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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第5章 異世界に学園ものは付き物でしょうか?
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88. 試験を見守りましょう。(EX)

 ジョットたち三人と、勇者人為(ひとなり)さんが対峙する。


『え~、準備が整ったようですねぇ。今回はハンデとしてぇ、ヒトナリ様は五分間風船への攻撃と魔法が禁止だそうなのでぇ、もしかしたら三人にも勝てるチャンスはあるかもぉ?』


 バカにされてるような気もするが、相手が勇者なのだからそれも仕方ない。

 何せ魔王の封印を任されるんだ、その実力は計り知れない。三人の連係もかなり良くなったが、勝てる見込みは俺も薄いんじゃないかと思う。

 人為さんのユニークスキル【的確な反撃(アキュレートカウンター)】が今回の風船を割るというルールでは役に立たなさそうなのが救いか。

 確か自分へのダメージを相手に跳ね返す能力だったはずだし、服や装備ならまだしも流石に風船まで守れはしないだろう。


「ん……あれ? 私……」


 もうすぐ始まるといったところでロティアが目を覚ました。


「って何これ、動けない! この縛り方はヨルトスね! よくも裏切――」


 スパァン!


「にゃっ!?」


 やっぱり目は覚めてなかったようで、再びハリセンの音が部屋を震わせる。


「いった~……ちょっとヨルトス、何す……あ、はい、ごめんなさい調子に乗ってましただからそれを振りかぶるのやめてください」


 文句を言おうとしたのかヨルトスの方を向いた瞬間、無言の圧にやられて謝り出す。


「で、ディナちゃんたちは? きゃっ」


 縛られたままヨルトスに持ち上げられ、そのまま見える位置まで運ばれたので説明する必要はないだろう。


「えっと、誰?」


 ……説明する必要あった。そういえばこれが初めてか。


「あれが今回の勇者、人為さんだ」

「優しそうな人よね」

「そう? 私には胡散臭い笑顔にしか見えないんだけど」


 どうやらヴラーデとロティアで第一印象は逆になったようだった。


「ロティア、捻くれるのも良い加減にしなさいよ?」

「……」

「ロティア?」

「……そうね、ヤサシソウヨネ」

「嫌そうに言わないの」


 軽く受け流しているヴラーデは気付かなかったようだが、ロティアは一瞬鋭い視線を人為さんに向けていた。

 縛られてなかったら結構格好良い図になったと思う。縛られてなかったら。




 さて、試合はとっくに始まっているが、ジョットと狂戦士モードのディナが息の合った連係で人為さんに迫っている。

 ディナが上手く相手に隙を生じさせ、ジョットがそこをつくスタイルだが、人為さんはそれを分かって逆に二人をコントロールしてる印象だな。

 ロイも適度に魔法を撃っていて、一見味方に当たりそうなものも二人が避けて相手に当たるように調整されている。

 更に幻影も混ぜて見た目の量が倍になっているので、相手からすれば二人の攻撃を避けつつ本物の魔法を見分けないといけないのだが……流石勇者、もう順応したようで偽物を一切気にしていないようだ。


