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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第6章 いよいよ勇者と共に出発の時です。
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97. 打ち合わせと特訓をしましょう。

「行方不明?」


 翌日、教会が一晩で調査を終わらせたとのことで、食堂でご飯がてらニルルさんから結果を聞いているのだが……


「最近奴隷の首輪に死亡すると主にそれが伝わる機能が追加されてまして、偽シスターが死亡したことでロッピーニが失敗に気付き逃亡したのでしょう」

「……もしかして、インフィさん関わってたり?」

「はい。確かに数月ほど前に開発してましたね」


 確かあの人は元々魔力の移動について研究してたはずだ、とルオさんに聞いてみると案の定肯定の言葉が返ってきた。


「じゃあ、協力者の方は?」

「そちらも大した情報は得られませんでした。奴隷のオーナー曰く、外見は白と黒ですが詳細を何故か覚えておらず、奴隷を買った時に使用された名前も調べる限り実在しない人物のものでした」


 ……白と黒? なんかどっかで聞いたような……う~ん、思い出せない。なんだっけ?


「どちらも調査は続行しておりますが、恐らく徒労に終わる可能性が高いと思われます」

「パレードはどうすんだ?」

「予定通り開催いたします。それで誘き寄せられれば、という狙いもありますが、国民が不安を募らせないようにですね」

「えっと、パレードとは、なんでしょうか?」


 フェツニさんの言葉を聞いて小夜が尋ねる。


「まだ説明していませんでしたね。勇者を召喚してから丁度一年の四月一日にここを出発するのですが、その際にパレードを行うことになっています」

「僕は別になくてもいいと思うのですがね」

「ダメですよヒトナリ様、昔からの伝統なのですから。それに、魔王という人々の不安を、勇者という希望で塗り替える役目もあるのですよ?」

「分かっていますよ」

「本当ですか? もう」


 二人のやり取りを見て、本当にこういうことするんだなあ、と軽く思っていたのだが、


「他人事のように見ておられるようですが、ヨータ様たちも出るんですよ?」

「……は?」

「当然ではないですか。もう少し勇者の仲間だという自覚をお持ちになってください」


 一気に重くなってしまった。

 正直魔王と勇者についてはどうでもよくて、ルナを探すのがメインのつもりだったが……まあ、この世界の一大事を軽く扱ってはいけないか。

 というか四月一日ってあと十日もねえじゃねえか。


「具体的には何を?」

「ここから王都の南西の門まで移動するのですが、その間専用の馬車の上に立っていただいて民衆の声に応えていただければ大丈夫です」


 パレードといえば、遊園地でのパフォーマンス付きのものが思い浮かんだので尋ねたが、特にそんなこともないらしい。


「それで話を戻しますが、ロッピーニは一度失敗した手段はとりませんから、もう平時に襲ってくるような真似はしないでしょう。ただ、居場所が掴めない以上誘き寄せる必要がありますので、やはりパレードが妥当かと思っております」

「でも、襲撃なんてあったら騒ぎどころじゃないわよ?」


 ロティアの指摘ももっともで、防御チートがあるから攻撃されても無事なのだろうが、それでも攻撃されたという事実はパニックを起こす要因としては十分すぎる。

 剣とか矢なら逆にその防御力のアピールになるかもしれないが、魔法とかだと人々は巻き込まれるのを恐れて逃げ惑うだろう。


「その通りです。ですので、行動を起こす前に確保するために……なんでしょうか?」


 急に言葉を切ったかと思うとそう尋ねたので視線を追うと、何かの書類を持ったシスターがいた。


「すみません、お食事中失礼いたします」


 そういえば食事中だった。完全に手が止まってたよ。

 カルーカとハルカは黙々と食べてる……というかこいつら話ちゃんと聞いてたのか?

