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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第5章 異世界に学園ものは付き物でしょうか?
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80. 実力を確認しましょう。

「それではまず筆記のテストからやります」


 翌日、教卓に立ったロティアはその言葉から始めた。


「え~……」

「え~、じゃない。昨日会ったばかりなんだし、あなたたちのことを知らないと何を教えればいいのかはっきりしないじゃない」

「そりゃそうだけどよ~……」


 文句を言うジョットをロティアがなだめる。

 行うテストを見せてもらったが、文系科目はこの世界における常識的なことや地理・歴史を問うものが多かった。

 理系科目は様々な計算問題で、時々魔法も絡めていた。ただ、やはり日本と比べるとレベルが低い印象を受ける。

 そんな試験をロイは無表情で、ディナは不安そうながらもスラスラと解いているようだが、ジョットが計算問題で苦戦しているようだった。




 採点の前に昼食。階級差を気にさせない学校とはいえ、爵位を持つ家とそうでない家のようにある程度は分けられている。

 そして王族たるこの三人は寂しく教室で食べているのみだった。


「……寂しくないか?」


 俺たちも一緒させてもらっているが、こう聞かずにはいられなかった。


「別に。今に始まったことじゃないし」

「……私たちがご一緒すると、相手に気を遣わせてしまいますから」


 ジョットがつまんなさそうに返し、ディナが続く。

 何とももどかしい気分だが、俺にできることはあるのだろうか……




「っしゃー! やるぜー!」


 そして採点をしてる間に実技として俺と模擬戦を行う。

 ジョットがさっきのテストの時と違ってかなりやる気だ。

 因みに適当な訓練場を借りていて、お互いに木刀を持った状態だ。正直怪我とかがなかったことになる結界とか期待してたんだが、そういう技術はないらしい。残念。

 ついでにヴラーデはさっきの昼食を作ったシェフの元へ。残りの三人で採点を行っている。


「じゃあ、どうぞ」

「おう。子供だと思ってナメてると痛い目見る……ぜ!」


 言い終わると同時、ジョットが真っ直ぐ走ってくる。スピードはそれなりかな。

 そのまま上から振り下ろされる木刀を片足を軸に後ろに回ることで回避。

 しかしそれを予想していたのか、振り下ろす途中で木刀を止めると薙いできたので受け止める。


「なっ!? ……まだまだぁ!」


 それは予想外だったのか一瞬驚きを見せた後、連続攻撃を仕掛けてきた。

 何か流派でもあるのだろうか、【剣術】スキルに任せて適当に振っているのではないように感じる。ちゃんと隙を狙おうとしてるし。

 しばらく受けに回っていたが、大体実力も把握できたし終わりにするか。


「もらった!」


 わざと大きな隙を見せるとまんまと引っ掛かって大振りしてきたので、それを躱して木刀をジョットの首に軽く当てる。


「はいおしまい」

「……チッ」

「まあ、その歳にしては強いと思うぞ? パワーもスピードもテクニックも中々だと思う」


 実際、教会で教えてる子たちよりは強い。


「ただ、馬鹿正直に攻撃しすぎだし、フェイントに面白いくらい引っ掛かるのは直した方がいいと思う」


 さっき受けに回ってる時、フェイントを交えて対処していたのだがその全てに反応し狙いを絞ってきていた。

 小さな隙も見逃さないのは凄いが、フェイントを見極める力が足りない。逆に一切フェイントをしてこないのでジョットの攻撃は対処しやすかった。

 そこら辺の盗賊とかが相手ならどうにかなるんだろうが、ちょっと強い人には全く勝てなくなるパターンだな。


「あ~くそっ! 剣で姉ちゃん以外に初めて負けた!」

「……姉ちゃん?」


 拗ねたのかそれ以降何も言わないジョットの代わりにディナが教えてくれたが、騎士志望の叔母とよく剣を振っていたらしい。

 呼び方が『姉ちゃん』なのは、その叔母がまだ二十前後でおばさん呼ばわりされたくないからで、一度それでフルボッコにされたとかなんとか。




「次は僕ですね」


 ロイが好戦的な表情で杖を取り出す。


「あなたに小細工は通用しないと思うので、僕の全力の一撃を見せようと思います」


 まあ剣士寄りの俺と魔法使いのロイではまともな模擬戦は難しいし、そもそも攻撃の魔法を見せてもらってなかったから丁度いいか。


「じゃあ【空間魔法】で壁を出すから、それに当ててくれ」

