いきなり反省会!
カランコロン。
冒険者の店の戸が開く。
四人の少女たちが、肩を落として店の中へ入ってくる。
戦士のタルト。
魔法使いのショコラ。
神官のプリン。
盗賊のクッキー。
全員、ぼろぼろだ。どうやら、また冒険に失敗してきたらしい。
四人はいつものテーブル席を占領し、口々に甘い物を頼みはじめる。疲れた時には甘味が一番なのだ。
しばしののち。
テーブルの上に並べられる山のようなお菓子を前にして、まだ誰も手をつけない。
「洞窟のゴブリンどもを倒すだけの簡単な依頼のはずだったよな?」
気まずい沈黙を最初に破ったのは、最年長のタルトだ。
「そうね。あんなに数がいるとは思わなかったけど」
長い髪を梳きながら、ショコラが頷く。
「数って、見張りに立っていたのは三匹だけでしたよ?」
プリンの口調は、どことなく困ったような色を帯びている。
「でも、洞窟の中からたくさん出てきたでしょー」
クッキーはといえば、椅子の上で足をぶらぶらやっている。
「なぜやられてしまったのか、きっと理由があるはずだわ」
ショコラの言葉に、タルトが大きく頷いた。
「よし、反省会だ!」
ほとんどの冒険者が酒場として利用する店の一角が、甘いにおいで占領されている。
なんとも冒険者らしくない雰囲気の中で、反省会がはじまった。
「ふつう、入り口のゴブリンなんて、魔法使いがなんとかするもんだろ?」
「そうだよ。眠らせる魔法とか、あるんでしょ?」
タルトとクッキーの矛先は、まずショコラに向けられた。
「使ったわよ。タルトが大声あげて突進するから、起きちゃったんじゃない?」
「物音くらいで起きるってことは、魔法にかかってないってことだろ!」
タルトの大声に、三人はもちろん、まわりの客まで一斉に耳を塞いだ。たしかに大きい。
「でも、ゴブリンに魔法がかからなかったのに理由があるのでしょうか?」
頬に手を当てて、プリンが首を捻る。
「あのね、いいこと?」
ぴっ……と、ショコラが指を立てる。学者のような仕草で、彼女は言った。
「私には、魔法の才能がないのよ」
「なんで魔法使いやってんだよ!」
「だいたい、突撃せざるを得ない状況になったのが問題なんじゃない?」
矛先を逸らすため、ショコラがクッキーを指さした。
「クッキーが偵察に行ったのに、あっという間に見つかってたわよね」
「いやー、あれはなんていうか……」
注目を浴びて、くしゃくしゃの頭を掻きながらクッキーが縮こまる。
「なんというか、なんでしょう?」
にっこり笑顔のまま、プリン。
「草むらに潜んで、やつらの隙をうかがおうと思ったんだけど……」
「だけど?」
睨み着けるタルト。
「見つかっちゃった」
てへ、と舌を出して、こつんと自分の頭を叩く。もちろん、クッキーのせいいっぱいのぶりっ子も女同士で通じるわけがない。
「盗賊なのに鈍すぎるのよ」
「だって、ゴブリンの気配なんて感じたくないじゃん!」
「それを感じるのが盗賊の仕事でしょ!」
「戦って負けるのは、盗賊の責任じゃないでしょ。回復できなかったってことじゃん!」
危うい雰囲気を察知したクッキーは、隣のプリンに水を向ける。
「でも皆さんがケガをしなければ、癒す必要は無いですよ?」
「冒険者はケガするもんだろ!」
タルトの大声に、どうどうとやりながらプリンは続ける。
「よいですか、神への祈りは万能ではありません。それは奇跡を請うようなもの。誰が願うか、どこで願うか、いつ願うか、時によって違いが出るのは当然のことです」
「お、おう?」
「つまり……?」
「プリンが願っても、傷を癒す力が働いてくれないってこと?」
見事に煙に巻かれているふたりを押しやって、ショコラが呆れた目を向ける。
「そうです。でも代わりに、肌の保湿や美白、毛穴の引き締めなどに効果が……」
「それは……」
「ありがたい……」
今度は、タルトとショコラが感じ入ったように頷いた。
「回復をしてほしいの!」
仕方なく突っ込むクッキー。でも、にきびが気になるのは彼女も同じであった。
「だいたい、戦うのは戦士の役割ではありませんか?」
さっとプリンがタルトのほうを示す。
「あたしが怠けてたってのか?」
「怠けてたって言うか……」
困ったようにクッキーが視線を彷徨わせる。その視線は、毒舌担当のショコラのほうでぴたりと留まった。
「最初にやられてたじゃない」
「あのゴブリン、かなりの使い手だったさ」
自分をおとしめずにゴブリンの腕を称え、鼻の頭を擦るタルト。しかし今は反省会、浸っている場合ではない。
「前から思ってたんだけど、タルトって防御力低くない?」
一撃でやられたタルトを思い出し、クッキーがジト目を向ける。
「なんでそんな水着みたいな鎧を着てるわけ?」
「これはあたしの部族に伝わる伝統的な鎧なんだ。誰になんと言われようと、脱ぐ気はないぞ」
「脱げじゃなくて、着ろと言ってるんですよ」
「……」
「……」
「……」
「……」
ひととおりの指摘が出そろったところで、四人の間に沈黙が広がる。
「そもそも、見張りを立ててるゴブリンが悪いんだよ」
口火を切ったのは、またもタルト。
「それもそうね。あいつらが見張りなんかしてなけりゃ、戦う必要はなかったもの」
「わたくし、こういう荒っぽい仕事はわたくしたちには合わないと常々思っていたんです」
「その通り! ボクらが悪いんじゃないよ、仕事のほうが間違ってたんだ!」
口々に賛同する三人。大きなモノから目をそらしているような気もするが、誰ひとり指摘はしない。
「っつーことで、反省会終わり! 食うぞ!」
「おーっ!」
肝心の反省点はひとつも洗い出せていない気もするけど、そんなことよりスイーツが乾いてしまうことのほうが問題なのだ。
彼女らの反省会は、いつもこうしてうやむやのまま終わるのだった。
今後もずっとこんなことばっかりしてます。




