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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第6章 いよいよ勇者と共に出発の時です。
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96. 実力を披露しましょう。(後)

 いつの間に来ていたのか、獣人を捕らえて浮かんでいる十字架の周りには数人のシスターがいた。持ち物からして記録係と分かる人もいるし、他も何か手伝ったりするのだろう。


「それでは始めましょう」


 ニルルさんの合図で、シスターの一人が【水魔法】を獣人に浴びせる。


「んっ……あっ? ……これは!?」


 目が覚めた獣人は首を動かして現状を把握したのか、必死に手足を十字架から外そうとするが埋まったまま微動だにしない。


「抵抗は無駄ですよ。スキルや魔法すら封印するその十字架は罪人を決して放しません」

「因みにサヤちゃんへのドッキリで使った十字架はあれを模したものよ。なんにも効果はないけど」

「……それ今言うことか?」


 適当に作ったものだと思ってたし、今更どうでもいいだろそれ。


「ぼくは何も話すつもりはない、ですよ」

「それはどうでしょうか。あなたのお名前は?」

「カルーカ。……なっ!? 口が、勝手に……?」


 見事なフラグ回収と言いたいところだが、あの驚き方からして素直に話したというわけでもなさそうだ。


「何をした、ですか……!」

「この十字架は罪人に全てを曝け出させるだけのことです」


 あれに捕まれば虚偽どころか黙秘も許されないのか、何とも恐ろしい。

 後で聞いた話だが、相手に抵抗されると最初に捕まえることができなかったり、同時に二つは出現させられないなどの制約もあるらしい。


「あれの魔導具も作ってみたいんですけど、なかなか許可が下りなくて研究すらできないんですよねぇ」


 ……それも今言うことか?