 並の相手なら一分ともたない程の連係だと思うが、人為さんはちゃんと一つずつ避けたり防いだりして確実に時間を稼いでいる。

 普通あのユニークスキルならそれに頼って訓練などを疎かにしそうなものだが、あの人は全然そんなことはなかったようだ。


 だが三人もそれでは諦めない。ディナが杖の魔石を光らせ、攻撃の動きを大きくしていく。

 魔法の対象を人為さんに絞っているので効果が少し上がるはずだ。効果も意識を引き付ける程度だから抵抗されにくい。

 そのおかげか、人為さんの視線もちゃんとディナを追っている。

 そしてその間に他の二人は……


『あれぇ? お二人がいつの間にかいなくなっていますねぇ? どちらに行かれたのでしょうかぁ?』


 いなくなったのではなく、ロイの魔法[幻影(ファントム)]で姿を消したのだ。……やっぱりこの距離だと俺も見失ってしまうな。

 ただでさえ捕捉が難しいこの魔法にディナの【精神魔法】が加われば消えた二人を見つけるのは至難の業だ。

 ディナも二人を見失うという欠点はあるが、今の二人ならディナに攻撃を当てることはない。

 十数年を共に生き十分に信頼が深まったうえで練習を重ねた三人だからこそ可能な連係だと思う。

 今も、ディナの攻撃を捌く人為さんに二人が透明人間のように忍び寄り、風船を割ろうとしているのだろう。


 そう、思った瞬間。

 ディナの攻撃を受けていたはずの人為さんが、急に剣を何もないところへ突き出した。

 そこに現れたのは剣を弾かれて驚いているジョットの姿。

 【精神魔法】が効いていなかったからか、それともロイの魔法が見破られたかは定かではないが、ディナもその光景に驚いて攻撃の手を止めてしまう。

 その一瞬で人為さんはもう一度剣を別のところに突き出すと、今度は魔法を発動させようとしていた杖を弾き飛ばされたロイが現れた。

 ロイがわざわざ近距離に居たのは、撃った魔法が気付かれないように、というよりは[幻影(ファントム)]に効果範囲があるせいでジョットから離れられないからだったりするが、そのせいで人為さんの剣が届いてしまったようだ。


『どういうことでしょうかぁ? 勇者様が急に虚空を突いたかと思ったら姿が見えなかった二人が出てきましたぁ! ……そしてぇ、そろそろ五分が経ってしまいますがぁ、なんと勇者様は無傷ですぅ! 優勝者三人も見事なチームプレイを見せてくれましたがぁ、流石勇者様ですねぇ!』


 司会のその言葉に時計を確認すれば確かに五分経つところだった。

 試合に目を戻すと、人為さんが剣を掲げたところで、三人が攻撃か魔法を警戒して飛び下がっていた。

 人為さんの剣は光り輝き、地面に刺されるとそこを中心に光の円を広げていく。

 三人どころか周りの壁も通り抜けるのを見ると、円はこのまま俺たちの下も通過していきそ――


「っ!?」


 急に体が重くなり、倒れそうになるのを踏ん張って耐える。

 その現象は俺だけではないようで、小夜は膝を着き、ヴラーデも立っているのがやっとそうだ。

 距離が離れている俺たちがこうだ、直ぐ近くの三人にはどれほどの影響があったのだろうか。

 しかし距離は関係なかったのか、ロイが膝を着いたくらいで他二人はなんとか立っている。


『え~皆さん落ち着いてくださいぃ、事前に聖女様から資料を頂いておりましてぇ、これは勇者様の光魔法の[聖域(サンクチュアリ)]というぅ、範囲内の自分以外全員に負荷をかける魔法だそうですぅ。わたしも結構つらいんですよぉ?』


