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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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9. 討伐演習の裏の模様をお送りします。

 陽太が冒険者ランクの昇格条件である討伐演習に赴いた四月一日。『月の魔女』ことルナはシサール王国の王都にある教会本部にいた。

 これから行われるのは勇者の召喚。ルナの役割はいくつかある。


 まず召喚に必要な魔力を召喚魔法を使う者に提供すること。本来この召喚には熟練の魔法使い何十人分もの魔力が必要だが、ルナはそれを一人で補える。少しでも効率をよくするため、ルナの手には自分専用の最上級の杖。普段杖を使用しなくても問題ないほどの魔法しか行使しないルナだが、召喚の際にはこの杖を使用している。陽太を召喚した際に持っていたのもこれだ。ただその時は自作の魔法陣であるからか、勇者召喚とは比にならない魔力量が必要で、杖を使用してもルナの魔力を絞りきってしまったが。

 ルナは勇者召喚の魔法陣くらいそろそろ見せてもらいたいと思っているが、教会は見せる気がない。何度か強行手段をとったが魔法陣にも強力な妨害が仕掛けられていて流石のルナといえど不可能だった。


 次に、勇者への説明と訓練。勇者にも陽太にしたものとほぼ同じ説明をする。そしてユニークスキルの確認の後、戦闘訓練を行う。ユニークスキルは様々なため、それに合わせた戦闘法を組み立てる。また近くで魔物の討伐やダンジョンへの挑戦を行うことも多い。

 そして勇者が強くなったら魔王封印の旅にお供をする。仲間は勇者によって騎士や冒険者を募ったり、最初は勇者とルナだけで出発し旅の途中で出会ったりと様々だ。

 魔王を封印したらシサール王国に戻り解散。ルナが依頼されている送還魔法が完成していないためその後の勇者の生活は三つの王国が保障する。


 この流れを約五十年周期で行っていてルナは今回で七回目。もう慣れているであろうルナだが、その機嫌は悪かった。

 その様子を見た周りの者はどうしたのだろうと心配しているが、ルナ本人としてはある理由で今回だけは召喚を行ってほしくないだけだ。しかしそんなことは本人しか知らず、その理由も他人には説明するわけにはいかないもので、他に教会を納得させられる理由も作れないので仕方なく協力する。

 実際に試してはいないが陽太には魔王を封印する聖剣が使えないということも同じような理由でわかっている。

 因みにその陽太のことはもちろん、『月の魔女』に弟子ができたということもこの近辺では知られていない。主な活動場所のラーサムから遠いというのもあるが、ルナが情報が出回らないように裏で動いているのもある。


 勇者召喚の準備が終わったとのことで、ある広間に入る。その何もないように見える広間に二十にも満たないであろう女性が一人で立っている。その人物――これから召喚魔法を使う聖女の近くに寄り魔力を送る準備をする。魔法陣がそこにあるのだろうが、妨害の一種なのか全く見えず、ただの床にしか見えない。

 やがて聖女が召喚魔法を発動し始めたのでルナも魔力を流し始める。この魔法も教会が秘匿しているもので、聖女として特定の儀式を行った者しか使用できないらしい。一方でルナが作った魔法陣は魔力を流すだけで発動できる。


 聖女の前の床が丸の形に白く光り、そこから光の柱が昇る。このときの魔力の残滓が大陸に広まり魔物の活性化を促す。その残滓はかなり薄く、レベル5の【察知】を持つルナでようやくわかるといったところ。この残滓がなぜ発生するのかは確定していないが、陽太の時に発生していた様子はないので【光魔法】や【自動翻訳】の付与などある程度は絞れている。ただ、魔法陣を見たことがない以上その付与効果が本当にあるかは不明だが、ルナはほぼ確実にあるだろうと思っている。


 ふと、ルナが違和感を感じる。ここから発生した魔力の残滓の動きが過去と比べておかしい。引き続き魔力を流しながら【察知】による魔力感知にも意識を割く。


(……このタイミングで!?)