 大食い二名は置いといて、シスターから耳打ちされたニルルさんは目を見開いていた。


「それは本当なのですか? ……そうですか、ありがとうございます」


 シスターが一礼して食堂を出ていくとニルルさんが緊迫した表情で話を再開する。


「相手の戦力を掴むため、各奴隷店を回って履歴を確認してもらったのですが、半数以上で白黒の人物の情報がありました」

「それって、カルーカの時と同じ……?」

「はい、やはりオーナーに詳細の記憶はなく、名前も『ハル』『ナツ』『アキ』『フユ』など全て異なる名前で戦闘用奴隷を買っています」


 なんで春夏秋冬だよ適当か、などとツッコんでいる場合ではない。


「この近辺に奴隷店っていくつあったっけ……?」

「十や二十では済まないですね。調査に応じなかったものや教会ですら存在を知らないものもありますので」


 その半数以上となると、まだまだロッピーニは刺客を抱え込んでいることになる。


「カルーカ、ちょっといいか?」

「あんえふは?」

「……食べるか喋るかどっちかにしてくれ」

「……」

「食べるのやめろっつってんだよ」


 迷いなく食事続けようとしたぞこいつ。ベタな漫才をやらせるんじゃねえよ。

 伸ばした手を悲しそうに引っ込めた後、料理から視線を離す気がなさそうなのでそのまま尋ねることにする。


「ロッピーニのところにいた時、お前の他に誰がいたか覚えてるか?」

「ぼくが見かけたのは一緒に来たあの人だけ、ですね。名前も教えてもらってない、ですが、潜入が得意らしくここに入るのは楽、でした」


 ああ、だからシスターの格好してたのかもな。人為(ひとなり)さんとニルルさんにはバレてたみたいだけど。


「あとは姿も声も知らない、です。他にもいる気配はして、ましたけど、詳しくは分からない、です」

「そっか、ありがとな。……ほら、食べていいぞ」


 許可を出すとカルーカは満面の笑みで幸せそうに食事を再開した。

 奴隷として育てられたせいか、許可はちゃんと待つし他の人の分を奪ったりはしないんだよな。


「だそうだ」

「パレードの時に行動を起こす前に確保したかったのですが……こうなると恐らく不可能でしょう」

「混乱対策はどうするつもりかしら?」

「あくまで演出であるように見せることができないか検討してみます」

「そう」


 ロティアは深く追及する気はないのか、簡単に返すのみで再び料理を口にする。


「しかし、剣などの直接攻撃ならともかく、弓矢や魔法はどこから来るか判明していないと演出にするには難しいのではないでしょうか?」

「そもそも一緒にいる私たちが攻撃される可能性もあることを忘れないでほしいわね」

「あなたたちなら大丈夫だと信じておりますので」

「ふ~ん……そういうことにしといてあげるわ」


 と思いきや、人為さんが疑問を出した途端、こっちまで巻き添えで凍ってしまいそうなほど冷たい目を向ける。

 ホントなんでこんなに嫌ってるんだか。


「遠距離攻撃の問題ですが、ヨシカズ様に協力をお願いしたいと思っております。……教会として突き放しておいて大変恐縮ではあるのですが」


 ニルルさん曰く、正式メンバーではない善一(よしかず)たちは人為さんや俺たちと違って表に出る必要がない。

 それを逆手にとり、パレードの間、遠くから弓矢や魔法を準備している人を無力化するために、善一には心の色を見るユニークスキル【十心十色(カラフルハート)】で敵意を持っている人間を見つけてほしいそうだ。


