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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第6章 いよいよ勇者と共に出発の時です。
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94. 実力を披露しましょう。(前)

「あー、始める前に一つ良いか?」

「なんでしょうか?」


 互いの実力を確認するために教会の裏庭にやってきたが、フェツニさんが言いたいことがあるようだ。

 人為(ひとなり)さんが続きを促すと、フェツニさんは俺たちの方を向いた。


「お前ら、丁寧な言葉遣いとかやめてくんね?」

「え?」

「ほら、これから長い旅を共にするわけじゃん? なのにそういう感じでいられるとなんかこう……あれなんだよ」


 語彙力とは。


「つっても、ヒトナリ、ニルルちゃん、ルオちゃん、リオーゼちゃん……後はかろうじてサヤちゃんもだな。そこら辺は素の喋り方っぽいからいいんだが、残りは違えだろ?」


 いや確かにそうなんだが、今日会ったばかりの年上の人にタメ口はちょっと……


「うむ、私も同感だな」

「私も。それに、同じ口調が多すぎるとどれが誰か分からない」

「声で判別がつくかと言われれば、会ったばかりの者では難しいしな」


 サリーさんとネージェさんも同意のようだ。


「ついでに私とリオーゼに対してもお願いします」

「となると、僕たちも立候補した方が良いのでしょうか?」

「え? (わたくし)もですか?」


 そして何故かルオさん、人為さん、ニルルさんが割り込んできた。


「っつーわけで、一つよろしく頼むぜ」

「ぜ、善処します……」

「早速かよ」

「あっ」

「まあいきなり変えろって言われて変わるもんじゃないかもしれんが、ちょっとは気にしてくれや」

「わ、分かりま……分かっ、た」

「おう」


 あ~違和感半端ない! 助けてくれ!

 あと一度間違えたあたりからロティアがニヤニヤ見つめてくるわ小夜が可愛いものを見る目を向けてくるわで恥ずかしくて死にそうなんだけど!


「で、実力見せ合うって誰からやるんだ?」

「あ、自棄になった」

「話も、逸らしましたね」


 うっさいほっとけ。あと逸れてたのこっちの話だろ。


「では、ヨータ様たちからにしましょうか」


 その後に誰も続かなかったので、最初にニルルさんが言った通り俺たちからになった。




 俺は剣を取り出し、属性を変えつつ振ったり斬撃を飛ばしたりする。

 途中からは【空間魔法】で作った足場を渡り、最後に【繋がる魂(ソウルリンク)】でヴラーデの近くに転移して一度驚かせてから説明した。

 当然契約も忘れないのだが……


「ダメです」

「へ?」

「聖女としましては、万が一を想定するとヒトナリ様との契約を認めるわけにはいきません。可能な限り私がお側におりますので、それでご容赦願います」


 ニルルさんにそう言われてしまったので人為さんとは契約をしなかった。

 ところで、地味に契約者ほぼ全員ここにいるんですがもしもの時はどこに逃げればいいんですかね。


 続いて小夜が披露するのは精密射撃。木のキューブを投げるように言われたんだが、そんなもの持ってたのか。

 俺が二十センチ四方もないであろうそれを投げると両手に持った銃を連射、一発たりとも外さない見事な射撃だ。

 四角だった木は少しずつ削られていき、小夜が射撃を終えると地に落ちた。

 これまた才能なのか、今の射撃で木彫りの何かを作っていたようだ。それを拾って見てみれば二頭身の人型をしていて……


「ちょっと待て、何で俺だ」


 色がついてないから分かりづらいが、髪型や服の形、持ってる剣から考えて俺をデフォルメしたものらしかった。

 俺の抗議は感嘆の声に飲まれたのか誰も何も返してくれなかった。


 これがきっかけだったのだろうか。

 ヴラーデは【炎魔法】を色々見せて最後に花火で俺の顔を出し、ロティアは【氷魔法】で出した氷塊を【水魔法】で削って俺の氷像を作った。

 ヨルトスも【土魔法】で土を俺の形にし、それを割ると中から同じ形の宝石が出てきた。

 ……あの、俺がテーマの芸術大会じゃないんですよ。


「う~ん、流石に俺は何も用意できねえな」


 いつ順番を決めたのかフェツニさんが前に出て言うが、別に俺を絡めなきゃいけないわけじゃないからな?

 だがまあ、ようやくこの変な流れも終わ――


「だから、ちょっと軽く相手してくれや」


 ……解せぬ。


 適当に距離を置くと、フェツニさんがどこからか弓矢を取り出してこちらに向ける。

 一瞬どこから取り出したんだとも思ったが、俺のポーチのような魔導具でも持っているのだろうか。

 しかしあの見た目で弓矢か、ちょっと意外だな。

 放たれる矢を避けつつ接近していくと、


「ま、こんくらいじゃ掠りもしねえか。じゃあいらねえな」


 そう言って弓矢をしまった。

 まさか接近を許したから諦めるとも思えないが……

 とりあえず寸止めするつもりで振り下ろした剣は、


「なっ!?」


 弓矢をしまった状態から取り出された剣に防がれた。

 ……そりゃそうか。単純なゲームじゃないんだ、個人で近距離も遠距離もいける人がいたっておかしくはない。

 そこからしばらく剣を打ち合うが、どうやら剣術に長けているわけではないらしく、余裕で対処できた。

 フェツニさんが一歩下がるとその剣を投げてきたので避け――


「危ねっ!」


 避けるために剣に意識を向けた一瞬で、槍を構えて突進してきていたので弾く。

 何種類武器持ってんだ!?