 原因を探り当てたルナが内心で驚く。南、それもおそらくここゼトロヴ大陸ではなくエサルグ大陸。そこから似たような魔力の残滓が流れてくるのを感じたのだ。つまり、魔王もしくは魔族が異世界召喚を行った。


(とすると、やっぱり……いえ、今はそれどころじゃないわ、このままだと各地で魔物がいつも以上に発生しちゃう、特に討伐演習に参加してる陽太が危ない……!)


 頭の中の仮説を一度おいてこの後に発生するであろう問題の解決のために頭を働かせる。

 もしこのタイミングで陽太が死んだり、ラーサムが壊滅したり、なんてことになれば、全てが狂ってしまう。

 しかし、勇者の面倒を見なきゃいけない自分がここから離れるのは教会が認めないだろう。魔力の残滓は操作できないからどうにもならない。ここから魔法を撃っても人間までその被害を食らう。流石のルナでも分身なんてできない。


(あーもう、どうすりゃいいのよ!)


 ルナは勇者たちに『チート魔女』と呼ばれているが決して万能ではない。この何もできない状況にイライラが溜まる。

 詳細を知らなかったが故に、自身が思う正しい運命であったことも忘れて。


 そのうち光の柱が消えていき、現れたのは一人の男性。いきなりのことに驚いているのか周りを見渡している。


「なんだ、ここ……?」


 明るい茶髪で少し目つきの悪い二十くらいのその男が声を出す。それは間違いなく日本語だったが、過去の勇者同様【自動翻訳】によりこの世界の者とはお互いに言葉が通じるだろう。

 やがて男はルナと聖女を見つけると訝しげな視線になる。男の反応が魔女服と修道服を着た人を見た一般的な日本人として正しい反応だとわかっているのかいないのか、全く気にせず聖女が話を切り出す。


「はじめまして、異世界の勇者様。突然の事でお驚きでしょうがまずはこちらの説明のためにご一緒していただけないでしょうか?」

「異世界? 勇者?」

「お願いいたします」


 男は理解しきれていないみたいだが、それも毎回のことだ。いつもはそのまま了承してくれるのだが、ルナは陽太に最初に魔法を見せたことを思い出したのでそれを実行しようと決める。内心の負の感情を悟られないようやり過ぎに気を付けようと考えながら。