 これも後で聞いた話だが、【聖魔法】は決められた修行をこなして聖女になった者にしか使えないらしい。そりゃ教会が研究の許可出すわけないわ。


「自白させられるくらいなら――」

「ああ、毒なら抜いておきましたよ」

「なっ……!」

「自決用ではなく仮死状態にするものでしたね。それでこの場をしのぐつもりだったのでしょう」


 カルーカという獣人は悔しそうにニルルさんを睨むのみだったが、少しして口を開いた。


「……もう一人はどう、しましたか」

「聖なる炎にて弔わせていただきました」

「そう、ですか」

「何か?」

「いや、どうせ雇われただけの赤の他人、です」


 嘘が吐けない状態にあるので本心なのだろう。強がりにも聞こえず、むしろどこか安心しているようだった。


「……生きたいですか?」

「生きたい……あっ!」


 勝手に零れる本音に、再び悔しそうな表情を浮かべる。


「あなた、奴隷ですね? 気絶してる間に首輪を確認させていただきました」

「確かにぼくは奴隷、です」


 俺たちが話してる間にそんなことしてたのか。


「事と次第によってはあなたを罪には問わず、ある程度生活を保障したうえで奴隷から解放いたしますが、如何なさいますか?」


 自分はこの後殺されるとでも思っていたのか、カルーカの目が見開かれた。


「……答えが出ない、ということは悩んでいらっしゃいますね。あなたの主はどなたでしょうか?」

「ロッピーニ」

「え? それって……」


 カルーカの口から告げられた名前に反応したのはハルカ。


「知ってるのか?」

「あたしを拾った貴族よ。……生きてたのね、あいつ」

「何だっけそれ?」

「さあ?」

「昨日話したじゃない!」


 そうだっけ。なんか三ヶ月以上前な気がしてならない。


「ホントなんであたしだけメタな扱いされるんだろ……それはともかく、人為(ひとため)様がやっつけたはずでしょ?」

「それなのですが……あの時捕らえたのは影武者で、本人は逃走していたようなのです」

「はぁっ!? 何それ聞いてないわよ!!」

「ハルカ、僕が止めたんです。あの男が生き延びていると知ったらハルカが怖がってしまうから、と」

「人為様……」


 人為さんの言葉に顔を赤くするハルカを見て少しちょろいと思ってしまった。


「しかし、不正や違法の証拠は押さえている以上、表立った動きはできないはずですが……」

「そうですね。そのあたりも含めて詳しく聞いていきましょう」




 その後も尋問は続き、カルーカという獣人の少女の人生が見えてきた。

 彼女は生後間もなく両親に売られていて、獣人ということで戦闘用の奴隷として育てられたそうだ。


「待って、奴隷って育てるもんなの?」

「将来優秀な人材に育てば高く売れるもの。だから出資を惜しまないオーナーは多いわ。売買だけしているうちは二流だなんて言われるほどよ」


 そういうものか。というか詳しいなロティア。

 それは置いといて、カルーカが売られ始めたのは七歳。特定の誰かに長期間従うことはなく、護衛として短期間だけ雇われて再び売られる日々を送る。

 ある時は商人、ある時は貴族、またある時は王族、と各地を転々としては様々な人に買われては売られたらしい。


「よくこんな幼い子に護衛を任せられるな」

「一部じゃ有名だけど、逆に獲物を油断させる餌のようなものとされることが多いらしいわ」

「……なんで知ってんの?」

「さあ、なんでかしらね? まあ私もこの娘だっていうのは今の話を聞いて気付いたんだけど」


 そんなカルーカは今十三歳。数日前にそのロッピーニとかいう貴族に買われて勇者を殺すよう命令されたんだとか。

 この世界では犯罪で奴隷になった人とは違い、カルーカのような身売りで奴隷になった人に対して契約外の命令をしてはいけないという法がある。

 しかしカルーカは戦闘用の奴隷のため、今回のケースは合法。そのため、カルーカは渋々勇者の命を狙いに来た、ということらしい。


「あれ? でもその貴族ってもう貴族じゃないんでしょ? よく買えたわね」


 疑問を素直に口に出したのはヴラーデ。

 確かに一度勇者と教会によって不正を暴かれているんだ、位は剥奪されてそうだし、そんな奴を相手に奴隷を売るものなのか?


 ニルルさんがカルーカに尋ねたところ、知ってる限りでは買いに来たのは別の人とのことだが、直接見てないのでカルーカは全く知らず、この状況で協力するような者に心当たりがある人もこの場にはいなかったため、完全に正体不明である。

 とは言っても、その時のオーナーは分かっているので教会の方で後で調べておくらしい。

 最後にロッピーニの居場所を尋ね、ニルルさんがまとめに入る。


「それでは尋問は以上です。今回の勇者殺人未遂に関しては奴隷の主の罪とし、奴隷については教会で押収後、信頼のおけるオーナーに売り渡す形となります」


 どうして奴隷のままなのかと聞けば、今回は奴隷の扱いに違法行為がなかったため解放することはできないと返された。


「可能な限りご希望に添うように致しますが、何かございますか?」


 十字架から解放されたカルーカは、俺たちを一人一人見た後、俺をじっと見つめ始めた。


「え? 俺?」


 カルーカが無言で頷き、恥ずかしそうに言う。


「……頭を撫でて、ください」

「はい?」


 待て、今は奴隷の話だろ?


「お願い、します」

「……いいけど」


 上目遣いに訴えられては断るのも気が引けるので承諾。

 ……べ、別に最近獣人の頭を撫でる機会がなくて飢えてるわけじゃな、ないんだからね!