「【空間魔法】!? ……分かりました」


 俺が【空間魔法】を使えることに驚いていたようだが直ぐに切り替えた。


「魔法? オレに対しては全然本気じゃなかったってことか……?」


 そして他のところでショックを受ける約一名。今は関係ないのでディナに任せて放置。

 ロイが詠唱を始めると杖の先の魔石が赤く光る。ロイは【火魔法】も使えるのか。


 と、思っていたのだが。


「ん?」


 詠唱が長いと思いきや魔石が赤と青の両方の色を放つ。


「まさか、同時?」

「おう! ロイは凄いぞ! 純人では珍しくいくつもの種類の魔法を使えるんだ!」


 いつの間に復活したんだジョット君。そしてそのポジションは王族としてどうなんだジョット君。


「それにこれだけじゃねえ!」

「え?」


 ふざけたことを考えている間に魔石に緑の光が増えていた。


「三つ同時!?」

「これが僕の全力です! 合成魔法[三位一体(トリプルバースト)]!」


 三色の光線が絡み合いながら伸びて【空間魔法】の壁にぶつかる。

 その勢いは凄まじく、壁を炎で燃やし、水で()し潰し、風で切り裂くものかと思われた。


「?」


 ……のだが。

 見た目ほど威力はなく、ちょっと込める魔力を増やせば耐えれそうだ。

 ついでに【察知】スキルであの魔法を観察しておく。

 結局、ロイの魔法が消えても壁は残ったままだった。


「そんな……」


 恐らく魔力が切れる寸前なのだろう、ロイの体が倒れる。

 ディナが真っ先に駆け寄ってその体を持ち上げ、適当なベンチに寝かせる。


「つらそうだが、俺の話聞くか?」

「……お願い、します」


 若干朧気ではあるが視線はちゃんとこちらに向いているので大丈夫だろう。


「三つの魔法を同時に使うのは確かに凄いと思う」


 実際初めて見たし。イキュイさんとか使えるのかな。


「ただ、その三つの魔法が互いに食い合ってる感じがしたんだ」


 威力が弱いのはそれが理由だろう。三つの魔法を合わせるのに精一杯でバランスがとれてなかったように感じる。


「だから、同時に使うのはいいがその制御をできるように練習した方がいいだろうな」

「……なるほど。ありがとうございます」


 逆に制御ができるようになったら俺の【空間魔法】でも耐えれるかどうか怪しいレベルになりそうなのがちょっと怖いな。




「最後は私ですね」


 さて、ディナは何を見せてくれるのだろうか。


「ディナ、あれやっちまえ」

「あれですか? でも、危ないですよ?」


 少し悩んでそうなディナにジョットが声を掛ける。

 ……あれ、とはなんだろうか。


「大丈夫だって。見てたろ? あいつは相当強え。あの状態のディナでも多分勝てねえ」

「……そ、そうですか?」


 なんかちょっと嫌な予感がしてきたんだが。


「……分かりました」


 俺とジョットをしばらく見て悩んだ後、決意を固めたようで杖を構える。


「[狂戦士化(バーサーカー)]」


 杖の魔石が紫色に光るとディナが俯きその表情が一瞬見えなくなる。

 ……『バーサーカー』って聞こえたんだが。

 それが聞き間違いであることを願うが、顔を上げたディナの表情は、


「蹂躙、してあげますね?」


 目を見開き、口を歪ませて笑みを作っていた。

 ……アカン奴やこれ。少なくともお姫様がしていい顔とちゃうで。

 狂気に満ちた笑顔を見て、思わずエセ関西弁を心の中で呟く。


「行きますよっ!」


 杖を片手に突進してくるスピードはジョット以上で、そのまま杖で攻撃してきたので木刀で防ぐ。

 杖術っていうんだっけ。一発一発が重く、剣などとは違い衝撃をより多く与えようとしているのが分かる。

 そういえばさっきロイの体を軽々と持ち上げてたな。あまりに自然だったから気にならなかった。


「確かに、ジョットを軽くあしらうだけの実力はあるみたいですね。手を隠してる場合ではなさそうです」


 そろそろ終わらせようかと思ったんだが、ディナがそう呟いたので引き続き様子を見る。

 両手で杖を持ったかと思うと、その真ん中で杖が割れた。いや、中から何か……刃物!?

 右手にナイフ、左手に杖を持って再び連撃が始まる。ちょっとこれは余裕を見せてる場合じゃないな。

 丁寧に攻撃を防いだり躱したり、同時攻撃は上手く立ち回って片方ずつ捌く。

 ……っていうかその表情(かお)で振り回すのはお姫様としてどうなんですかね。殺人鬼にしか見えませんよ。


「二つで攻めても足りませんか。なら……」

「?」


 その言葉の後、聞き取れないほど小さい声で何かを呟くと、杖の魔石が紫色に光り、それを上に投げた。

 光は綺麗な軌道を描き、つい目を奪われ……しまった!

