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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第5章 異世界に学園ものは付き物でしょうか?
84/165

84. ぶっちゃけ魔女の正体について勘付いている人ってどのくらいいるのでしょうか。

 さて、今日は小夜がいないが、やることは変わらない。いつも通り図書館に行くだけだ。


「あら、今日はお一人ですか?」

「はい、用事があるみたいで」


 受付の司書長に挨拶……毎回いるなこの人、いつ休んでるんだ。


「それで、今回はどのような本を?」

「じゃあ、今日は先代勇者についてと……」


 要望を伝え、司書長が持ってきた正志(まさし)さんの冒険譚二冊と、過去にルナが行ったと思われる場所に関する本を二冊預かる。片方は大きな町、もう片方は今はなくなったらしい村についてだ。

 そして適当な読書スペースに向かう。……そういえば、ロティアとヨルトスも何か調べてると言っていたが一度もここで会ってないんだよな。どこで本読んでんだろ。


 開くのは正志さんと一緒に旅をしたという女性の魔法使いが書いた本。今は引退して故郷で老後を過ごしてるらしい。

 始まりは冒険者をしていた自分が指名依頼で勇者の旅への同行を頼まれるところから。その時の期待感などが綴られていたが、勇者という本題から外れるからかとても簡潔だった。


 その魔法使いは勇者と出会い、一度実力の確認をする。後衛なので使える魔法とその威力を見せるだけだが、魔法使いにとって憧れの『月の魔女』の目の前であることも合わさり緊張していたため、失敗とまではいかないが上手くはいかなかったようだ。

 唯一のパーティメンバーである女剣士は勇者と模擬戦。結果としては良い勝負をしていたが、【剣術】の一芸特化である彼女に対し、勇者には【光魔法】とユニークスキルがある。総合的な実力差は明らかだった。