「まあこのくらいは当然か。ならこうだ!」

「何故脱ぐ!?」


 弾かれるのを考慮していたのか特に隙を見せることもなく、何故か上着を脱いだ。


「そりゃ、こうするためよ!」


 しまった……!

 ツッコミを入れたのが悪かったか、避けるにも剣を振り上げるにも【空間魔法】を使うにも時間が足りず、脱いだ上着に上半身を包まれる。

 しかも力を入れづらいように捕まっていて上手く抜け出せない。

 実戦なら抜け出そうとしているうちに殺されておしまい。俺ならユニークスキルで転移すれば抜け出せるがこの場で使うのも反則だろう。


「参りました……」


 つまり、こう言うしかなかった。

 詳しく聞くと、使えるものは何でも使う主義らしい。逆に何か一つに突出させる気はないんだとか。

 あと上着に【空間魔法】を付与した裏ポケットが大量に付いていて、そこに武器がしまわれているらしい。


「では、次は私だな。ヨータ殿、頼む」


 あ、もうこの流れ止まらないなこれ。

 サリーさんはさっきのフェツニさん同様俺と少し距離を置いて腰の剣に手をあてると……


「[雷槍(サンダーランス)]!」

「剣じゃねえのかよ!!」

「ん? ……あぁ、これは杖だぞ。分かりやすい武器を持っていないと甘く見られるからカモフラージュしているだけだ」


 ああはいそうですか。確かに柄の先端に何か付いてるなと思ってたけど魔石かよあれ。

 サリーさんが手に持つランスは、細長い円錐に柄がついたタイプで、その円錐部分は紫電を纏っている。

 俺、今からこれと戦うの? 凄い嫌なんだけど……


「では、行くぞ!」

「速っ……!」


 言うと同時にサリーさんが真っ直ぐ向かってくる、と思った頃にはフェツニさんとは比べるまでもない鋭い突きを繰り出してくる。

 なんとか避けたが、直後にそれこそゲームで攻撃ボタンを連打しているような連続突きが襲ってくる。

 流石に避けきれずに時々弾きながらギリギリで直撃を防いでいるが、剣が金属製じゃなくて良かった。もしそうだったら一回当たっただけで感電しそうだし。

 だが、避けたり弾いたりする度にランスが纏っていた紫電が飛び散って静電気のような地味な痛みを与えてくる。


「ふむ、そろそろいいだろう」


 その呟きが聞こえて嫌な予感がしたが、時既に遅し。


「[雷檻(サンダーケージ)]」

「んぐああぁぁぁっ!」


 実は俺に気付かれないように紫電を周りに撒いていたらしく、それが互いに直線状に電気を流した。

 それに巻き込まれた俺は当然タダでは済まない。全身が焼かれるような痛みが襲い、電気の檻が消えると同時に倒れる。


「……すっすまない! やりすぎてしまっただろうか!?」


 申し訳なさそうにサリーさんが言ってくれたが、体が痺れて声も出せないので何も返せない。

 というか呼吸も少ししづらくて苦しいし、だんだん耳も遠くなってきたのか何を喋っているか分からなくなってしまった。

 ……あ、なんかもうダメ……


「はっ!?」

「ヨータ! 大丈夫!?」

「陽太さん、良かった……」


 意識が急に覚醒する。ニルルさんが回復魔法をかけてくれたらしい。流石聖女。

 ついでに自身の【聖魔法】の説明もしてくれた。今みたいな回復魔法や、能力を上げる補助魔法などが使えるらしい。


「あれ、攻撃系とか防御系は?」

「代わりに教会直伝の護身術を嗜んでおります。組手、やってみますか?」

「全力でお断りします」

「そうですか」


 どうして回復してもらったばかりなのに自分から怪我しかねないことしなきゃいけないんだ。

 というかデジャヴを感じる。前にこんなやり取りしたっけ?


