奥山さんの毎日。
奥山さんの毎日は忙しい。
「うわあ!」
「奥山さん?どうしたの?」
レジの横にある卓上カレンダーを掴みながらぷるぷる震える奥山さんに、あかりちゃんは首を傾げた。
「今月……給料日が月曜日だ……」
「え?」
奥山さんの掴んでいるカレンダーを覗き込み、25日が月曜日だったことを思い出した。
「うちのカレンダーだったら25は日曜日で給料は23の金曜に振り込まれる算段だったのに!」
「いや、それ、カレンダーめくってないんでしょ?奥山さんが」
「誰?誰がこのカレンダーめくったの?」
「そういう問題?」
奥山さんはポケットから唐草模様のがま口を出して中身を見た。そしてこの世の絶望を見た。
「お金ないんですけど?」
「大丈夫、その顔見たら誰でもわかるよ」
「タバコ買ってビール買ったら……寿司が食べられない……」
「お金ないのに悩みが大きいよ?」
「電気は止まっても死なないからいいけど……」
「タバコとビールより電気代払おうよ」
奥山さんは閃いた顔をして油性マーカーの黒と赤と青を持った。
「あかりちゃん!!カレンダー書き換えていい?」
「ダメだよ、仕事やりにくくなるでしょ?」
「平日と週末は色変えるよ?」
「そうじゃない」
奥山さん、24歳。「なんかモテそう」という理由で雑貨屋でアルバイトをしているがもちろんモテない。奥山さんは理由がわからないと日々嘆いているが、同じアルバイトのあかりちゃんは気がついていた。
「奥山さん、カレンダー書き換えてもお給料は25日の月曜日に振り込まれるんだよ?」
「え?」
「全国的に世界的に25日は月曜日だからね」
25日が日曜日に書き換えられたカレンダーを満足そうに見ている奥山さんにあかりちゃんは愛ある眼差しを向けた。
「奥山さん、奥山さんは一生独身でもなんとか生きていけると私は思っているからね」
「ありがとう?」
奥山さんの毎日は忙しい。