「いいけど、遠いと小さくて見えないし、敵意を持たずに攻撃する人もいると分からないよ?」

「いえ、現状手掛かりが全くないので、少しでも見つけていただけるだけで助かります。場所を教えていただければ戦闘部隊を派遣するように手配しておきますので」


 戦闘部隊あるんだ教会。


「それなら私たちも協力しましょう!」

「了解です、マスター」


 更にルオさんが立ち上がる。

 家事アンドロイドたるリオーゼさんには落とし物の捜索機能が備わっており、作動させると普通の人間よりも視力がよくなる。

 それを利用し遠くで武器を向けている人を発見してくれる……らしい。


 そのままパレードについての話に変わり、気が付けば昼食の時間になってしまって全員が困惑するのは別の話。




「では行きますよ」


 人為さんが地面に聖剣を刺すと光の円が拡がっていき、その弧が俺たちを通り過ぎる。


「ぐっ、きっつ……!」


 パレードまでの数日間、人為さんの[聖域(サンクチュアリ)]内でも不自由なく動けるように特訓してみることになったのだが、これがとんでもなくきつい。

 受けたことはないが、【重力魔法】で重力を強くされたらこうなるんじゃないかってくらい体が重い。

 息ができなくなるほどじゃないが、まともな戦闘などできそうにない。

 因みにニルルさんとルオさんたちはパレードの時の動き方について打ち合わせをしている。


「まあ、最初は誰でもそんなもんだ」

「私たちも最初は碌に動けなかったからな」


 そう言うフェツニさんとサリーさんだが、昨日見せてもらった動きよりは遅いもののちゃんと動けている。


「集中も乱されるから、魔法も練習するといい」


 ネージェさんも平然と立っていて魔石を光らせた杖を動かしている。

 試しに【空間魔法】を使ってみると、


《あれ? なんか変な感じが……》


 普段表情豊かなキュエレが一瞬無表情になっていたので、恐らく魔法の負担はキュエレに行くのだろう。

 良かった、魔法については問題ないな。


《……ひどい扱いされた気がする》


 ジト目で何かを訴えてくる幽霊を無視して体を動かしてみるが、正直立っているのもやっとでまともに歩けすらしない。

 小夜やヴラーデたちも悪戦苦闘しているようだったが、少し経つとカルーカが歩き始めた。


「……凄えな」

「まさか一時間もかからないとは……」


 フェツニさんたちが驚愕の表情で歩みを進めるカルーカを見て呟くと、猫耳がピクピクと動いて顔が少し赤くなるのが見えた。


「万全ではない状態で戦う訓練も、しましたから」


 獣人としてのセンスというよりは経験則によるものらしいが、一体どんな訓練をしてきたのだろうか。


「そっか、すごいのか……」


 小さく呟いたカルーカが俺の前にやってきて頭を差し出してきたので、かろうじて動く手で優しく撫でる。


「えへへ……」


 撫でられて嬉しそうにする姿は普通の可愛い猫耳少女のもの。一人称が『ぼく』の戦闘用奴隷だけど。




「かなり時間も経ちましたし、そろそろ休憩に――」


 人為さんの言葉にようやく終わると安堵しかけた時、


「すみません、サヤ様」


 声がしたかと思うと、いつの間にかリオーゼさんが小夜の横に立っている。


「銃のメンテナンスが終わりましたのでどうぞ」


 うまく声が出せないっぽい小夜の両手に一丁ずつ持たせると、


「それでは失礼致します」


 丁寧に一礼して去っていった。

 そしてそれを呆然と見ているだけの俺たち。


「……とりあえず、解除しますね」


 最初に我に戻った人為さんによって光の円が消えると、体が軽くなると同時に緊張が解けたのか体の力が抜けて座り込む。

 カルーカに負けじと動こうとはしていたのだが、結局俺たちは歩くことすらできていなかった。


「あ~疲れた~……」

「リオーゼさん、普通に、動けて、ましたね」

「僕も信じたくはないですね」


 人為さんにとっても意外な出来事だったらしいので、魔法の対象外にしていたというわけではなさそうだ。


「生きているものにしか効かないとか?」

「いえ、一度死んでいるアンデッド系の魔物にも効果は発揮しますので、恐らく生きても死んでもいないからこその現象でしょう」


 物扱いするようでちょっと嫌ではあるが、かといって他に理由も思い浮かばない。

 ニルルさんとルオさんの見解も人為さんと同じものだった。これは意外な弱点だな。


 そしてそんな特訓を繰り返しているうちに、あっという間にパレードの日がやってきた。

次回予告


小夜  「ところで、陽太さん」

陽太  「どした?」

小夜  「人前に、出るの、緊張するんですが」

陽太  「……あっ。やべえ、オンステージじゃん、超目立つじゃん」

ヴラーデ「ちょっと、どうするのよ。意識したせいで気になってきちゃったじゃないの」

陽太  「そんなん俺が知るかよ」

三人  「「「あ~どうしよう……」」」

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