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チート魔女に召喚されました。  作者: 熾悠
第1章 チート魔女に召喚されました。
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8. 討伐演習に来ました。(後)

 二回目の休憩。慣れてきたのかさっきより怪我は少ない。

 できるだけエラウとヴラーデを二人きりにするべくロティアとヨルトスと共に不自然にならないくらい距離を置くが、エラウは話したくても上手く言葉に出来なさそうで、ヴラーデもおしゃべりではない方だ。つまり会話が生まれない。会話がなければ進展するはずもない。


「いつもあんな感じなのか?」

「そうねー、色々仕掛けてみてもエラウが最後の一歩を踏み出してくれないのよね」


 小声で尋ねた俺の疑問にロティアが答えるが、色々ってなんだろう。


 後ろを見れば戦いの風景が広がっていて、どのグループも必死に頑張っている。その向こうにはまだまだやってくる魔物たち。さっきも思ったことを今度は口に出す。


「……いつ終わるんだこれ」

「確かに、いくらなんでも初討伐でこの量は多すぎると思うわ」


 ロティアの言葉にヨルトスも頷くが、その凛々しい顔にも疲労の顔が浮かんでいる。それは他三人や前で戦っている人たちもそうだし、俺だってそうだろう。一人数十体は倒してそうだが終わる気配がない。


「……ヨータ」


 話しかけてきたヨルトスの手が示す方を見ると監視員たちがいた。何人かで話し合いをしている。さっきのエルフもいるなと思っていたらその中から獣人の女性が猛スピードでラーサムの方へ走っていった。何かが起きているな。

 ロティアやヨルトスと頷き合うと、杖やポーションの確認をしているヴラーデと声を掛けられず気不味そうにしているエラウも呼び、五人で話し合いをしていた監視員の元に行き、代表としてロティアが尋ねる。


「すみません、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


 丁寧な問いに答えたのは例のエルフ。


「なんだい?」

「随分と魔物が多いように感じるのですが、このことについて何かご存知でしょうか?」

「……そのことか……丁度いいし一回全員集めて説明させてもらうよ」


 魔物の対応を他の監視員に任せ――流石というか、十人もいないのに完全に魔物を食い止めている――演習の参加者が集まると、説明を始めた。

 といっても単純で、五十年前の先代勇者召喚時もここで同じように討伐演習を行ったがその時に比べて圧倒的に魔物が多いというだけだ。見た目は若いがエルフだし五十年前もここにいたところでなんら不思議はない。もしかして一回目の休憩の時もこのことを考えていたのではないだろうか。ラーサムに向かった獣人は援軍を呼びに行ったそうだ。


「君たちは既に演習を必要以上にこなしている。だからここから演習ではなく緊急依頼だ。正直今は魔物を抑えるのでいっぱいで、少しずつだが押され始めている」


 確かに戦っている監視員は少しずつこちらに下がってきている。一人倒れればあっという間に俺たち、さらにはラーサムにまで押し寄せるだろう。


「せめて援軍が来るまで、僕たちと共に戦ってもらえないだろうか? もちろん戦果に応じて報酬が出るしランク3に昇格させたうえでボーナスポイントが付く」


 緊急依頼時のシステムやボーナスポイントなどの説明は受けていないが、この異常事態だ、そんな暇もない。後で聞いたが本来緊急依頼は準備の時間が必要なことが多いためそこで説明するらしい。それに毎回ランクやボーナスポイント、報酬がシステムも含め違うことがあるから毎回説明することになるそうだ。


「また君たちは演習として既に戦い続けている。参加を拒んだからといって昇格が取り消しになることはないし責める者も出させない。参加は君たちの自由だ。だが、一人でも多く参加してくれることを願う」


 俺はもちろん参加だ。ラーサムには十分愛着が湧いている。疲れていようが戦えるなら戦いたい。それは他の人も一緒なのか、全員参加するようだ。


「ありがとう。では指示を出すから従ってくれ」


 指示といっても戦いやすいようさっきまでと同じようにグループ単位で遠距離攻撃をし、それでもこっちに来た奴を近距離戦に長ける者が倒すだけだ。ただ今回は演習ではないので防御の魔法を使っている人もいる。