 魔法の効果はともかく、観客を巻き込む必要は果たしてあったのか。

 そしてこの魔法を受けた三人がまともに動けるわけもなく、目で追いづらいほど無駄に速い剣捌きにより呆気なく風船は割られていくのであった。




「もう何あれ!? 卑怯でしょあんなの!」


 何故かロティアが怒り狂っているが、何をするか分からないために縄を解かずにいるので跳ねることしかできない。


「いい加減落ち着け」

「落ち着いていられるかっての! 絶対自分の力を見せびらかそうとしたに違いないわ!」

「人為さんも、制御が、まだ甘いって、言ってたじゃないですか」

「ぜーったい嘘ね!」


 先程まで試合に使われていた舞台で、今は人為さんが大会の感想を述べている。

 その中で、さっきの試合で使った魔法についてそのように言っていた。


「逆にそれほどのことをしないと勝てない存在なのでしょうね、魔王というのは」

「どの道僕らじゃ勝てなかったのは間違いないね」

「よく分かんねえが、剣の腕だけでもオレよりかなり強いのは分かったぜ」


 直接戦った三人もこう言っている。不満そうなのはロティアだけだ。


「そもそも何でそんな荒れてるのよ」

「なんかあいつ見てるとイライラする」

「……はぁ?」

「こう、何かの本能が危険を知らせるというか?」

「いや勇者だから。むしろ救世主だから」


 ロティアにしては珍しく根拠のない理由にヴラーデが呆れる。


「ヨルトス、どうにかならないか?」


 俺が尋ねると、ロティアと一度目を合わせてから、


「……無理だな」


 諦めの一言を出した。


「……いつもの奇行だと思って諦めてくれ」

「奇行って言うな!」


 ……ロティアがツッコミに回るのも珍しいな。

 とりあえず一番付き合いが長い二人が匙を投げるなら手はない。


「じゃあ落ち着くまで縛ったまま放置で」

「仕方ない、ですね」

「そうね」

「え、ちょっとそれは待って」


 気が付けば人為さんは魔王封印の旅について話し始めていた。


『なるほどぉ。しかし冒険者からはまだ募っていないとのことですがぁ、何かお考えがあるのでしょうかぁ?』

『はい。既に指名しようと思っている方がいます』

『そうだったんですかぁ。差し支えなければぁ、どなたか教えてもらえないでしょうかぁ?』

『今日はそれもあってここまで来たんです。別の依頼でこの学校に来ていると聞いたもので』

『おぉ、ということはつまりぃ?』


 途中までロティアを宥めようとして聞いてなかったが、その会話だけで分かってしまった。


『陽太君、小夜さん、他に仲間がいると聞いていますのでその方たちもですね。彼らを指名させていただきます』


 それでも驚きは隠せず、部屋のほぼ全員で同じ大声を出す。


『後で寮に案内の方が参りますので、話を聞いていただければと思います』

『あれぇ? でも別の依頼があるって言ってましたけどぉ、そちらはいいんですかぁ?』

『はい、既に校長先生に話は通してあります。元々この大会までが最低期間だったみたいなので、その依頼は達成にしてこちらに協力していただけるように整えてもらいました』


 公の場での発表だけでなく、俺たちが安心して承諾できるように準備も万端と来た。

 正直魔王とか面倒そうだから行きたくはなかったのだが、これはもう逃げられない気がする。


「なあ、この旅に招待されるのって、普通の人からしたらどうなんだっけ?」


 せめて悪いイメージの一つや二つがあればそれを理由に断れないだろうかと尋ねてみるが……


「何を言ってるんですか、最高の栄誉ですよ!」

「く~っ、羨ましいぜ!」

「もう先生の授業を受けられなくなってしまいますが、仕方ないですね」


 三人は興奮して答えてくれた。やっぱりそうだよな。


「私はよく分からないけど、あの人は何回も参加したんでしょ? なら参加はしたいわね」


 ヴラーデのルナに対する憧れの設定もまだ残っているようだった。


「一般的には誰もが羨む立場よ。私はあいつ嫌いだから行きたくないけど、ここで断るメリットは一切ないし、むしろ断れば後が色々面倒ね。行きたくないけど」


 ロティアも個人的な感情は別として参加することに否はないようだ。


「私は、陽太さんに、ついていきますよ?」

「はいはい、ありがとな」


 小夜もいつも通り、俺に判断を委ねてくれる。


 この旅、面倒だし危険ではあるが利点もある。

 ルナについて調べる時についでに確認したが、勇者の旅は一直線に魔王を目指すのではなく色々な地を巡ることが多い。

 今回もそうであれば、それだけルナを直接探せる機会が多くなる。それで見つかるとは思えないが、可能性があるならちゃんと探しておきたい。

 ……仕方ないな。


「参加するしかない、か」


 結局は俺も参加の意思を示すことになるのであった。

次回予告


陽太「案内って誰が来るんだ? ……まあニルルさんしか知らないけど」

小夜「でも、さっき、人為さんと、一緒に、出ていくのが、目撃されて、ますね」

陽太「あれ、じゃあ誰だ? まさか章のラストなのに新キャラでも出すのか?」

小夜「陽太さん、出にくくなるので、そういうことは、言わない方が……」

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