「で、サリーさんは何故土下座?」

「本当に申し訳なかった! 私にできることがあれば言ってくれ!」

「え? ……えぇ?」


 何としてでも詫びを入れようとするサリーさんを時間をかけて説得することになってしまったのは別の話。




「じゃあ、次は私」


 ……最早俺が相手するのが暗黙の了解になってしまった。

 ネージェさんも最初は距離を置き、杖の魔石を光らせる。緑色にしては【風魔法】よりかなり白に近いが、何の魔法だろうか。

 その杖はネージェさんが振ることで不規則な軌道を描く。時には縦に、時には横に、時には斜めに。

 何をしているのかさっぱりだ。まさか踊ってるわけでもあるまいし。


「終わった」


 不意に小さく呟く。何をしていたか全く不明だが、終わったと言うなら待っている理由もないので歩き……出せなかった。


「何だこれ、動けない……」


 正確には動こうとしても強く押さえられてしまう。

 一見何もないので、久々に目だけに魔力を流して視覚を強化する。


「これは……糸?」

「そう。任意の二点を結ぶ糸を張れる」


 そう、俺の周りには大量の糸が張られていた。

 あの謎の踊りは正に糸を張っていたのだろう。

 しかし任意の二点か。周りに糸を張れるような障害物がないことから、恐らく何もないところから糸が出ているのだろう。

 こうなってしまえば剣も振れないし【空間魔法】での除去もできないので一見詰みだが……


「やるのは久々だな、っと」


 剣の形を変えることで糸を切断していく。二点を結べなくなった糸は消えるみたいなので、見える糸を全て切っていくが……


「もう遅い」

「あれ?」


 周りの糸を全て切ったつもりだが、俺の体に自由は戻らなかった。

 ネージェさんが杖を上にゆっくり動かすと、俺の体が対応するように宙に浮いた。


「いっ、何だこれ!?」


 浮かせようとする力を感じてようやく気付いた。俺の体の各部分に糸が巻かれている。

 それぞれの部分の力のかかり方が少しずれていたため、肘だけ上がってたり足が変に曲がったりと変なポーズをとらされている。

 一応剣の形を変えて俺の周りを一周するが、解放されることはなかった。


「無駄。点をあなたの体に限りなく近付けてあるから切断はほぼ不可能」


 そうすると後は燃やすくらいしか思いつかないが、自分ごと燃やしたくはないし、この糸が本当に燃えるかどうかも分からない。

 ネージェさんは俺を宙吊りにしたまま解説を始めた。……この操り人形みたいなポーズ地味に負担がかかるんですが。

 解説内容をまとめると、糸を出した点を動かすことができて、それを利用して体に巻き付ける。

 ただ、そこまで速く動かせるわけではないので、直線の糸を張り巡らせて動きを封じてから巻くんだそうだ。

 この糸もかなり頑丈だが、このまま俺を輪切りにできるほどではないらしい。


 その話を終えたネージェさんが杖を一振りすると、糸が消えて俺が地面に落ちる。


「ぶっ!」

「転移で抜ければ良かったじゃない」

「あっ」


 今まで使わない流れだったから忘れてた。


「それにしても【糸魔法】なんて、珍しい魔法を使うのね」

「……珍しいから何?」


 ロティアの言葉に反応したネージェさんがロティアを睨む。

 予想外の反応に珍しくロティアが慌てる。


「え? いやいや、単純に珍しいって思っただけよ!? ねぇ!?」

「こっちに振るな。でもまあ確かに他で使ってる人は見たことないな」


 おっと、こっちにも強烈な視線が。

 ……なんか反応が過剰な気がするな。


「ってか珍しいとかどうでもいいだろうが。どんな魔法使おうがその人の自由だろ?」

「え?」


 ロティアに話しているのだが、驚いたのはネージェさんの方だった。


「それに、結構侮れないぞ? 魔力も全然感じなかったし、油断すればあっという間に捕まっちまう」


 あと地味に【無詠唱】もあった気がする。


「……バカにしないの?」

「ん? バカにする要素ねえよ?」


 元の世界でも糸を使いこなすキャラは強いイメージがあるし、実写映画だと有名なヒーローだっている。

 どこをどう見てもバカにしようがない。


「……そう」


 後ろを振り向いて小さく呟き、不機嫌そうなフェツニさんの元へゆっくり歩き出す……ってなんであの人不機嫌そうなの。


「死ね」

「なんで!?」


 そして擦れ違いざまに何故か杖の魔石を鳩尾に叩き込み、フェツニさんがうずくまった。

 犯人はそのままこちらを振り向くことなく立ち去っていった。


「ネージェはな、昔いじめられていたんだ」


 サリーさん、いつの間に横に……


「いつも私とフェツニで庇ってはいたんだが、やはり前例の少ない魔法だと見下す者が少なくなくてな」


 だから見下す要素などないと思うんだが。

 因みに三人は俺たちが教師をしていたあの学校の同級生らしい。


「ある一件で活躍してからはそういう者も減ったのだが、完全に敏感になってしまったようなのだ」

「なるほど、知らなかったとはいえ迂闊だったわね。後で謝っておくわ」

「すまないな」


 ロティアも自分の非を認め、この場が丸く収まったところで、


「じゃあ次はあたしの番ね!」


 少し暗くなった雰囲気を吹き飛ばす明るい声が響いた。

次回予告


ハルカ 「よーやくこの天才魔法少女ハルカちゃんの出番ね!」

陽太  「だといいな」

ハルカ 「へ? この流れだと次はあたしと陽太が戦うんでしょ?」

ロティア「だといいわね」

ハルカ 「まさか何かあるの!? ちょっと、二人ともこっち見なさいよ~!!」

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