時に反応しちゃだめだよ」

「クイズじゃなくて、リドル! 別にいいでしょ、理不尽を味わわせたかっただけだし」


「でも、『2本足』ってところから考えれば、そんなに難しくないですね」

「そ、それは答えがわかったから言えるんでしょ」


 喚き散らしていたぶん、ショコラの声が徐々に小さくなっていく。

「だいたい、おかしいでしょ。リドルのなかで一生を一日に喩えたりするのは……」


「たしかに、朝生まれて夜死ぬわけじゃないもんな」

「そうでしょ! だからわからなくても当たり前なのよ。たまたま話の流れで答えがわかっただけ!」


「ケーキ食べるか?」

 子供っぽく食い下がるショコラをなだめて、タルトがそっとフォークを差し出した。

「食べる……」

 ちょっと涙ぐんできているのをこらえている。


「ねえ、やっぱり魔法使いって……」

「しーっ。言ってはいけません」

 クッキーのひそひそ声に、プリンはそっと口の前に指を立てた。

エジプトにあるスフィンクス像が有名ですが、世界一有名なこのなぞなぞはギリシャ神話の「オイディプス王」に登場するものです。

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