 気付いた時には既にディナは俺の目の前。


「ふっ!」


 もう剣では間に合わず、半ば反射的に蹴りを繰り出し、


「がっ!?」


 目の前の敵を横にふっ飛ばした。


「「ディナ!!」」


 ……あ。やば、つい本気で蹴っちゃった。ミシって手応えあったぞ。

 ジョットとある程度回復したロイに続いて俺も駆け寄る。


「す、すまん! 今ポーション出すから!」

「い、いえ、大丈夫です……あ、杖……」

「大丈夫、拾っておいた」

「あ、ありがとうございます」


 元に戻ったらしいディナがロイから杖を受け取って詠唱を始める。


「[最大治癒(マックスヒール)]」


 杖の魔石とディナの体が薄いピンクに光る。マックスってことはもしかしたらヴラーデの【回復魔法】よりもレベルが上かもしれない。

 光が収まるとディナが体を動かす。


「だ、大丈夫か……?」

「はい、ご心配をおかけしました」


 良かった……


「まさか【精神魔法】を使って戦闘するとは思わなかった。最初のは理性をある程度捨てて身体能力の向上ってとこか?」

「はい、概ね合ってます。どうしても好戦的になってしまうのがお恥ずかしい限りですが」

「いや、それでもちゃんと理性残ってるし十分だと思う」


 個人的に王女に似つかわしくない表情になるのはどうかと思うが。


「接近戦も少なくともジョットよりは強かった」

「うぐ……そうだよ、オレはディナにあまり勝てねえよ」


 あれ、さっき『姉ちゃん以外に初めて』って……いや、それは剣だけの話か。


「最後のは何だ? 一瞬あれから目を離せなくなったんだが」

「あれは[魅了(チャーム)]という魔法です。簡単なものなので意識を向けさせる程度の効果しかありませんが」

「なるほど」


 この世界では【精神魔法】を他人に使おうとする場合、効果を発揮するための条件が必要になるらしい。

 使用者のスキルレベルや使用魔力量、相手の耐性・精神状態にもよるが、基本的に難しい条件になる程強い効果を発揮する。

 例えば俺のピアスの『自分で身に着けること』、いつだったかロティアに飲まされたジュースの『飲んで一定時間内においしいと言うこと』などなど。

 さっきのは『光を見ること』という簡単な条件だったらしく、俺の意識を一瞬引くだけだった。

 ……まあ戦闘においてはその一瞬が命取りなので十分だと思うが。


「それでも普通の人なら数秒は見つめてしまうほどの魔力を込めたのですが……流石冒険者ということでしょうか」


 え、マジで。……聞かなかったことにしよう。


「まあ、来ると分かれば抵抗もできるだろうし、あの威力だと知ってる相手には通じないかもな」


 実際、俺も次は抵抗できると思う。


「……そうですか」

「でも、既に十分強いし戦闘スタイルも俺とは若干違うから何も教えることはないかもな」

「ありがとうございます」


 丁寧に礼をするディナ。


「ちょうど終わったみたいね」


 声がした方を向けばロティアたち。採点が終わったのだろう。


「というわけで、テストの結果を発表します。まずディナさん、どの科目も満点に近かったです。流石王女様」

「恐縮です」

「ロイ君は計算などの応用が得意ですが、知識が若干偏ってました。もっと色んなことに興味を持ちましょう」

「……そう言われても」

「ジョット君。もっと頑張りましょう」

「オレだけ雑っ!?」


 ……ジョットのポジションが変な方に向かってる気がする。


「あら、細かく言っちゃっていいの?」

「……え?」

「まず、知識はそこそこ。常識は知ってるって程度ね。計算はてんでダメ。覚えていても使えないのがよく分かったわ」

「な……」

「ヨータ、多分この子は直線的な戦いをしたんじゃないかしら?」

「ん? まあそうだが」


 よく分かったな。


「やっぱり。つまり、脳筋ってことね」

「……」


 ロティアの言葉攻めに言葉を失って体を震わせるジョット。哀れ。


「じょ、ジョット?」


 心配そうにディナが声を掛ける。


「……ひ」

「ひ?」

「貧乳のくせに~!!」

「なっ!?」


 涙を流して走り去るジョット。


「……」


 ……俺は怖くてロティアの方を向けないよ。


「ふふ、ふふふ……生意気な子にはお仕置きをしなくちゃねえ?」


 そう言ってロティアがゆっくりとジョットの後を追っていった。




 しばらくして、ジョットが物陰から姿を見せた。その表情は恐怖に染まっている。


「いやだ、やめろ、来るな、やめ――」


 何かを呟きながら逃げ出そうとしていたが、再び引きずり込まれる。

 何故か何も聞こえないのだが、そのせいで余計に怖い。


「せ、先生……ジョットは……」

「……あれはもうダメだ」

「そんな……」


 ロイの問いに答えるとディナの表情が絶望に染まる。


「……わ、私、助けに――」

「やめとけ」

「でもっ……!」

「あいつは、逆鱗に触れてしまったんだ。そう、自業自得。巻き込まれるようなことはしなくていいんだ」


 ぶっちゃけると関わりたくないだけ。

 その後も何度も飛び出そうとするディナを止めていると二人が帰ってきた。

 ジョットは今にも死にそうな表情でフラフラと、ロティアは達成感のある良い笑顔。何があったんだ。


「「ジョット!」」

「ディナ……ロイ……オレ、分かったんだ。世の中には、逆らっちゃいけない人が、いるって……」

「「ジョット!!」」


 それが彼の遺言だった。

 ……初日がこんな終わり方でいいのだろうか。

次回予告


ジョット「あの人の授業だけは絶対嫌だ……あの人の授業だけは絶対嫌だ……」

ディナ 「ジョット……さっきからあの調子です、大丈夫でしょうか……」

ロイ  「う~ん……でも、こういう時って大体――」

ジョット「やめろぉ! そんなことを言うな!」

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