 しばらく戦いが続く、押されることはないがなかなか押し返すこともできない状態。

 痺れを切らしたのか怒号が聞こえてくる。


「だーもう! 援軍はまだかっ!?」


 そう、距離的にもそろそろ誰か来てもいいと思うんだがそんな気配がない。

 休憩のローテーションは続いているが疲労は溜まるしポーションの数だって限りがある。


 援軍を呼びに行った獣人が帰ってきたが、各地で同様の現象が起きていて対応が追い付かず、こっちにも援軍を回すところまで決めてこっちに戻ってきたそうだ。

 確実にそうとも限らんがここは弱い魔物ばかりだから後回しにされてる可能性が高い気がする。つまり援軍がいつ来るかわからない。


 しかし絶望はまだまだ加速する。


「カラースライムが出たぞ!」

「ゴブリンが【剣術】スキルを……まさかハイゴブリンか!?」

「なんでマッドリザードがいるんだ!」

「ウソ……でしょ……」

「聞いてねえぞこんなの!」


 慌てて監視員――いやもうそれは終わったか――が説明を加える。

 数が少なくなって来た代わりに本来この近辺にはいないはずの上位個体が姿を現し始めたのだ。

 カラースライムはその色に見合った魔法スキルを持ったスライム、ハイゴブリンが個体ごとに【剣術】などの戦闘スキルを持ったゴブリン、マッドリザードは【土魔法】を持っていてロワリザードより一回り大きく茶色い鱗は頑丈。

 因みにイメージで魔法を使う人間と違い、魔物は本能で使うため攻撃が単純な分詠唱を必要としないと以前ルナから聞いた。

 そんな上位個体たちは演習参加者には荷が重いと監視員をしていた高ランク冒険者が抑えているが全体的に怪我人が増えてきたし、疲労の色が濃い。

 俺はグループを離れ上位個体と戦う側。ルナの特訓のおかげかこいつらは強く感じないが数が多い。


 もう一度さっきの獣人冒険者がラーサムに走っていったが、いつ崩れてもおかしくなくなった以上全員必死で、休憩は治療時のみ。俺も手が空いたときにポーションをちびちび飲むのを繰り返している。




 夕暮れになるほどの時間の経過もあるかもだが、全員の奮戦のおかげで魔物が少なくなってきた。その分こちらは疲弊しているので押し返せてはいないが。

 それでも終わりが見えたことで冒険者たちはさらに気合を入れる。もう一踏ん張りだ。


 その時。正面のハイゴブリンが持っていた槍を、斜め横に投げた。

 何かを投げるのは珍しくないため、こちらを狙ったのがすっぽ抜けたのだろうと思いつつ放物線を描く槍が向かう方を確認し、愕然とする。


 その先に、ヴラーデがいた。目の前の魔物や魔法に集中しているのか気付く様子はない。周りも同様だ。戦いの音がうるさいので声も届かないだろう。

 このままだと頭にクリーンヒット、即死コース。

 むかつく奴だが死んでほしいわけじゃない。その未来予想図を頭から放り出し、剣を全力で振る。


「はああああっ!!」


 飛ばした刃が槍を綺麗に切断するが、綺麗すぎて逆に先端の勢いは止まらない。

 くそっ、もう一回は間に合わない!