 目を閉じて差し出されたカルーカの頭に手を触れ、優しく撫で始める。

 実際に猫を撫でる時にも気を付けないといけないことはあるらしいが、そんなもん知らないし相手は獣人なので普通に頭を撫でているだけなのだが……


「ん、これは……ふあぁ……」


 カルーカが気持ち良さそうに声を漏らす。最初は緊張していたのかピンと立っていた尻尾も今ではゆっくりと揺れるようになった。

 撫でている俺も心が和んできたのを実感する。


「ヴラーデさん、私、嫌な予感が、します」

「……奇遇ねサヤ、私もよ」


 あそこの二人は何を話しているのだろうか。

 いつまでも続けるわけにもいかないので、心惜しくも手を離すと、


「あ……」


 カルーカが残念そうな表情を浮かべる。


「それで、如何なさいますか?」

「主はこの人がいい、です」


 撫でている間もちゃんと待ってくれていたニルルさんが尋ねると、カルーカは俺を指して言った。

 頭撫でただけで決めちゃっていいのか?


「「ああ、やっぱり……」」


 ところで同時に女子二名が項垂れたのはどうしてだろう。


「一年くらい前、トーフェ王国のラーサムに行った時のこと、です。たまたま教会の近くを通った時、楽しそうな声が聞こえたのでこっそり見に行ったら、あなたが獣人の子供たちを撫でているのが見え、ました」

「……マジで?」

「はい。ぼくだって、もしこんな生活に身を置いていなければ、なんて考えることも、あります。だから正直あの子供たちが羨ましかった、ですね」


 そんな偶然もあるものなのか、と思っていたが、


「それに、その後ぼくが売られた店に一度来て、いましたよね?」

「え?」


 まだ偶然は続いていたようだ。


「……陽太さん、行ったこと、あったんですか?」

「興味本位で一回だけな。……いたの?」

「はい。覚えてない、ですか……?」


 カルーカには悪いが、流石に一年も経てばどんな人がいたのかなど覚えてない。


「すまん」

「いえ、一年経って、ますので。……それで、ぼくのご主人になって、くれませんか?」

「うっ……」


 カルーカが望むならそうしてあげたいが、やはり『奴隷』という言葉が一歩踏みとどまらせ――


「頭を撫でたい時はいつでも言って、ください」

「よし買おう」

「ヨータ!?」

「陽太さん!?」


 やっぱり癒し枠って必要だと思うんですよ、はい。


 料金は魔王封印の旅の報酬から差し引くことになり、いつの間にかニルルさんが呼んでいたオーナーによって俺とカルーカが主従契約を結んだ。

 諸々の説明も受けたが正直覚えきれん。衣食住を保障し嫌がることをしなければ良さそうではあったのでまあ大丈夫だろ。

 なお、冒険者を考慮してなのか『住』は定住という意味ではなく、例えばやむなく主と一緒に野宿する分には良いが、主が宿に泊まっているのに無理矢理奴隷を外に放っておくのはダメ、などということらしい。

 その後はいつの間にか戻ってきていたネージェさんも含めて自己紹介だが、流石にもう一度実演するのは面倒なので簡単に説明だけ行い、俺は【繋がる魂(ソウルリンク)】の契約も行っておいた。


「それじゃよろしくな、カルーカ」

「はい、ご主人!」




 その夜。


「……お前めっちゃ食うな」

「ほー、えふは?」


 夕食をカルーカは余裕で五人前以上食べてたが、太ってもない十三歳の少女の体のどこに吸い込まれていくんだ。

 幸い、旅の間の食費を出してくれる教会からは問題ないと言われているが、終わった後どうしよう……

 もしかして、今まで買われてすぐ売られたのこれが原因じゃないだろうな?


「こんな娘にまで負けるなんて……」


 そしてロティアはカルーカのなくはない胸を見て勝手に落ち込んでた。

次回予告


陽太  「そういえばなんで一人称『ぼく』なんだ?」

カルーカ「昔からなのでうろ覚え、ですが、女なのに男っぽくすれば多少なりとも相手が反応し油断する場合がある、って言われた記憶が……」

陽太  「おおう、意外とちゃんとした理由」

カルーカ「……なんだと思ってた、ですか?」

陽太  「キャラ付け」

カルーカ「……」

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