 そのユニークスキルもその時に見せてもらったが、驚き以外の感情を持てなかったという。

 目の前の勇者がその女剣士に姿を変え、長年一緒に過ごしてきた自分でさえ見分けがつかなかったのだ。

 逆に自分に姿を変えた時も、女剣士はやはり見分けがつかないようで戸惑っていた。

 見慣れているのか周りは誰も驚いていなかったが、『月の魔女』だけは懐かしそうな目を向けていた気がする、と書いてあったがどういうことだろうか。


 しばらくギルドの依頼やダンジョンへの挑戦をして修行を重ね、勇者召喚から丁度一年のその日についに旅立った。

 ここからは、ある時は盗賊を退治し、ある時は町を魔物の大群から守り、またある時は逆にピンチになるというベタな勇者の冒険譚だった。

 しかしその途中、ある町でふとしたきっかけで奴隷を違法に魔物と戦わせる賭博の現場を見てしまう。

 次の犠牲者は十代半ばの少女……かと思いきや変身した正志さんで、魔物を全て倒して主催者である貴族を押さえつけた。

 結局関与していたものは全員が罰され、奴隷も解放することを約束にギルドや教会に保護された。


 この時、一人だけ勇者パーティについて行った人が一人。それは正志さんが姿を借りた少女だった。それが後の妻だというのだから驚きだ。

 とはいえ、戦うために色々とされていたようで、最初は正志さんから離れようとはしないものの人形のように無感情だったという。


 そこからの冒険譚には彼女の心を開こうとする正志さんたちの様子も書かれている。

 しばらく苦戦していたようだが、正志さんが重傷を負った時に小さくその名を呟いたことがきっかけで、徐々にその感情を取り戻すことができたようだ。

 魔王の封印を果たす頃には奴隷の頃の面影はなく、シサールの王都に戻ったと同時に婚姻を発表した。


 そこで冒険者である著者とは別れたのか冒険譚は終わり、少しの後書きで締められていた。若干結婚願望が見えていたが、果たして結婚はできたのか。

 というか正志さんもちゃんと勇者やってたのな。今の印象とは大違いだ。

 肝心のルナだが、基本的に一歩引いたポジションにいて、戦闘にも滅多に手を貸さなかったらしい。

 著者は『その強大な力を敢えて使わないことで自分たちを成長させるため』と都合の良い解釈をしていたが……

 まあ、勇者パーティを鍛えたり、死人が出ないようにしたりはしていたらしいので同行の意味は最低限あるように感じた。


 正志さんに関するもう一冊の方は魔王を封印した後のもので、ほとんどルナは登場していなかった。

 どうでもいいが、いつの間にか正志さんは尻に敷かれるようになっていたとかなんとか。その人元奴隷だよな確か?




 お昼はヴラーデお手製のお弁当。図書館内は別に飲食禁止ではないが、本などを汚せば当然罰が与えられる。

 俺は【空間魔法】で本を守っているので安心して食べられる。いつも通り大変美味でございました。


 次の本は過去にルナが訪れた大きな町について。歴史やら特産品、観光名所など幅広く記されている。

 当然っちゃ当然だがルナに関することは少ない。せいぜいが勇者と一緒に訪れたとか、魔物の大群が向かってきていたのを一人で殲滅したとかそのくらいだった。


 その本は適当に読み終えて最後の本を読み始める。

 数百年前に滅ぼされた村についてのもので、そこに住んでいた男性が老衰で亡くなる直前に遺したもの。

 その人は村が滅ぶ時に丁度別の町まで出ていて運良く生き残ったそうだ。

 なんでもその村は珍しくもどの国からも遠い位置にあり、定期的に村では手に入らない食料などを買うために遠出していたとか。


 内容としてはやはり村の紹介。こういうところだったと全て過去形になっていて、やや主観的なものになっている。

 この本もルナに関する記述は少なく、次の本はどうしようかなどと考えていると、まだそれなりのページ数を残してその紹介が終わってしまった。


「え、終わり? じゃあ残りは?」


 つい声に出ていたことになど気付かず、次のページをめくる。


『ここからは、私がこの本を書く理由となった、一人の女性について綴ろうと思う。

 興味などないかもしれないが、少しでも多くの目に触れることを願う。』


 時間は……まだあるか。次の本も決めてないし、折角だから読んでおくか。




 出会いは唐突だった。村の周りの森で一人で狩りを行っている時、気が付いたらそこにいたとしか言いようがない。

 周りに隠れるところはあったかもしれないが、いくらなんでも音も気配もなしに現れた『彼女』に驚きを隠せない。

 しかし『彼女』の方も、訳が分からなさそうにしていて、髪飾りの着いた長い白髪を揺らして自分の体や周りを確認していた。

 その赤い目が『私』のと合うと、よく見えなかったが手に持っていたものと腰に巻いていたものをしまって『私』に問い掛ける。


『あの……ここは、どこですか?』


 後の『彼女』を知っている者なら、この時の不安そうな様子は信じられたものではないと思う。

 この時、まだ少し呆けていた『私』が村の名前と近くの森であることを告げたが、『彼女』はその村の名前をオウム返しに呟くのみ。

 どうやら、少なくとも村や定期的に訪ねる町の者ではないらしい。

 他にもどうしてここにいるのかも教えてくれず、果てにはシサール暦百八十年であることすら知らない『彼女』に、当然『私』は猜疑心を抱く。


『そんな……、……さん……』


 一通りの質問を終え、絶望にその表情を染める。

 その後小さく呟いた言葉は聞き取れなかったが、その時の悲痛な表情は『私』の毒気を簡単に抜いてしまった。


 それからしばらく『彼女』はその村で暮らすことになる。

 出会った頃とは性格も変わっていって、後に有名になる『彼女』になったのはここだと断言できる。

 しかし明るい表情を見せることはあるものの、誰にも本当に心を開いた様子はないように思えた。何故あの場所に現れたのかを含め、一切の情報を教えてくれなかったからだ。


 そして『彼女』の異常性は数年経ってようやく気付いた。

 その数年で『彼女』の容姿が全く変わらなかったのだ。成人して十年は経っていないであろう純人の女性が数年で全く年をとった様子を見せないなんてあり得ない。

 これには『彼女』も戸惑っていたが、自分なりに予想は立てたようですぐに受け入れていた。村人たちもこの頃には『彼女』を完全に受け入れていて、迫害されるようなことがなかったのは幸いだった。