 走っても当然間に合わないのはわかっているが、それでもヴラーデの元へ急ぐ。




 ヴラーデに当たる直前。ヴラーデをいつも気に掛けているから気付いたのだろうか。そいつはヴラーデを突き飛ばす。


「きゃっ!? ……ちょっと、何す……え?」


 ヴラーデは突き飛ばした相手を咎めようと振り向き、驚愕の表情で停止する。何事かと確認したロティアも同じ表情、ヨルトスも目を見開いている。




 背中に槍が刺さったそいつ――エラウが、地面に倒れた。


「エラウ……? え? ウソ……いや……」


 ヴラーデは地面にへたり込み、


「いやあああああああああああああああ!!!!」


 やがて爆発した感情が叫びとなる。ロティアとヨルトスは我を忘れたかのように突っ立ったまま、周りの人もこちらを見ると停止する。

 そんな隙を魔物が見逃すはずがなく、停止した冒険者に襲いかかる。すぐに我を取り戻していた高ランク冒険者たちが守るが、手が回りきらなかった箇所から重傷者が出始める。


「そうだ……【回復魔法】……かければ……」


 ヴラーデは縋るように震えた声でそう言うと、力任せに槍を抜き【回復魔法】をかける。

 ロティアとヨルトスもポーションを取り出し傷にかけるが、その必死な表情にはどこか諦めの色が見えた。


 四人の元に辿り着いた俺が周りの魔物を倒し、四人の方を見る。抜いた勢いで投げ捨てられた槍の穂にはうっすら魔力が通されている。

 ハイゴブリンは【魔力操作】も使えるのかなどと考える余裕がある自分が恨めしい。

 エラウの傷は治療により塞がろうとしているところだったが、人体の構造が元の世界と同じならば心臓の位置だった、つまり即死だろう。

 それを裏付けるように傷が塞がってもエラウが意識を取り戻す様子はない。


「ちょっと……いつまで寝てんのよ……さっさと起きなさいよ……エラウ……」


 仰向けにして揺らしているがエラウは目覚めない。




 ――消えた命は、戻らない。




「うっ……ぁ……うあぁぁぁあぁぁ……」


 ヴラーデが少し嗚咽を漏らした後、むかつくほど綺麗な夕焼け空を仰いで泣く。ロティアは手で顔を覆い、ヨルトスも俯いていてよく見えないが涙が少し見える。

 ヴラーデには良い印象を持っていなかったからといってざまあみろとは思わない。むしろその姿を見て悪い印象など吹っ飛んでいった。

 こいつだって一人の人間。目標に近付くために一生懸命で、友人・仲間の死には涙する。俺に突っかかってきてたのも今ならご愛嬌と思える。


 しかしそんなヴラーデに影が差す。それに気が付いたのかヴラーデが振り返ればハイゴブリンが棍棒を振りかぶっている。


「ひっ……」


 しまった、完全に忘れてた!

 まずい、間に合う位置にはいるが斬り倒しても振り下ろされる棍棒の勢いは止まらないか……! ならば……


「いや……やめて……いやああああああっ!!」


 ヴラーデが目を閉じ縮こまる。

 直後、鈍い音が響く。




「ぐうぅぅぅ……!」

「え……?」


 衝撃が自分に来なかったからか、それとも苦痛の声が聞こえたからか、ヴラーデが疑問の声を出す。


「いぃ……ってえじゃねえかこのやろーーー!!」


 打撃を受けた左肩の痛みを我慢して右手に持った剣でハイゴブリンを斬る。倒せたのを確認し右手で剣をしまうと同時にポーションを取り出し飲むと、左肩の痛みが消えていく。そして改めて剣を取り出しついでに左手を動かして問題がないかを確認する。

 この服がなかったら粉砕骨折とかしてそうだったな、我ながらよく飛び込んだもんだ。


「アンタ……」

「話は後だ、まだいけるか!?」


 何を言ってるんだろうな俺は。幼馴染が目の前で死んで怯えてる奴に戦いを促すなんて……


 しかし返答を待つ必要はなかった。魔物の集団が突然氷漬けになったのだ。夏どころか冬でも起こらないであろう現象に冒険者たちがざわめく。


 後ろを見れば、そこには――


「ごめんねみんな、お待たせ」


 申し訳なさそうに微笑むギルドマスター、イキュイさんがいた。

 冒険者たちの反応は歓声を上げたり安堵して地面にへたり込んだりと様々。

 イキュイさんはギルドマスターであると同時にランク10の冒険者でもあり、レベル5の【水魔法】から氷魔法を好んで使っているらしく『氷使いのエルフ』と呼ばれている。そのまんまという突っ込みはスルーだ。