 そしてルナの手から火の球が浮かび上がる。陽太に見せたものよりも遥かに大きい。


「いいからついてきなさい」


 男はもちろん聖女も唖然としていた。すぐに聖女が我を取り戻して言う。


「ちょ、ちょっと! ルナ様! 何をされているのですか!」

「いいじゃないこのくらい。それで? 来るの? 来ないの?」


 男が青い顔で頷くのを確認し火の球を消す。やり過ぎた気もするが反省するつもりは全くない。


 そして聖女、ルナ、男の順で歩き出す。男は歩きながらも何かを考えていたが、やがて顔に笑みが浮かび、二人に悟られないためかすぐに消える。


 しかし、ルナはそれを見逃していなかった。




 ―――――




 勇者召喚が行われる少し前。エサルグ大陸の魔王城のある一室に十人くらいの魔族がいた。


「それで、ホントに大丈夫なんだろーなー?」

「ええ、抜かりはありませんよ。……というか、なんで貴女がここにいるのですか……」

「別にアタシがいたっていーじゃんかよー」


 話しているのは雑な短い赤髪の若い女魔族と、痩せていて白衣を着ている老齢の男魔族。


「それで、何をしてるんだっけ?」

「……貴女にはお話ししたはずですが……」

「忘れた」


 男魔族がため息を漏らし、何回目になるかわからない説明を始める。

 過去幾度となく勇者に敗れていて、今回も来るだろう勇者への対抗策としてこちらでも異世界人を一人召喚すること。

 密偵から以前の勇者一行にいた女魔法使いが送還魔法の研究をしているとの情報を得ていたのでドラゴンを囮に研究所である洞窟に忍び込ませたこと。

 調査には苦戦したらしいが送還魔法の研究なら召喚魔法も研究しているという予想が当たっていたので丁寧に複製して持ち帰ってきたこと。

 それに【自動翻訳】の付与、男魔族が研究の末に見つけた【闇魔法】の付与など、改造を施したこと。

 その改造が先日終わり、魔力量に優れる者を集めこれから召喚を行い、戦力として育てること。


 説明を受けた女魔族が何かを思い出す。


「あ、でもそれ魔王様はダメって言ってなかったっけ」

「何故そういうことは覚えているのですか……」


 そう、一度この男魔族は魔王に異世界人の召喚を提案している。そのときの魔王の表情は今思い出すだけでも恐ろしい。

 どうして禁止されたのかはとても聞ける様子ではなかった。魔族をこの大陸に追いやった勇者や教会と同じことなんてしたくない、などいくつか予想は立てているのだが。


「だから一人だけ召喚してその有用性を証明し、いずれは異世界人の部隊を作るのです」

「ふーん」

「さて、始めますよ」


 その声で魔族たちが魔力を流す準備をする。話していた女魔族は協力する気はなさそうだ。

 最初に白衣の男魔族が魔力を流し、他の魔族も魔力を流し始めると、魔法陣が黒く光り、光の柱が昇る。

 何の影響か、勇者の召喚魔法陣のものに似た魔力の残滓が流れ出すが、それを感じ取れる者はこの場にはおらず、それが魔物の大量発生や活性化に繋がることを知る者もいない。


 やがて勇者の召喚と同じように黒い光が消えていき、一人の男が現れる。

 学生服を着ていてこげ茶色の髪をした彼は、陽太なら『同い年くらいの優しそうで爽やかなイケメン』と評したことだろう。

 その彼もやはり何が起こったのかわからなさそうに周りを見渡している。

 白衣の男魔族はそんな彼に話しかけようと、男に近寄るが――


 ――急に体に寒気を覚える。体が震えて仕方ない。

 思い通りに動かない体でなんとか後ろを振り向けば、一人の男魔族がいた。その外見はまだ若く、純人なら二十代といったところか。しかし魔族で唯一の黒髪黒目は他ならぬ魔王の証。その体からは膨大な魔力が込められた殺気があふれている。


「……それは禁止したはずだが」

「……!!」


 強まる殺気に言葉が出ない。さらにその殺気はその魔族にしか向けられておらず、協力していた者は魔王の出現に驚くのみで、召喚された男もただきょとんとしている。さっきまで話していたはずの女魔族はいつの間にかいない。

 なぜ秘密裏に行ったはずの召喚がばれたのか。あの女が告げ口でもしたのか。いくつもの予想を立てるも全て見当違いで、魔王は召喚による魔力の残滓が勇者召喚のもの以外にもあることを感知し、その発生源まで来ただけである。


「こいつを拘束し牢に繋いでおけ」

「はっ!」


 魔王が周りの魔族に言うと、すぐにそれに応え全員で白衣の男魔族を拘束する。協力こそしていたが部下ではない彼らの仕事は早かった。魔王の殺気が向けられ続けて白衣の男魔族が動けなかったというのもあるが。


 そうして全員がこの部屋を去ると、残るのは魔王と召喚された男。魔王が少しだけ優しい表情を混ぜて言う。


「失礼した、異世界からの来訪者よ。勝手に呼んだのに申し訳ないが帰らせることもできない故、私がしばらく面倒を見よう」

「え? ……は、はい」


 そして彼はこの世界の説明と【闇魔法】も交えてのこの世界で生き延びるための訓練を受け、魔王の命でゼトロヴ大陸へ送られることになる。






 偶然か必然か、全く同じタイミングで召喚された二人。

 その召喚が正しい結果なのかどうか、それを知る者はいない。

次回予告


ルナ  「せっかく勇者を召喚したけどしばらく出番はないわよ」

勇者たち「!?」

ルナ  「名前も出してもらえないなんて可哀想ね~。次回は陽太視点に戻るわよ」

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