 この数年、『彼女』自身何かに迷っていたようでこの村に住んでいたが、ある日転機が訪れる。

 数十年前に勇者として魔王の封印を果たした女性が、世界を旅している途中にこの村を立ち寄った。

 その勇者はどういうわけか、村人全員に謎の石板に魔力を流すよう頼んでいた。

 何か事情があるんだろう、と言われるがままに一人ずつ魔力を流す。『私』もそうしたが特に何も起こらなかった。

 それは他の村人でも同じで諦めの雰囲気に包まれた頃、最後に『彼女』が魔力を流すと、その石板に何かが浮かび上がった。

 勇者は喜び、村人たちもそれに乗る。その中で『彼女』がじっくりと石板を見ていたのをよく覚えている。


 勇者の目的は不明だったが、石板を反応させた『彼女』を連れていくようなことはなくあっさりと村を去った。

 また、石板に浮かび上がったものは勇者と『彼女』だけの秘密にしたようで、誰にも教えることはなかった。

 そして勇者が村を去った数日後、『彼女』は何かの決意を固めたようでこの村を去るという発言をした。

 『私』はもちろん、村人たちも反対したが、『彼女』のその決意は揺るがなかった。

 しかし別れが惜しい……いや、正直一人の男として『彼女』を愛するようになっていた『私』が強引に約束を取り付けようとする。


『俺は君が好きだ。だが返事はくれなくていい。いつか、この村に帰ってきた時に返事をしてくれ』


 突然の告白に『彼女』は驚きを隠せない様子だったが、やがてこう返してくれた。


『心に決めた人がいるから……』


 玉砕だった。取り付けるはずの約束もなかったことになりそうだったが、


『でも、その人とは遠く離れちゃったし、万が一気が変わったら戻ってくるわ。それを待つのであればどうぞご自由に』


 その言葉で一筋の光が差した気がした『私』は、何があってもこの村を離れまいと決めた。


 ……のはいいのだが、流石に村のために町に出なければいけないのは変わらない。

 数年後、同じように町に出た時に、冒険者として活躍しているという女性の噂を聞いた。

 最初は誰のことだろうと思っていたのだが、外見の特徴からそれが『彼女』だと分かるのに時間はかからなかった。

 どうやら『彼女』は別の名前で冒険者になっていたようだ。

 ただ、村にいた頃は村から一歩も外に出ずに村人の手伝いをしていただけだったので正直意外だった。


 更に時が経ち、未だに熱が冷めない『私』だったが、『彼女』が勇者と共に魔王封印の旅に出たと聞いた。

 他の村人には流石に諦めた方が良いと言われたが、それでも私は待ち続けた。


 今度は『彼女』が無事に勇者と共に帰還したことを聞いた。

 それを自分のことのように喜び、村人たちにも報告してやろうと村に戻った時……



 村がなくなっていた。



 いや、村自体はちゃんと残っている。しかし魔物のものと思われる爪などの痕がはっきりと残っている。それも、痕が残っていない場所を見つける方が困難なほどに。

 そして、一体の死体を見つけ、無事な者はいないかと村を走り回るが、逆に死体を発見するばかり。

 村を一周すれば、『私』以外の全員の村人が見つかった。物一つ言わぬ死体として。


 当然冷静になどなれなかった『私』はその場から逃げ出した。気が付けばそれなりの距離があったはずの町まで戻っていたほどだ。

 すぐにその町のギルドに話したところ、丁度その場にいた冒険者も連れて村の様子を見に行くことになった。

 夢であってほしい、そう考えていた『私』は現実を突きつけられる形になった。


 冒険者やギルドの人の話では、家を一つ残さず襲うだけではなく、その中の隅々まで荒らされていて、まるで皆殺しが目的であったかのようだ、とのことで、魔物がこんなに綺麗に全てを攻撃するのは考えづらいとも言っていた。