 そこからは早かった。たまたま氷漬けから逃れていた魔物を倒して終了。

 被害状況としては、怪我人は治療済みのためなし、死者が数名。そのまま火葬することになった。もちろんこの世界にもアンデッドは存在するのでその予防でもある。

 夜空の下で燃えていく遺体を見て悼む声が聞こえてくる。そしてここにはまだ火の付いていない遺体。その側にしゃがみ込んでいる人物に声を掛ける。


「……まだ決心はつかないか」

「……」


 一瞬こちらを見て再び視線を戻すヴラーデ。ロティアやヨルトスと一緒にイキュイさんにお願いしてエラウの遺体はヴラーデに火葬してもらうことにしたのだ。


「こいつ……お前のこと好きだったんだってさ」


 ヴラーデがこちらを見て目を見開く。ロティアとヨルトスには事前に話すことを了承してもらっている。

 しかしやっぱり気付いてなかったんだな。


「だから、せめて最期くらいはお前の手で……送ってやれ」

「……」


 再び視線をエラウの遺体に向けていたが、しばらくして頷いた。


「……うん」


 そしてヴラーデは立ち上がり詠唱を始める。何を言っているかはやっぱりわからないが、丁寧でゆっくりと想いを込めているのはわかった。途中で涙も流れ始める。


「……[火葬(クリメーション)]」


 その火が消えるまで片時も目を離さなかった。




 ギルドに戻って昇格の手続き。演習に参加していた人はランク3に、上位個体と戦っていた俺はランク4に飛び級した。

 本来であればこの後全員で演習の打ち上げを行う予定だったのだが、死者が出ているため自由参加になった。俺はもちろん辞退した。

 ロティアたちにも今日のお礼と帰ることを告げ、ギルドを出ようとする。


「待って」


 ヴラーデに止められ振り返る。


「私、強くなるわ。私を守って死んだエラウの分まで生きるためにも。そして……アンタに追い付いてみせる」

「そうか。……ん? 俺?」

「ええ」


 幼馴染が死んでその日のうちに立ち直れるのは凄いと思ったが……なんで俺? ルナじゃなくて? まあチート魔女であるところのルナに追い付くのは無理だとは思うが。でも俺魔法使えないし目標にされる意味がわからない。魔導具だよりの俺がヴラーデより強いかどうかも疑問だしな。

 ……将を射んと欲すれば先ず馬を射よってやつだろうか。使い方あってるかは知らんが。


「それと……」


 ヴラーデが目を逸らし顔も赤くする。


「アンタも守ってくれて……その……」


 顔がどんどん赤くなっていき、最後に小さい声で言った。


「……ありがと、ヨータ」


 ……こいつからお礼を言われるとは。ていうか初めて名前呼ばれたな。ずっと『アンタ』だったし。他の三人にはちゃんと呼ばれていたんだが。

 顔が赤いのは性格的に普段お礼を言い慣れてないとかだろうか。ロティアがその役割を担ってそうだし。


「おう、じゃあな」


 改めてギルドから出て帰路に着く。なんかロティアとヨルトスの目が光っていたような気がしたんだが怖かったので無視した。




 家に着いてラーサムで買っておいた夕食を食べる。ルナは勇者召喚の関係で今日は帰れないと聞いているためだ。そしていつも通り風呂に入り自室へ。


 とりあえずヴラーデには認められたということでいい……んだよな。ルナを目標としたうえでその第一段階としてその弟子として知られる俺に追い付く。うん、問題はない。頑張っていってほしいな。

 それに俺もラーサムで活動している以上顔を合わせる機会は多いはずだし、一緒に成長できたらと思う。


 ……一緒に成長とかなんか恥ずかしいな。演習のときは男女共にそれなりの人数だったし学校みたいな感じがあったが、特定の一人を意識し始めると……

 まあエラウの件でロティアが言ってたようにヴラーデはルナという目標がある以上恋愛方向には行かないだろうし、そもそも元の世界に帰ることになれば別れなきゃいけないかもだし、俺もそういう考えは捨ててヴラーデとは良い冒険者仲間でいよう、うん。




 そういえば、死者も出ていたわけだが冒険者をやめる人はいなかった。この世界の人は強いな。俺だったら……


 ……俺だったら? 塞ぎ込んで冒険者をやめていた? いや、あのとき俺はどうしていた?

 エラウがやられたとき、それを気にしないかのようにその周りの魔物を倒していた。身を挺してヴラーデをかばった。その後、幼馴染を失ったばかりの奴に戦いを促した。それ以上の被害を出さないため?

 エラウがやられて、一回も涙を流してない。それなりに仲良くなって恋をしていることも知ったのに? 今日会ったばかりだから?

 そういえば、人型のゴブリンを含む魔物を倒してもなんとも思わなかったのもおかしい。

 一体なんなんだ? 俺が俺じゃないような……


 あの戦いで疲れていたからだろうか、考え事をしていたら眠くなってきたので身を任せて寝ることにした。

次回予告


ルナ「陽太の心が不味い状態だから次回は休んでもらうわよ。代わりに討伐演習の裏で何が起こっていたかをお話しするわ。陽太が知らないことだから今までの一人称視点から三人称視点になるけどね」

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