 とはいえ、魔物を使役できる例は滅多にない。魔物使いもいないことはないが、その管理は徹底的にされていて、しばらく経って全員無実であることが判明した。


 しかし『私』にとって、いるかも分からない犯人などどうでもよかった。この時の『私』の頭には『彼女』との約束を果たせなくなってしまったことしか頭になかったからだ。

 当然『私』は町に住むことになり、村に行こうとしても危険だと止められる。何度も抜け出そうとしたが成功することはなかった。


 結局村に行けたことがないうちに年をとり碌に体も動かせなくなった。

 そんな『私』が最期にできることがこうして本を書くことだった。『彼女』の目に触れることを願って。


 だから、ここまで読んでくれたあなたに『彼女』への伝言をお願いしたい。

 年をとらない『彼女』なら、きっとどこかで元気にやっていることだろうし、いつか会った時に伝えてくれればいい。


 約束を守れなくてすまなかった。でも、私は最期まで想い続けていた。『月の魔女』ルナ、いや――




 ―――――




「はあ……まさかこんなところにも残っていたなんて……。ま、安心しなさい。あんたの想いは確かに伝わったわよ。受け取らないけどね。気が変わることなんてあるわけないし」




 ―――――




「……んあ?」


 いかん、どうやらまた寝てしまったようだ。時計を見ても丁度いいし、本を返して戻ろう。




「あれ?」


 しかし、本を受け取った司書長が首を傾げる。


「どうしました?」

「いえ……貸した本って三冊でしたっけ?」

「え?」


 正志さんに関するものが二冊と、過去にルナが訪れた大きな町についての本。


「この三冊ですけど……」

「そうですよね。でも、何か足りない気もするんですよ。何かしら……?」


 考え込んでしまうのはいいんだが、せめて話を終わらせてからにしてほしい。


「あの、帰っても?」

「え? ……ああ、すみません、大丈夫ですよ」


 一応キュエレにも聞いたが、特におかしなことはなかったとのことだ。

 後日、念の為に尋ねたが本の数などに支障はなかったらしく、気のせいだったということで片付けることになった。




 帰り道、何故かご機嫌な小夜とヴラーデを発見し、声を掛けようとする。


「おーい! 小夜……?」


 しかし、呼び慣れていたはずの名前に違和感が走る。

 なんだろう、何か忘れているような、そうでないような……んん?


「陽太さん、どうしました?」

「……小夜は、小夜だよな?」

「……はい?」


 目の前に来てくれた小夜に、自分でも訳が分からないまま尋ねる。


「えっと……私は、私、香月(こうづき)小夜、ですよ?」

「……だよな」

「どうしたの? 変よ? 寝惚けてるの?」


 二人と会話したことで、違和感が霧散していく。何だったんだろうか。


「……そうかもな、また寝ちゃってたし」

「はあ……じゃあ夕食は目が覚めるようなものにしとくわね」

「おう。……いや夜なんだからやめてくれよ、寝れなくなるだろ」

「……じょ、冗談よ」

「目を逸らして、言っても、説得力、ないですね」

「うぐ……」


 最早さっきの違和感など忘れ、三人で仲良く帰るのであった。




 因みに、この翌日からジョットとロイが時々小夜とヴラーデに怯えるようになったんだが何かあったのか?

次回予告


陽太  「なあ、何があったんだ?」

ジョット「な、ななな、なにも、ななかったん、だぜ」

陽太  (動揺しすぎだろ……)

ロイ  「はい、何もありませんでした」

陽太  「まあいいか。もうすぐ大会だ、仕上げていくぞ」

ジョット「おう!」

ロイ  「はい!」

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